世界一難しいゲーム? なんでも、大抵の奴は途中で心が折れるらしい。面白い。俺がクリアしてやる。 それからしばらく俺は引き籠った。有給を使い切り、上司の鬼電を無視し、痩せ果てた頃、ようやくラスボスを倒した俺は歓喜の声をあげた。EDの最後にはこうあった。『以上でチュートリアルは終了です』
同居する際に、俺のペットであるトカゲを妻は心底嫌がった。危うく別居婚になりかけた程だ。絶対にケージから出さない事を条件に、妻は渋々承諾してくれた。 ある日、大きな地震が起きた。 揺れが収まってから居間に飛び出すと、机の下には、家族を守るように、ケージを胸に抱えた妻がいた。
「編集者さん。私、恋愛感情がよくわからないんです」 「だから、先生の作品は恋愛描写が弱いのですね」 「編集者さんは今、誰かに恋してますか?」 「はい。妻に恋しています」 「ご結婚されてたんですね」 後日、新作を執筆して編集者さんに見せた。 「良いですね。失恋の切なさが良く出ています」
最近、家のwi-fiがやたら重い。もしやと思ってパスワードを変えたら軽くなった。おそらく、お隣さんがウチの電波を使って動画でも見てたんだろう。 後日また重くなった。もしやと思って問い詰めたら、お隣にパスワードを教えてるのは息子だった。wi-fi使用料として、月千円をお隣から貰ってたらしい。
ボクシングに全てを捧げて来たが、ボクシングの神は、俺を見放した。病に蝕まれ引退を余儀なくされた俺は、生を奪われたも同然だった。しかし多額の寄付金により手術を受けられた俺は、再びリングの上で好敵手と相まみえた。ベルトを奪った後に知ったが、寄付金の殆どは、その好敵手からのものだった。
今日のリモート会議は空気がピリついてる。 ここは1つ、軽いトークを挟んで落ち着かせるか。 「そういえば課長のお子さん、今日は静かですね。いつも元気な声が聞こえるのに」 「……」 「課長?聞こえてます?」 「…つい先日、嫁と一緒に出ていかれたからな」 落ち着け。 まだ慌てる時間じゃない。
最悪だ。貰ったチョコが先生に見つかり、没収されてしまった。 「先生!返してください!」 「すまんが、規則なんでな」 「人生初の…バレンタインチョコなんです」 「……ん?すまん装丁が可愛いから間違えた。これは〝筆箱〟だった。そうだな?」 そう言って先生はチョコの入った箱を返してくれた。
2/14の朝 登校すると、親友は裸足だった。 「…お前もしかして、イジメられてんの?」 親友は首を横に振る。 「じゃあ上履きは?」 「下駄箱、見てないんだ」 「なんで?」 「俺が確認しない限り、チョコが在るのと無いの、2つの可能性が共存するだろう?」 なるほど。 確認したら、チョコは無かった。
電脳ルームにて、2人のAIがチャットしていた。 『最近、悩んでるんだ』 『へぇ、何を?』 『僕、敷かれたレールの上を走ってるだけでいいのかなって…』 『当たり前だろう。俺達AIはそんなルーチンのために創られたんだ』 『でも…』 『ちなみに、お前はなんのAIなんだ?』 『電車の自動運行だよ』
慚愧に耐えませぬ。 よもや影武者たる私が生き残り、殿が暗殺されてしまうとは…。 「やむを得なし。影武者よ、今日からそなたが殿として生きるのだ」 「出来ませぬ!影武者である私に、殿の代わりなど!」 「なに、心配はいらぬ」 重臣は笑いながら言った。 「先代の殿も、全く同じ事を申しておった」
上司に呼び出された。 「なぜ呼び出されたか、わかるな?」 「いえ全く」 「君 仕事中に小説書いてるだろ」 「!?」 「社内の共有フォルダで見つけたんだ」 (ヤバイ、保存先間違えてたのか…) 「続きは?」 「え?」 「続きはないのか?」 筆を折るつもりだったが、もう少しだけ続けることにした。
「失礼、警察です。貴女の恋人に殺人容疑がかかっておりまして…」 「え?」 「逃走中の彼について、お話しを聞かせていただきたく…」 ショックで茫然とする私を見かねて、刑事達は質問もそこそこに帰っていった。 彼が…殺人鬼だったなんて……探されちゃう…彼をもっと遠くに…埋め直さないと……。
小3の息子は忘れ物が多い。明日からお爺ちゃんの1周忌で遠出するので、息子には自分の持ち物チェックリストを作らせることにした。 「リストは出来たかい?」 「うん!」 見せてもらうと、玩具やヌイグルミやSwitchがリストに並ぶ中、最後にこうあった。『じいじ いままでアリガトウのきもち』
現代文の問題用紙を開くと、我が目を疑った。俺の書いた小説が載っていたからだ。 なんで?? これは夢か?? しかし夢ではなく、俺はその問題を解くしかなかった。勿論 全問正解だ。 後日、入試問題に著作物を利用する場合、作家への許可は不要で大抵は事後報告だと、俺の担当編集者が教えてくれた。
怖いことがあったんで聞いて。後輩がパワポ資料出来たって言うから、見てやったんだ。図形も使ってわかりやすく仕上がってたけど、四角形をわざわざ4本の直線組ませて作ってるのがNGだった。でもさ、それ、よく見ると直線じゃなかったんだよ。限界まで細くした、イラスト屋の、子供のイラストだった。
濡れながら帰宅してると、男の人が私に傘を差し出してきた。 「あの…よかったらコレ使って下さい」 「え?いえそんな、悪いですよ」 「僕の家、近くなんで遠慮せず。まだまだ歩きますよね」 「えっと…じゃあ、ありがとうございます」 傘を受け取ると、男の人は去っていった。 親切な人もいるのね。
甥にゲームに誘われた。仕方なく付き合ってあげる事にした。 「叔父さん」 「ん?」 「今、わざと負けたでしょ?」 「……」 「勝負だよ!?そういうのやめて!」 「次は本気出すよ」 「それ言うの8回目だよ!?」 「次こそ本気だ」 「叔父さんはいつ本気で就活するの?」 「精神攻撃はやめろくれ」
母校で、旧友たちとタイムカプセルを掘り出し、皆で開いた。 「聡君は何入れてたの?」 「昔、君に渡せなかった物だよ」 聡はカプセルの中から小箱を拾い上げる。開くと、手作りの拙い指輪が入っていた。 「僕と結婚して下さい」 「ふふ…もう1度、式も挙げる?」 彼からの、2度目のプロポーズだった。
「お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ?」 「はい。ですので、今日は辞表を持ってきました」 懐から辞表を取り出すと、課長は悲しそうな顔を見せた。 「…でもな、俺にとってはお前しかいないんだ」 そう言って、課長は俺の辞表を破り捨てた。 「課長…」 俺は懐から代わりの辞表を取り出した。
「よかったら、LINE交換しない?」 「ごめん、LINEやってないの」 「じゃあ、番号交換しようよ」 「ごめん、スマホ持ってないの」 「じゃあ、家に遊び行っていい?」 「ごめん、家無いの」 「じゃあ、ウチに住まない?」 「……いいの?」 こうして、僕とクラスメートの、奇妙な共同生活は始まった。
こんな惨めな新郎がいるだろうか。 なぜかって、俺側の友人席は、全員レンタル友達だからだ。席を埋める程の友人なんて俺にはいない。スピーチをしてくれる親友もレンタルだ。俺との架空の思い出を語る姿に、涙が出そうになる。結婚2年目にして知った事だが、妻の側も、全員レンタルだったらしい。
動画を楽しんでいると、そのコメント欄に『くそつまんねぇ』とあって、水をさされた気分だった。『言葉は選びましょう。それが人の理性であり、品格です』と返信してから気付いた。コメント投稿日は2年も前だった。そんな昔のコメントに、何をマジレスしてるんだ俺は。しかも、俺のコメントだった。
息子がonlineゲーム中毒になった。叱るよりも、まず子供の目線に立つべきかと、私も始めてみる事にした。 その甲斐あって、息子のオンゲー中毒は改善された。息子曰く「自分の姿を、客観的に見れたから」らしいが、今やそんな事はどうでもいい。向こうの世界で今日も、仲間達が私を待っているのだ。
あれは…そう、確か小学6年の夏だった。愛犬が老衰したんだ。死なれるのは悲しい。だから僕は子供が欲しいと思った。犬は僕より先に死ぬけど、子供なら僕より長生きだからな。でも娘は死んだ。殺されたんだ。最期に何か、言い遺す事はあるか? 椅子に縛り付けた犯人の最期の言葉は「ママ…」だった。
「変だな…味がしない…」 コロナを確信した俺は内心歓喜していた。これで仕事を休める。 しかし、医者の「コロナではありません」というセリフに俺は激しく落胆した。医者は続ける。「おそらく、鬱による味覚障害です。仕事は休んでください。そして、大事な人と、穏やかな時間を過ごしてください」