26
「変だな…味がしない…」
コロナを確信した俺は内心歓喜していた。これで仕事を休める。
しかし、医者の「コロナではありません」というセリフに俺は激しく落胆した。医者は続ける。「おそらく、鬱による味覚障害です。仕事は休んでください。そして、大事な人と、穏やかな時間を過ごしてください」
27
大好きな人に告白した。
「私より背の低い人はちょっと…」
フラれた俺は骨延長手術を受けてリトライした。
「私より年収低い人はちょっと…」
出世を繰り返し、役員になった。
「太ってる人は…」
痩せた。
「顔が好みじゃなくて…」
整形した。
「私より年下はちょっと…」
僕の方が、年上になった。
28
34歳になった日の朝、男は唐突に予感する。
「あ…俺、近々死ぬかも」
男は亡くなる前に、疎遠になってた友人も含め、1人1人に会ってまわる事にした。それは、昔話に花を咲かせる事で『案外、悪くない人生だったな』と、己が人生を見つめ直す旅でもあった。その後、死は訪れた。97歳の大往生だった。
29
「ねぇねぇ、ママはパパとどうやって出会ったの?」
「そうねぇ…あれは、私が海を眺めながら1人で泣いてた時だったの。パパが通りかかって、声をかけてくれたのよ」
「わぁ、素敵!なんて声かけてくれたの?」
「『どしたん?話聞こうか?』ってコメントくれたの」
「海ってもしかして、電子の海?」
30
俺が出世したくない理由は簡単だ。
俺より倍以上も長く勤めてる上司が毎日、自分のデスクで手作り弁当を食べているからだ。昼飯すら贅沢出来ない出世に何の意味があるのか。俺は皮肉も込めて上司に「お昼どっか行かないんですか?」と聞くと上司は言った「妻の弁当以上に、贅沢なものは無いからな」
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俺の目の前で、おっちゃんがひったくりにあった。俺は急いで犯人を追いかけ鞄を取り返してやった。
後日 就活の面接に向かうと、あの時のおっちゃんがいた。志望会社の役員だった。
「君のような若者と私は働きたい」と言われ内定ゲット。その夜、俺はひったくり犯を演じてくれた友人と祝杯をあげた。
32
父は寡黙で照れ屋だから、大事な言葉はいつもお酒の力を借りて言う。
でも、酔った勢いで褒められても、心がこもって無いみたいで、少し嫌だった。
私が志望校に合格した日、父からビール片手に「よく頑張ったな」と言われた時も同じ気分だった。その手に持っていたのが、ノンアルだと気付くまでは。
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小学校で、給食の時間、女子が転んでカレーを僕にブチまけた。
女子は泣きそうになってる。泣きたいのは僕の方だけど、我慢してこう言った。「ごめんね、僕のTシャツがカレー食べちゃった」
その日以来、僕のあだ名はスモーカー大佐になった。でも1つ気になる事があるんだ。スモーカー大佐って誰?
35
昔の事だから言うわ。
性欲ピークだった大学時代、講義サボってバイトして初風俗行ったんよ。んで、ピロートーク中、嬢はこう言ったんよ「私、大学行きたくてお金貯めてるんです」
俺は俺が無性に恥ずかしくなった。講義は卒業まで2度とサボらなかった。嬢のパネル写真は、いつの間にか無くなってた。
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弟は時速5kmで家を出ました。その30分後、弟の忘れ物に気付いた兄は時速15kmで追いかけました。兄が弟に追いつくと、弟は兄の彼女とキスしていました。兄は物陰で茫然と立ち尽くした後、弟の忘れ物をゴミ箱に捨て、時速1kmで家に帰りました。弟と兄の心の距離が縮まるには、何年かかるのでしょうか。
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俳優の夢を諦めた時、人生が一気に色褪せた。
どうやって死のうかと毎日考えてた俺に友人が言った。
「死ぬ前に、この漫画読んどけ」
それが、尋常じゃないくらい面白い。あっという間に最新刊まで読んだが、まだ完結してないらしく、親友に聞いてみた。「なぁ、HUNTER×HUNTERの続き、いつ出るんだ?」
38
「PS5欲しいんだよなぁ」
友人のその一言が嬉しかったんだ。最近じゃ、身近な友人はゲームなんてやらなくなって、語り合える相手は俺の周りにすっかりいなくなっていたからだ。
「あー、まだ入手困難だね…。でも大丈夫!再入荷の情報入ったらすぐに知らせるよ♪」
「マジ?悪いな…息子が喜ぶよ」
39
私には尊敬する作家さんがいる。彼の作品はどれも★2.0を切っており、レビューは酷評の嵐だ。なのに、彼は世間の評判を気にせず、息をするように作品を出し続けている。その尊敬すべき鋼の精神はどうやって培われたのか、本人にメールで聞いてみると、返信があった。『教えないで欲しかった……』
40
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
店員はバーコードを読み取る。
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
店員はレジ袋に商品を入れる。
「お箸はおつけしますか?」
「はい」
3度も聞いてくるなんて、相当お疲れらしい。労いの言葉をかけると、店員は嬉しそうに微笑んだ。お箸は入ってなかった。
41
「先輩」
「なんだ」
「ここの処理、10行も使ってますけど、俺なら5行で書けます」
「覚えておけ新人。プログラムは、短けりゃいいってもんじゃねぇんだ」
「じゃあこのコメント行も必要ですか?」
「どれだ」
「この、延々とお経が書いてある部分です」
「それは絶対に消すな。なぜかサーバが落ちる」
42
バイトでレジしてると、お手本のような恋人繋ぎをしてるカップルが来た。会計の時ですら2人は手を放さない。彼氏が財布を取り出し、彼女が紙幣を抜き取ってあげる共同作業。ここはホームセンターだが、そういうのはホームに帰ってからやれ。イラつきながら商品を確認すると、接着剤を剥がす液だった。
43
面接官やってると、就活生のSNSアカウントを裏で調査しておくなんて基本中の基本だ。いま俺の目の前にいる就活生は、SNS上でも真面目で、全く問題無かった。
「では最後に、何か質問はありますか?」
「面接官さんは先週からSNS上で女の子に猛アタックしてましたが、会えました?」
「…………いえ」
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大好きな人に告白した。
「私より背の低い人はちょっと…」
フラれた俺は骨延長手術を受けてリトライした。
「私より年収低い人はちょっと…」
出世を繰り返し、役員になった。
「太ってる人は…」
痩せた。
「顔が好みじゃなくて…」
整形した。
「私より年下はちょっと…」
僕の方が、年上になった。
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「本当にいいんですか?この物件は、幽霊が出ると評判ですが…」
「いいんです」
俺は荷物の開封を終え、部屋の中を見て回った。柱にはペンで120cmと書かれてる。身長を測った跡だ。ふと、人の気配がして振り向いたけど、誰もいなかった。
母さん?
ただいま
俺、今はもう178cmもあるんだよ
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「ママはどうしてパパと結婚したの?」
「私がレンタル屋でバイトしてた頃、パパは常連さんだったのよ。いつも借りたビデオは最初まで巻き戻してから返してくれた。それで、あぁ そういう気遣いが出来る人と結婚したいなぁ…って思ったの」
幸せそうに語るママに私は更に聞いた。
「巻き戻しって何?」
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娘のSNSアカウントを見ていたら、最近、娘に彼氏が出来たとわかった。そうか、もうそんな年頃か。
「彼氏が出来たようだな」
「え!?」
「大事にしなさい。彼は良い青年だ…」
「会ったことないのに?」
「パパな、6つの女の子アカウントを持ってるんだが、そのどれで誘惑しても、乗らなかったんだ」
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久々にDMが来た。知らないアカウントからだ。
『ワシじゃよワシ。最近、SNSってのが流行ってるんじゃろ?ワシも始めてみたんでよろしゅうな』
ワシワシ詐欺かと思ったけど、お母さんに確認したら本当にお爺ちゃんだった。その歳で新しいモノに挑戦するお爺ちゃんを私は心底尊敬した。でもそれmixi。
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最近どういう訳か、20代後半の男女グループの宿泊客が増えている。どれも30人くらいの大所帯だった。旅館側が言うのもなんだけど、大人ならもっと、良い旅館に泊まれるだろうに。気になったので、どういう集まりなのか聞いてみた。
「昔、コロナで行けなかった修学旅行を今、取り戻してるんですよ」
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急に彼氏に「猫っぽいよね」って言われた。
「そう?」
「昔飼ってた猫がミャーって言うんだ。ミャーって呼んでいい?」
「……浮気してる?」
「は?なんで?」
「無理に渾名をつけるのは、浮気相手と統一して呼び間違いを防ぐためって聞いたから」
「そんなわけないだろう、美弥」
「私は萌香よ」