「娘が最近俺のことを、お父さんじゃなくてパパって呼び間違えるんだよ。それが昔みたいで、なんだか嬉しくてなぁ」 「課長それって…」 「ん?」 「いえ、なんでもないです」 「娘がパパ活始めたんじゃないかって思ってるな?」 「…はい」 「パパ活はな、パパ役を『君』や『さん』付けで呼ぶんだよ」
「俺、彼女出来た」 「マジ!?」 昔ついた嘘を嘘と言えず、架空の彼女との関係は順調だと親友に3年間、報告し続けた。そして、遂に結婚する所まで来た。もはや嘘も限界だ。 「ごめん…彼女なんて実はいないんだ」 「…架空は、彼女だけか?」 「え?」 顔を上げると、親友の姿は何処にも無かった。
下校中の男女がいた。2人は友人同士だ。 「猫って可愛いなぁ」 「なんだよ急に」 「私、将来は猫飼いたいんだ」 「猫はやめとけ」 「どうして?」 「俺、猫エレルギーなんだよ」 「え??なんで私と一緒に住む前提なの??」 「……」 「1つ、聞いてもいい?」 「はい」 「犬なら大丈夫?」
へー。今時は、外出中でもペットの様子を見れるカメラなんてあるんだ。いくつか買って家に設置した。さっそくスマホで確認してみる。目を覚ましたポチが私を探して家の中をウロついている。可愛い。ポチは玄関まで来ると、施錠した扉を叩きながら叫んだ。「誰かぁ!頼む!ここから出してくれぇ!」
弊社社員の残業時間がヒドいので『定時で帰りましょう』と呼びかける動画を作り、毎日視聴を義務付けた。その結果、社員は全力で仕事を定時までに終わらせ、飲みにいくようになった。 「そんな動画でも、役に立つんだな」と役員は言う。「えぇ。ビールの画像を0.03秒、何度も細かく挿入してるんです」
「ドラ〇えもん、日誌なんてつけてるのか…ちょっと見ちゃえ」 【1月5日】 の〇太君の経過は非常に順調。今回こそセワシ君の未来を変えられそうだ。タイムマシンで戻る度、〇び太君の『初めまして』を聞く事に僕はもう堪えられない。どうか…今回こそ… 「……表紙の〝81回目〟って、もしかして…」
合格発表の日。掲示板に僕の番号は無かった。僕は正気を失い、普通じゃあり得ない行動に出る。懐から油性ペンを取り出して掲示板に近づくと、警備員に止められた。 「君、掲示板に自分の番号を書こうとしてるな?」 「よくわかりましたね」 「去年も、そういう奴がいたらしいからな」 「それ、僕です」
「ねぇママ。魔族の定義って何?」 「あぁ、賢い私の坊や。私達に害を成すのが魔族よ」 「でも、熊さんも襲ってくるけど、魔族じゃないよね?」 「坊や。熊は喋らないでしょう?」 「じゃあ、言葉を喋って、僕達を襲うのが魔族なんだね!」 「そうよ。彼らは、自分達をヒトと呼んでるみたいだけど」
「おいバカやめろッ!」 駅のホームで、緊迫した声に振り向くと、線路に飛び込もうとする男を周りの人達が必死に止めていた。(バズるかも…)と思った俺はその様子をスマホで撮る。間一髪で電車が通り過ぎて行った。動画を見返すと、笑顔で手招きする人達が、向かいのホームに一瞬だけ映っていた。
俺のスマホは故障したらしく、通知も来てないのに、時々ブルブルと震えだす。 「きっと寒いんだよ。暖めてあげなよ」と恋人は言った。そういうことをサラッと言える彼女が好きだ。俺はスマホを掌で温めるようにして以来、不思議とスマホは治った。嘘だと思うだろ?その通り。彼女なんていない。
今日は愛しの彼女と水族館デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「お魚♪」と答えた。 今日は大好きな彼女と動物園デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「お肉♪」と答えた。 今日は彼女とお家デート 「夜は何食べたい?」って聞くと彼女は「君♪」と答えた。
それは古いSNSだった。全盛は過ぎたけど、今でも一部の人は愛用しているそうだ。私は新規アカウントを作り、ログインした。教えられた方法で検索すると、1つの会話がヒットした。 『フォローさせていただきました!』 『ありがとうございます♪』 「これが、パパとママが出会った瞬間かぁ…」
登校拒否で引きこもりの僕を父は許さなかった。「性根を叩き直してもらってこい」と 父が昔に通っていた厳しい空手塾に僕は送り込まれた。情けない声ばかりが道場に響く。『もう勘弁して下さい…』 そして、やっと僕は家に帰れた。 「どうだ。少しは成長したか?」 「ううん。全員相手にならなかった」
私事で恐縮ですが、この度、結婚しました。娘と息子を授かり、2人とも今では立派な社会人です。子供達が自立し、趣味の裁縫に没頭する老後は、とても穏やかでした。娘と息子は今、孫達と共に私の周りで泣いています。そろそろお迎えが来たようです。久しぶりに夫に会えます。では皆様も、良い人生を。
「桃太郎や、これを持って行きなさい」 「これは何ですか、お婆さん?」 「きび団子じゃ。これを犬とかキジとか猿とかに振る舞いなさい。きっとお主に尽くしてくれるじゃろう」 「おぉ、それは本当ですか?」 「もちろんじゃ。お爺さんは未だにワシにゾッコンじゃからの」
ゲーム配信をしていると、毒舌アンチに粘着された。調べると、そいつもゲーム配信者らしい。悔しくて、俺はとっておきのプレイ動画の録画を配信した。 『うっわ下手すぎ…ホント才能無ぇな…死んだ方がいいよマジ』 今日も奴の毒舌が冴え渡る。まぁ、その動画、昔のお前のプレイ動画なんだがな。
深夜、彼氏が自宅マンションで寝ているところを、侵入者に刺されて死んだ。金銭は無事だったことから、私怨による犯行と思われ、合鍵を貰っていた私が警察署に呼ばれた。 「あの…私、疑われてるんですか?」 「いえ、合鍵の持ち主は3人いるので」 「はぁ?4人だったんですけど?」 「よくご存知で」
「なんだこれ?」 届いた書留を夫が開くと、中身はご祝儀袋だった。私も首を傾げた。私達はもう結婚7年目なのに。だけど差出人である先輩の名を見て、私は彼の言葉を思い出した。 『ごめん…金無くて結婚式行けない…俺が人気作家になったら、必ずお祝いするから』 ご祝儀袋には、100万が入っていた。
惚れ薬をGetした。私はそれを、彼が離席した隙に彼のカクテルに入れる。彼は席に戻るなりこう言った。 「僕のカクテルを飲んでみてくれ。出来るだろう?」 「…も、勿論よ」 私はそれを口に含みトイレに駆け込んだが、少し飲んでしまった。鏡の自分と目が合う。私は、私のことが少し、好きになれた。
『惚れ薬』をゲットした。小瓶に入った無色透明の液体だ。私はそれを、彼が席を立った隙にそっと飲み物に入れた。そして私達は付き合う事になった。でも、罪悪感から私は全てを白状し「本当に…ごめんなさい」と言って小瓶を見せた。すると、ラベルの用法欄を見た彼は言った。「これ塗るタイプだよ」
ダメだダメだ…! 書けたはいいが、読み返す度につまらなく感じる。俺は尊敬する大作家さんに助言を求める事にした。 『どうしたら納得のいく作品を書けるのでしょうか?』 『簡単だ。私の言う通りにしてみなさい』 俺はコンビニに走り、ウォッカを買って一気に飲んだ。俺の作品が、傑作に化けた。
俺の趣味は、赤本の古本を買うことだ。中に書かれた悪戦苦闘の跡に、彼らの青春を垣間見るのが俺の喜びだった。ある日、某T大の赤本を中古で手に入れたのだが、最後のページにはこう書いてあった。 『君の合格を祈る』 俺はその赤本と、コレクションの数々を、再び世間に放流した。
「ねぇ、この前ノートPCをバスタブに沈めてたよね?」 「ん?あぁ、もう捨てるからな」 「どうしてそこまでしたの?」 「そりゃ当然だろ、個人情報の塊なんだから」 「実は復元できたのよ。貴方の浮気データも一緒にね」 「は!? 嘘だろ!?」 「えぇ、嘘よ。でも、マヌケは見つかったみたいね!」
昔に比べ、幽霊の目撃情報が格段に減った気がするのはなんでだろう? 息子は言った。 「未練が残るほど、この世に魅力が無くなったからだよ」 娘は言った。 「未練が残らないくらい、幸せな人生を歩む人が増えたんだよ」 霊能力者の祖父は言った。 「ワシらの経営努力を無視すんじゃねぇ」
「課長…。12/25の休日出勤は、どうか勘弁してくれませんか」 「今、プロジェクトがどんな状況かわかってるだろ?皆、家族や恋人と過ごしたいのを我慢して出社するんだぞ」 「…娘に、サンタさんから欲しいものを聞いたら『パパとの時間』と言われたんです」 「…プレゼントだ。25日は来なくていい」