vetigastropoda.com/micromolluscs/… または researchgate.net/publication/27… (肉抜き話はさらに続きます)
論文にして公表し、巻末には実体験に基づく種ごとの最適温度&茹で時間を、約200種について列挙しました。 Fukuda, H., Haga, T. & Tatara, Y. 2008 (25 Jul.). 𝘕𝘪𝘬𝘶-𝘯𝘶𝘬𝘪: a useful method for anatomical and DNA studies on shell-bearing molluscs. 𝘡𝘰𝘰𝘴𝘺𝘮𝘱𝘰𝘴𝘪𝘢, 1: 15–38.
発表終了後は大勢の人から「私の研究対象はこの分類群だが、何度何秒が適当と思いますか」などと質問攻めに遭いました。同様の質問はあれから14年経った今も時々メールで届きます。多くの論文に niku-nuki の語が平然と現れるようになり、私の当初の目標は達成できました。この時の発表内容は下記..
その過程で自然に洗い流され、除去できるのです。この事実はそれまで和文で書かれた簡単な記事はありましたが、国外の研究者の大半はこの時初めて知ったので、壇上の私は聴衆全体が一斉に、文字通りに「息を呑む」光景を目にしました。直前まで大爆笑の渦だった会場が、一瞬で静まり返りました。...
そしてとどめは、芳賀会員がDNAについて挙げたこの画像でした。同じ種(イシダタミ)に対し、A: MgCl₂で麻酔した生貝、B: 肉抜き個体、C: 生きたまま殻を割ったもの、D: 生貝を固定液に直接浸けた標本、E: 死後丸1日放置した生臭り状態、各々の18S rRNA遺伝子がPCRでどの程度増幅できたかを示します。
結果は明瞭で、なんとBの、肉抜き個体しかうまくいっていません。軟体動物の場合、元々DNA分解酵素を多く持っており、活きのいい生貝でも失敗することが多いのですが、熱を通せば分解酵素は失活できます。また海水中に含まれるマグネシウムも分解酵素の触媒となりよくないのですが、肉抜きすれば..
しかし、この画像から空気が一変しました。軟体を解剖する上でも加熱した肉抜き標本は、生きたままや、直接固定液に浸けたものよりずっと特徴が把握しやすいのです。ズルズルの粘液が程良く固まって気にならなくなるだけでなく、透明な器官も不透明化し、輪廓が明瞭に見て取れるようになるからです。..
出だしは昨日のツイートに挙げた、鍋で巻貝や二枚貝を煮る画像や、「湯沸かしポットが便利」などと説明し、その辺りまでは世界中から集まった聴衆が爆笑していました。これには「日本人何考えてんだ」「加熱した標本が検討に耐えうるのか?」など冷ややかな目も少なからず混ざっていた気がします。..
他国の研究者が「DNAで複数種存在すると判明したが、もはや殻を割ってしまって標本がないので、すぐに論文にできないのが頭が痛い」などとぼやく発表が実際にあり、そのような状況下で、私と共著者の芳賀拓真会員(現、国立科学博物館)は、二人で漫才形式で発表すべく、揃って壇上に上がりました。...
企画され、私も何か喋れと誘われたので、今こそ肉抜きを国外に広める好機と考えて迷わず題材に選びました。昨日のツイートで挙げた英語入りの画像は、その際のプレゼンに用いたものから転用しています。この時の私の最終目標は「niku-nukiを世界共通語にすること」でした。一方、私が発表する直前も...
始まらないと彼らは決め付けていました。私が海外での野外調査で湯沸かし器具を持ち歩き、目の前で肉抜きを披露すると、他国の研究者は例外なく驚嘆しました。そうするうち、2007年にベルギーで世界軟体動物学会 World Congress of Malacology が開かれた際、「微小貝類の研究方法」というシンポが...
ところが、20年ほど前から海外の研究者とコラボする機会を持つうちに気付いたのは、どうやら肉抜きを行うのは日本の貝人だけで、他国の人は、殻と軟体の両方を同時に理想的な状態で得るなんて、不可能なこととして最初から諦めていたのです。だから論文にするには同じ種をとにかく多数得ないと何も...
肉抜き話の続き。先にご紹介した通り、我々日本の貝人にとって肉抜きは日常の一齣であり、改めて説明するまでもない当たり前のこととして受け止められてきました(画像は最近私が肉抜きした南三陸産エゾチグサとホソウミニナ)。日本の貝類図鑑の多くも、巻末で肉抜き方法を紹介するのが定番でした。..
肉抜きだけで延々何時間も熱い議論が続くのは、ごく普通に見られる光景です。 (長くなりすぎたので、別のスレッドにつづく)
このような技術開発に余念がありません。散々苦労して入手した激レア種の虎の子1個体に対し、気合を入れて肉抜きに臨んだにもかかわらず、無惨に失敗した時以上の絶望はこの世にないからです。貝人が学会等で集まると、「遂に俺はあれを抜けた」だの、「頼むからあれの抜き方を教えてくれ」だの、...
筋肉は外せたとしても単純に引っ張ると力が奥まで伝わらないので、殻頂近くにケガキ針という硬い針を用いて、肉眼で見えないほどの小さな孔を開けます。この孔から注射器などで水を勢いよく注入すれば、軟体は殻口方向へ降りてくるのでやがて無傷で取り出せるわけです。日本の貝人は昔から、...
途中で切れ、殻の奥に残ってしまいます。また異なる種ごとに、大きさや形によらず、最適な茹で時間と温度とが儼然と存在します。むしろこの最適条件を見抜くことこそが、肉抜きの成否を決定すると言ってよいでしょう。中には特殊な工夫や道具を必要とする種もあります。細長くて巻数の多い巻貝は、..
肉が難なく殻から外れるのと同じ理窟です。ただ、ここで常に貝人の前に立ちはだかる大きな問題は、肉抜きが容易な種とそうでない種が存在することです。二枚貝類なら単に二枚の殻を開かせれば何とかなりますが、巻貝の、しかも細長くて巻数の多い種はそうはいきません。手荒に茹でて引っ張ると肉が..
ルーティンとして定着しています。その方法は単純で、生貝を茹でるなどで熱を加え、殻から軟体部を引き離すのです。有殻貝類の軟体部は、一部分に集中した筋肉によって殻と繋がっているので、加熱してこの筋肉を硬化させ、殻から外してしまえばよいわけです。煮沸または焼いたサザエやアサリなどの..
いわば「殻を取るか肉を取るか」のジレンマです。しかも厚い殻と蓋を持つ種の場合、固定液が中まで浸透せず軟体が腐ることすらあり、これだと殻も肉も両方失うことになります。肉抜きすればこの問題は一挙に解決できるのです。このため日本では、貝殻愛好者のみならず研究者間でも、肉抜きは日常的な..
を保存するのが理想的です。特に、滅多に出逢えない稀少種など、僅かな個体数で結果を出さねばならない時、肉抜きは大きな援けとなります。生きたまま殻ごとホルマリンやアルコールに浸けてしまったらもはや軟体は抜きにくくなるので、いずれは殻を塩酸で溶かすか、物理的に破壊せねばなりません。...
ことです。本来は貝殻の造形美に魅せられた蒐集家が伝承してきたもので、生貝を死亡後もそのまま放置すると悪臭が酷く、黴や様々な昆虫などを呼んで標本を劣化させるため、これを避けるべく完全に肉を除去するのが目的でした。逆に研究上はむしろ軟体部の検討が必須であり、この場合も殻と軟体部両方..
貝人は洋の東西と時代を問わず存在し、一つの社会を形成するため、必然的に独自の文化と多くの流儀・作法・unwritten rulesが存在します。その典型例が肉抜きで、曰く「肉抜きは貝人の嗜み」。肉抜きとは、殻を持つ貝類の生きている個体に対し、殻と軟体部(肉)の両方を、共に無傷で分離する手法の...
先ほど社寺林さん@Amphidromusと微小陸貝の肉抜きの情報交換をしていて、また飯島元会長の下記ツイートなど拝見しつつ、貝人にとって肉抜きは必須キーワードと再認識しました。因みに「貝人」とは、貝類に強い愛着と継続的な執着を併せ持つ研究者+愛好者の総称で、茶人・歌人・俳人等に似た響き.. twitter.com/a_iijimaa1/sta…
昨晩、当会会員のumiroroさんが挙げられたクロガシラコシボソクチキレツブは、これまで実物を見た人が世界で数人しかおらず、この名前に同定できる人となると更に少ないウルトラレア種です。しかもこの種には知られざるエピソードがあるので、この機会に簡単に紹介します。 twitter.com/sitokairui/sta…