26
「博士。進化したポケモンを、元に戻す事は出来ませんか?」
「残念じゃが、それは不可能じゃ。なぜそんな事を聞く?」
「…ヒトカゲからリザードンって、大分、大きくなりますよね」
「そうじゃな」
「ピカチュウを抱っこしていると、リザードンが時々、羨ましそうな目でこっちを見ているんです」
27
弟は時速5kmで家を出ました。その30分後、弟の忘れ物に気付いた兄は時速15kmで追いかけました。兄が弟に追いつくと、弟は兄の彼女とキスしていました。兄は物陰で茫然と立ち尽くした後、弟の忘れ物をゴミ箱に捨て、時速1kmで家に帰りました。弟と兄の心の距離が縮まるには、何年かかるのでしょうか。
28
34歳になった日の朝、男は唐突に予感する。
「あ…俺、近々死ぬかも」
男は亡くなる前に、疎遠になってた友人も含め、1人1人に会ってまわる事にした。それは、昔話に花を咲かせる事で『案外、悪くない人生だったな』と、己が人生を見つめ直す旅でもあった。その後、死は訪れた。97歳の大往生だった。
29
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
店員はバーコードを読み取る。
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
店員はレジ袋に商品を入れる。
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
3度も聞いてくるなんて、相当お疲れらしい。労いの言葉をかけると、店員は嬉しそうに微笑んだ。お箸は入ってなかった。
30
〝独りが好きな人〟オフ会に参加してきた。
店を貸し切り、全員独りで座り、黙々と酒と食事を楽しむ会だ。勿論、話しかけるのはご法度。沈黙に始まり、沈黙に終わる。
そんなオフ会も、今や参加しているのは俺だけだ。俺は〝蟲毒〟の作り方を思い出しながら酒を飲んだ。毒のように、美味い酒だった。
31
彼女の母姉父は、プロゲーマーだった。
結婚を認めてもらうために、某格ゲーで家族全員に勝つ条件が課せられた。死に物狂いで特訓した結果、なんとか、俺は母姉父に勝つ事が出来た。恋人を抱き締めようとしたら、彼女はコントローラーを手に取った。
「黙っててごめんなさい。一番強いのは、私なの」
32
「浮気なんて、バレなきゃいい話だよな」
「…ここに、拳銃があったとする」
「拳銃?」
「あぁ。低い確率…例えば1/100の確率で、弾が出る拳銃だ。お前はその引鉄を、彼女に向けてこっそり引けるか?」
「……」
「お前がやってるのは、そういう行為なんだよ。ちなみに俺は、既に2回撃たれている」
33
宿題もせず遊ぶ息子に怒り、ゲームは鍵付きの箱に入れた。宿題を済ますまで鍵は開けない。それ以来、息子は必死に勉強した。そして見事にピッキングで鍵を開けられるようになった。思えば、それが奴の最初の〝盗み〟だった。
今や大泥棒となった奴を、俺は止めねばならない。
刑事として、父として。
34
「この病院 "出る"んだってよ」
入院初日から 隣のベッドの爺さんが脅してくる。
「冗談ですよね…」
翌日 目が覚めると 隣のベッドは空だった。看護師曰く そのベッドの人は既に亡くなっていたらしい。
恐怖に怯えていると 昨夜の爺さんは向かいのベッドでニヤニヤしていた
故人のベッドで悪戯するな
35
「PS5欲しいんだよなぁ」
友人のその一言が嬉しかったんだ。最近じゃ、身近な友人はゲームなんてやらなくなって、語り合える相手は俺の周りにすっかりいなくなっていたからだ。
「あー、まだ入手困難だね…。でも大丈夫!再入荷の情報入ったらすぐに知らせるよ♪」
「マジ?悪いな…息子が喜ぶよ」
36
田中 弘
本庄 綾子
白鳥 啓介
全力院 玉蹴之助
神田 淳史
山田 由香里
「まただ…登場人物一覧ページの時点で、もう犯人わかっちまった」
「どうしてわかるの?」
「この推理作家、せっかく謎は面白いのに、同じ名前の子が現実でイジメられないようにって、犯人には必ず存在しない名前つけるんだよ」
37
「俺、彼女出来た」
「マジ!?」
昔ついた嘘を嘘と言えず、架空の彼女との関係は順調だと親友に3年間、報告し続けた。そして、遂に結婚する所まで来た。もはや嘘も限界だ。
「ごめん…彼女なんて実はいないんだ」
「…架空は、彼女だけか?」
「え?」
顔を上げると、親友の姿は何処にも無かった。
38
「ドラ〇えもん、日誌なんてつけてるのか…ちょっと見ちゃえ」
【1月5日】
の〇太君の経過は非常に順調。今回こそセワシ君の未来を変えられそうだ。タイムマシンで戻る度、〇び太君の『初めまして』を聞く事に僕はもう堪えられない。どうか…今回こそ…
「……表紙の〝81回目〟って、もしかして…」
39
私が男と付き合うと、その人が死ぬ。大学の間にそれが3回起きた。私が愛する人は死んでしまうと皆に噂された。それでも恐れず私と付き合ってくれた4人目が今の旦那だ。
そして、私達の間に男の子が産まれた。でも、1年と半年後、最愛の我が子は死んだ。夫だけは今でも死なず、私の傍で微笑んでいる。
40
戦友の戦死報告を受けても、彼は眉1つ動かさなかった。
「お前、何も思わないのか?」
「当然だ。もう慣れたよ」
そんな彼だが、死んだはずの戦友と再会できた時、別人のように泣いていた。
「安心したよ。お前も人の子だったんだな」
「…生還してくれる事には、まだ慣れてないだけさ」
41
「住宅街にも、最近じゃ防犯カメラが増えたなぁ」
ずっと見張られているようで良い気分はしないが、安心と言えば安心だ。
なのに、日課のランニングに言ってる間に空き巣に入られた。たかが30分だから、いつも面倒で鍵をかけていなかったのだ。見ると、家の前の防犯カメラが1つ、無くなっていた。
42
「この度は弊社がご迷惑をおかけしてしまい…申し訳ありません…」
「誠意が感じられんなぁ…」
「誠意?」
「日本にはあるだろう?両手と頭を地面につける、伝統的な謝罪方法がさぁ…」
悔しさに歯を食いしばりながらも、俺は従った。
「この度は申し訳ありません!」
「うん、三点倒立じゃなくてね」
43
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。
「聡君は何入れてたの?」
「昔、君に渡せなかった物だよ」
聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。
「僕と結婚して下さい」
「ふふ…もう1度、式も挙げる?」
彼からの、2度目のプロポーズだった。
44
「呪いの市松人形はありませんか?」
俺はあらゆる手段を駆使して日本中から呪いの市松人形を集めた。そして噂通り、人形達の髪は日に日に伸びていった。
俺は歓喜した。
人形達から髪を根こそぎ収穫し、それを持って病院に駆け込んだ。
「先生、お願いします。この髪を俺の頭皮に移植してください」
45
こんな惨めな新郎がいるだろうか。
なぜかって、俺側の友人席は、全員レンタル友達だからだ。席を埋める程の友人なんて俺にはいない。スピーチをしてくれる親友もレンタルだ。俺との架空の思い出を語る姿に、涙が出そうになる。結婚2年目にして知った事だが、妻の側も、全員レンタルだったらしい。
46
「1024円か…キリの悪い数字ですね」
「いえ、2の10乗ですので、とてもキリの良い数字です」
「では、343は?」
「7×7×7。7は神秘的な数字です」
ふと気になったので、聞いてみる事にした。
「博士の1番好きな数字は何ですか?」
「1029です」
「どんな計算なのです?」
「私と妻が出会った日です」
47
「組長、ウチの組員が殺し屋〝ルシファー〟に殺られました…」
「クソッ!またあの中二病野郎かッ!」
「ですが、腕は確かッス。調べようにも、奴の顔を見て生き残ってる奴がいないんスよ…」
「うるせぇ!必ず捕まえてぶっ殺せ!ところでおめぇ、見ねぇ顔だな。新入りか?」
「ルシファーと申します」
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「…ねぇ」
「ん?」
「洗濯物、靴下は裏返すなって言ったよね?」
「はぁ…いいだろそんくらい」
「そういう問題じゃなくて。思いやりとか無いの?」
「っせぇなぁ…仕事で疲れてるんだよこっちは」
「はぁ?私もアンタのお守りに疲れたんですけど?」
最近の園児のおままごとは、リアル過ぎて怖い。
49
「失礼、警察です。貴女の恋人に殺人容疑がかかっておりまして…」
「え?」
「逃走中の彼について、お話しを聞かせていただきたく…」
ショックで茫然とする私を見かねて、刑事達は質問もそこそこに帰っていった。
彼が…殺人鬼だったなんて……探されちゃう…彼をもっと遠くに…埋め直さないと……。
50
気が狂いそうだ。
もう何時間も、ベルトコンベアーの上を流れてくるペットボトルを眺めている。100本に1本くらい、倒れてるのを直すのが俺の仕事だ。こんな単純作業、人間のする事じゃない。機械にでもやらせせせせせ世せ世せseesese逕溘″縺溘>
「おい、K-203がまた故障したぞ。早く技術者を呼べ」