ナチスが選挙で掲げていた経済政策は当時の与党とは全く違って、政府支出を増やして公共事業を拡大させ(例:アウトバーン建設)、国内経済全体を刺激し景気回復を狙うというものだったのだ。金持ちや小金持ちからしたら「これしかない」と言える政策なのだ。 (5/11)
この研究ではドイツの各州の政府支出、所得税、源泉徴収、法人税に関するデータを新たに収集して緊縮政策の「厳しさ」を測定し、選挙区レベルのナチスの得票を使った分析を行ったのだ。 (6/11)
統計分析の結果、厳しい緊縮策が実施されているところほど、ナチスへの得票が増えていたことが明らかになったのだ。さらに同時に、他の研究でも言われていたことだけど、失業率が高いところほど共産党への得票が増えていたこともわかったのだ。 (7/11)
当時は政府支出の削減によって失業者への社会保障もカットされていたから、労働者や失業者にも緊縮策は不人気だったんだけど、大量にいた失業者達が求めたのはより個別的な再分配政策、つまり共産党が掲げる社会保障の拡大だったのだ。 (8/11)
つまり、ナチス台頭の背後にいたのは「持たざるもの(失業者)」ではなく、「持てるもの(中/上流層)」だったのだ。小金持ち達は失業する恐れは無かったけど、緊縮策が続くことで自分たちがさらに貧しくなることを恐れていたのだ。 (9/11)
当時のワイマール政権に他にとりうる政策的な選択肢があったかというと、なかなか難しいところなのだ。事実、ヒトラーが政権についてからドイツ経済は爆速で回復するのだ。でも正解を出したのがナチスだったからこそ、その後の破局に繋がってしまったのだ…。 (10/11)
今回の論文のワーキングペーパー版はここから読めるのだ。 anderson.ucla.edu/Documents/area… 緊縮財政と政治の分極化(polarization)は現代にも通じる問題なのだ(例えばギリシャ)。ドイツの経験には学ぶところが多すぎるのだ…。 (11/11)
前回の世界恐慌と緊縮財政の話にも関連するけど、今回は金融危機の帰結について考えてみたいのだ。1931年のドイツの金融危機はナチスの台頭にどう影響を及ぼしたのかを、ユダヤ系銀行の破綻と関連させて分析した研究を掻い摘んで紹介するのだ。 (1/15)
ナチスのスタイリッシュな制服はヒューゴ・ボスによるデザインであることはよく知られているのだ。そんなヒューゴ・ボスのように政権掌握以前からナチスと関わっていた企業はヒトラーの首相就任で得をしていたのか?を分析した有名な研究があるのだ。 (1/10)
ナチスを支援していた企業はヒトラーが首相に就任したことでどんな得をしたのか?その答えの1つが株なのだ。 そもそも首相就任以前から上昇トレンドにあったとは言え、ナチを支援した企業はヒトラーが首相になると株価が上がっていた、というのを明らかにしたのがこの研究なのだ。 (2/10)
統計分析の結果、ヒトラー首相就任直後である1933年1-3月に、 1)ナチスとのコネがある企業はそうでない企業と比較して8%利回りが高かった 2)企業規模が大きいほどコネの効果が大きかった ということがわかったのだ。コネ、バンザイ〜イ!!って感じなのだ。 (5/10)
ひぇ〜〜!!独裁制の専門家(豊田先生/アジア経済研究所)が比較政治学の知見と含意をもとに日本政治を考える連載が始まったのだ。こりゃあ読むしかないのだ…。 まさにお尻さんがやりたかったことなのだ!お尻さんの論文紹介の1000000倍はタメになるから読んでほしいのだ…! hbol.jp/192672/2
ワルキューレおじさんの個人的オモシロポイントはここら辺なのだ。随分と舐められたものなのだ…。 「年収160万円」からの脱出、還暦を機に大学教授を目指してみた 連戦連敗、60歳からのハローワーク wedge.ismedia.jp/articles/-/162…
これまでは「誰がナチスに投票してきたのか?」という話をしてきたけど、それを裏返すと「誰がナチスに投票しなかったのか?」という問いが生じるのだ。 答えは簡単、カトリック教徒なんだけど、それを詳細に分析した研究を紹介するのだ。分析手法の話もするから超大作になってしまったのだ! (1/20)
カトリック教会が元々支持していたのは「中央党(Zentrum)」なのだ。1870年に創設された中央党はずっとカトリック教会の利益を代表していて、教区の神父(司祭)を通して教徒を動員し、中央党に投票させていたのだ。 (2/20)
選挙区のカトリック教徒の割合とナチスの得票率を見比べるとその差は歴然なのだ。ナチスを支持していたのがプロテスタント、支持しなかったのはカトリック…と言えるんだけど、ちゃんと因果的な推論をしようとすると、なかなかややこしいのだ。 (4/20)
1933年に選挙を通じてついに政権を獲得したナチスだけど、元々ナチスは超ニッチな政党でしかなかったのだ。 果たして彼らはナチスを支持してきた人に政権奪取の「お礼」をしたのか?その問いに公務員職の分配という観点から迫った研究を紹介するのだ。 (1/10)
ナチスが実施した「アーリア化政策」によってユダヤ人は政治的にも経済的にも排除されていった訳だけど、それは一体どのような帰結をもたらしたのか?今回は企業におけるユダヤ人排除とその経済的な影響について分析した研究を紹介するのだ。 (1/10)
前回も話した通り、ナチスは「アーリア化」を押し進め、ユダヤ人や反ナチ的な人を徹底的に社会から排除したのだ。その影響は大学にまで及び、例えば数学者(の枠に収まらない)フォン・ノイマンもドイツを去ったのだ。果たして師匠を失った数学者の卵たち(=大学院生)はその後どうなったのか? (1/10)
前回はナチスによる「アーリア化」が博士課程の学生に与えた影響を紹介したけど、今回はより広範にドイツ/オーストリアの大学や科学界を分析した研究を紹介するのだ。優秀な研究者の亡命/追放は、その後半世紀近くも負の影響が継続したみたいなのだ。 (1/10)
ナチスの経済政策は第二次世界大戦前までは確かにGDPを上昇させていたのだ。でも果たして国民の生活レベルは向上していたのか?死亡率などのより “生命” に直結したデータを使った分析によれば、ナチスは国民生活を悪化させていたという研究があるのだ。 (1/9)
ナチスによるホロコーストに代表されるユダヤ人の迫害は、ヨーロッパでは古くから起こっていたのだ。今回は、600年近く前の「黒死病」流行がナチス政権下のユダヤ人迫害に影を落としていたことを実証的に明らかにした研究を紹介するのだ。 (1/11)
『アンネの日記』で知られるアンネ・フランクはナチスの迫害から逃れる為にオランダに移住するも、運悪く逮捕され強制収容所で命を落とすのだ。そうしたナチス占領下のオランダでユダヤ人を救出しようとした人々の活動の成否を分析した実証研究があるのだ。過去最長のお話になるのだ〜! (1/25)
ここでいよいよ実証の出番なのだ。この研究では、当時オランダにいた14万人のユダヤ人の名簿と、強制収容所で亡くなった人の名簿を照らし合わせ、「誰が収容所送りを逃れられたのか?」というデータを作った(!!)のだ。ちょっと信じられない作業量なのだ。 (12/25)
統計分析の結果、マイノリティな宗派の教会の近くに住んでいたユダヤ人ほど、強制収容所送りを逃れた確率が高かったことがわかったのだ。これはカトリック、プロテスタント、プロテスタント分派全てにおいて言えることなのだ。 (15/25)