すれ違い様に、俺は男の尻ポケットから財布を抜き取る。楽勝だ。 盗んだ財布を懐に入れた瞬間、異変に気付いた。俺の尻から財布が無くなっている。 「しまった…奴は同業者だったか!」 戦利品である財布を開くと、たった542円しか入っていなかった。よし、勝った。121円、俺は得をしたのだから。
ピッチャーマウンドに立つと脳内に声が響いた。 『聞こえるか?』 この声は…先週 事故で亡くなった山田!? 『この試合…どうしても投げたかったんだ…頼む…体を貸してくれ』 俺は少し考え、頷いた。本来ここに立つべきは山田だったのだから。 そして試合に勝った。 未だに山田は体を返してくれない。
「ヤバ…鍵かけたっけ?」 家まで戻って確認すると鍵はかかっていた。よかった、これで安心して買い物にいける。 夕方、歩き疲れて帰宅する。 「……え?あれ?」 取り出した鍵が、何度やっても鍵穴に入らない。不思議に思ってよく見ると、間違って実家の鍵を持ち出していた事に気付いた。
「ねぇ、スマホの動きが遅いんだけど見てくれる?」 機械に疎い姉が、またなんか言ってきた。見てみると、重いアプリをいくつも同時に立ちあげてるし、ブラウザのタブもめちゃくちゃ開いてる。 「あぁ…明らかにメモリ不足だね」 「え?友達との写真や動画は一杯あるよ?」 「そのメモリーじゃくてね」
1番印象に残ってる就活生? 志望動機で「金」と言い切ったやつだな。奴は終始、金への執着と、その期待値が最も高い弊社へのビジョンを述べてやがった。「最後に何か質問はありますか?」と人事が聞くと役員の俺にこう質問しやがった。「あなたの年収はいくらですか?」ってな。今では奴が俺の上司だ。
「ひっ…!」 私は恐怖した。 捨てたはずのフランス人形が、今日も玄関前に戻ってきていたからだ。 私は監視カメラを設置して真相を確かめる事にした。 もう1度捨てると、やっぱり人形は戻ってきた。 映像を確認すると、人形を戻していたのは夫だった。 私は恐怖した。 夫は、もっと前に捨てたのに。
新幹線で出張中 車内に緊急警報が流れた 『怪獣が出現しました。当車両は合体ロボになって応戦します。シートベルトをお締め下さい』 パニックに陥る車内 「マジかよ!?」「先に下ろしてくれ!」「俺達を巻き込むな!」「腕部だけは嫌だ!」「俺今月2度目」「脚部も嫌だ!」 結局 客先には遅刻した
長年付き合った彼氏にフラれた姉は、死ぬほど凹んでいた。心配になって部屋に様子を見に行くと、泣きながらPCのキーボードを一心不乱に叩いていた。 「何してるの?」 「今の気持ちだからこそ書ける文章が、ある気がするの」 姉が作家志望だと、初めて知らされた。 きっと、姉ちゃんならなれるよ。
まだスマホも携帯も無かった時代に、どうやってデートに誘ったかって?家の電話に直接かけてたんだよ。好きな子を夏祭りに誘う時の電話は、本当に緊張したものさ。はは、お兄さんが電話に出た時なんて、すごく気まずかったよ。後で教えてもらったんだけど、お兄さんなんていないそうだ。
「息子よ。どうしても家業を継いでくれないのか…」 「うん…もう決めたんだ」 「せっかく技術を伝授してきたというのに…」 「悪いけど僕は僕の人生を歩みたいんだ」 「Youtuberになりたいのか」 「…あぁ、そうだよ」 「なら、どうして…」 「お父さんのチャンネルを継ぐんじゃ、意味ないんだよ!」
人生の1/3は睡眠である。だから私は夢を楽しむことにした。これで人生の3/3を起きてるも同然だ。すると、夢が楽しい。起きてる時間が勿体ない程だ。私は薬を飲んで眠る時間を増やすことにした。 あれ? おかしいな。 今夜の夢は、なかなか覚めない。 先立ったはずの妻が、ずっと、隣で微笑んでいる。
同窓会でAさんに会った。俺の初恋の人だ。友人が俺とAさんの前で軽口を叩く「そう言えばお前、Aの事好きだったよな」酒の席とは言え、本人の前でかつての恋心を暴露されるのは良い気分じゃない。Aさんも反応に困ってる風で、苦笑いを浮かべていた。 帰り際、Aさんは俺の耳元でこう囁いた。 「今は?」
「思えば、お前とは随分と旅したなぁ…ピカチュウ」 「ピカ♪」 「お前と山ではぐれた時は、もう2度と会えないかと思ったよ」 「ピカ!」 「もういいよ、ピカチュウ」 「ピカ?」 「ずっと…演じてくれてたんだろう?」 「……」 「もう、いいんだ。ありがとう、メタモン」 「…………モン」
恐ろしい体験をした。 日頃の寝不足もあり、ウトウトしていると、氷のように冷たい手に足首を掴まれたんだ。 「うおっ!?」 びっくりして起きたが、当然、誰もいない。気味が悪いんで俺は急いで風呂場を出て毛布にくるまった。後で思ったんだが、湯舟で寝る俺を、ヤツは助けてくれたのかもしれない。
あれ?俺は今、車にはねられたはずじゃ…? 振り返ると、地面に倒れてる俺の姿が見えた。そうか…今の俺は霊体ってやつか。俺の身体の周りには人が集まり、AEDで心肺蘇生を試みてくれている。 頼む!助けてくれ…!お、やった!俺が息を吹き返した!意識も回復したみたいだ!…じゃあ俺はなんだ?
「先輩」 「なんだ」 「ここの処理、10行も使ってますけど、俺なら5行で書けます」 「覚えておけ新人。プログラムは、短けりゃいいってもんじゃねぇんだ」 「じゃあこのコメント行も必要ですか?」 「どれだ」 「この、延々とお経が書いてある部分です」 「それは絶対に消すな。なぜかサーバが落ちる」
「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri 今日の天気は?」 「……」 「ヘイSiri?」 「はい、なんでしょう?」 「今日の天気は?」 「雨です」 時々ウチのSiriは調子が悪くなる。修理に出しても異常なし。なんでだろうなと思い返してみると、全て、彼女とデートした翌日の事だった。
「かーねーしょんください!」 男の子はヒマワリみたいな笑顔で俺にそう言った。両手の上には沢山の10円玉がある。 しかし、それでは1輪しか買えない。 だが、金額なんて些末だ。伝わるべきことがしっかりと伝われば、世の中はそれでいいのだ。だから俺はこう伝えた。 「坊主。ウチは八百屋なんだ」
父の訃報が届いた。 俺が歌手を目指して家を飛び出したその日から、俺は勘当されてると言うのに、今更どの面下げて葬式に出ろって言うんだ。 出棺される父を見送る。話によると、出棺の際に流す曲は、予め指定できるらしい。それは、父の遺言の1つだったそうだ。流れたのは、俺のデビュー曲だった。
コロナも落ち着いて約2年ぶりの出社解禁だ。何やら上司達がゲートでキャッキャしてる。なんだろう?聞き耳を立ててみた。 「いやぁ いいですなぁ!」 「いいですなぁ!」 「久しぶり過ぎて、新卒時代を思い出しますなぁ!」 「わかります!ゲートを潜る時のあの高揚感!」 「よし、もう1回通ろう」
「HEY彼女!俺で妥協しなぁい?」 「気に入らない」 「…ですよね」 「違うよ。そうやってフザけて、断られても傷付かないよう予防線を張ってるのが気に入らないの」 「!?」 「失敗を恐れないで。ほら、もう1度真剣に言ってみて?」 「…お姉さん、俺とお茶してくれませんか?」 「僕、男です」
ゴーストタウンを探索していると、道端に2人の古いご遺体があった。服装からして2人とも女の子か。2人は手を固く握りあっていた。おそらく目の前のビルから飛び降りての心中だろう。こんな世の中だ、珍しくもない。よく見ると、2人は手を繋いでいなかった。片方が片方の手首を、固く固く握っていた。
奇妙な新連載がスタートした。 第1話目のはずなのに、第100話と表記されてるのだ。最初は印刷ミスかと思ったが、翌週は99話と記載されてた。なるほど、そうか。この物語は、過去に遡っていく話なのか。真の1話目には何が仕組まれているのかと、俺は毎週楽しみに読んだ。76話目で打ち切りになった。
やぁ。私は犬の言葉を理解する研究を成功させた者じゃ。 「ワンワン!」 この元気に吠えているのは、犬のジョンじゃ。 「ワンワン!」 んん?何を言ってるのかさっぱりわからん。まさか文句じゃあるまいな?「犬の言葉を理解したい」と言ったのは君じゃぞ?今更、人間に戻りたいのか?ん?ん?
「本当にいいんですか?この物件は、幽霊が出ると評判ですが…」 「いいんです」 俺は荷物の開封を終え、部屋の中を見て回った。柱にはペンで120cmと書かれてる。身長を測った跡だ。ふと、人の気配がして振り向いたけど、誰もいなかった。 母さん? ただいま 俺、今はもう178cmもあるんだよ