SCは社会関係の充実度合を表していて、自発的に作られた水平的なグループ(メンバー間は平等な関係)やネットワークのような “人々の豊かな繋がり”が “豊かな社会”をもたらすのだ。その主張自体は大いに納得できるけど、この研究はSCの “ダークサイド”に注目しているところが面白いポイントなのだ (3/15)
社会関係資本(ソーシャル・キャピタル:以下、SCと略すのだ)という概念を一躍有名にしたのはパットナムの2冊の本なのだ。それぞれイタリアとアメリカの地方政治を分析しているんだけど、要は「市民社会」が良い暮らしには必要、ということを言っているのだ。 (2/15)
ナチスは政権を奪取する以前の1932年時点で120万人、1933年末までには390万人もの党員がいたのだ。1920年には100人ちょっとだった党員が何故ここまで増えたのか?その答えに「社会関係資本」の視点から迫った研究があるのだ。 (1/15)
ナチズムは国家のあらゆる部分を侵食したんだけど、司法制度もその例外ではなかったのだ。特に悪名高いのが「人民法廷」と呼ばれる反逆罪専門の裁判所なのだ。今回はその人民法廷やナチス政権下の裁判がどういうものだったか、特に死刑判決に注目した研究を紹介するのだ。 (1/10)
論文はここから読めるのだ。 nber.org/papers/w20150 もう5年ぐらい前から更新が続いてる論文で、この前久しぶりにアップデートされたから目を通したらめちゃくちゃ洗練されてて笑ったのだ〜。 (12/12)
これらの分析からわかることは、アウトバーンは1934年時点で確かにナチスの支持を増やしたけど、それは (1) 失業問題を解決したからでは無く (2)自動車所有者の人気を得たからでも無く (3)プロパガンダを通じて (4)ナチスの「有能さ」「強靭さ」を象徴的にアピールできたから と言えるのだ。 (11/12)
ナチスが実施した最も有名な政策の1つが、世界初となった高速道路(アウトバーン)の建設なのだ。果たしてアウトバーンの建設はナチスの支持を強固なものとしたのか?それを実証的に明らかにする研究が行われているのだ。 (1/12)
マスメディアは民主主義を守る時もあれば壊す時もあって、それを決めるのは「誰がメディアをコントロールしているか」だ、というのがこの論文の結論であり、ナチスの経験から得られる教訓なのだ。 (18/19)
演説に効果が無くてラジオに効果があるのは、単純に接触量の問題だと思うのだ。たった一回の演説よりも、毎日聞くラジオの方がプロパガンダとしての役割は大きいと思うのだ。そういう意味で、マスメディアはめちゃくちゃ重要なのだ。 (17/19)
特に最後の点は興味深いのだ。プロパガンダは人々の元々の信念を真逆の方向へ変えるのではなく、ただ同じ方向へ強化する(信じる人はより信じ、信じない人はより不信になる)ことが示唆されているのだ。独裁者にとってプロパガンダは「諸刃の剣」かも知れないのだ。 (15/19)
話を一旦まとめると、ナチス・ドイツの文脈では、 1:ラジオ(プロパガンダ)の影響力は確かにあった 2:どのように影響するかは「誰がラジオをコントロールするか」により異なった 3:プロパガンダの影響力は「聞いている人がどんな人か」により異なった と言えるのだ。 (14/19)
ラジオから流れる反ユダヤ的言説は嘘八百だったのだ。元々反ユダヤ的感情を抱いていない人にはそんなのバレバレだったから、ラジオを聞けば聞くほどナチスへの不信が増すし、協力(ユダヤ人迫害)なんかしなくなる、というのがこの論文の著者達の理解なのだ。 (13/19)
歴史的に元々反ユダヤ的だったり、経済的な不平等が大きい地域ではラジオの効果はやっぱり大きかったのだ。 でもそうではない地域では、ラジオの利用率が「高い」ほど、なんとユダヤ人への迫害は「少なかった」のだ!関係が逆転していたのだ! (12/19)
流れをまとめると、 1期(-1929):非政治的ニュースばかり 2期(1929-32):親政府的・親民主主義的報道の増加(ナチスはラジオから排除) 3期(1933.1-):ナチスのプロパガンダのみ という感じでラジオの放送内容は変わっていったのだ。当時の政治状況と合わせるとこんな時系列になるのだ。 (4/19)
ナチスの宣伝相ゲッベルスはプロパガンダにおけるラジオの重要性を理解し、積極的に活用したと言われているのだ。ただ、ラジオがどういう役割を果たしかは、ナチスが政権に着く前後で全く異なっていたことを明らかにした研究があるのだ。 (1/19)
今回の話はこの論文からなのだ。 cambridge.org/core/journals/… 正確にはこの論文は傾向スコア+Difference in Differenceという手法の合わせ技なんだけど、それ以外にも色々行き届きすぎてるバリバリの因果推論の論文で、さすがはAPSR(トップ中のトップジャーナル)掲載論文という感じなのだ〜。 (12/12)
もちろんヒトラーの演説が選挙以外(党員の勧誘とか)に影響を与えた可能性はあるのだ。それに、ヒトラーやナチスによるプロパガンダの全てが影響が無かった訳ではないのだ。ナチスのプロパガンダの話はまた次回するのだ〜。 (11/12)
ヒトラーは確かに演説は上手かったかも知れないのだ。でもそれは選挙に大きな影響を与えるほどではなかったのだ。ヒトラーのパフォーマンスで有権者の心は動かされたかも知れないけど、体は動かされなかった…ということをこの研究は示唆しているのだ。 (10/12)
この分析の結果、ヒトラーの演説の効果はほぼ無かったことがわかったのだ!しかも1932年、ナチスが大躍進した選挙ではマイナスの効果があったのだ。唯一プラスに効いたのは同年の大統領選だけだったのだ。でも結局ヒトラーは負けたから、やっぱりあんまり意味は無かったのだ! (9/12)
そういう「演説のアリ/ナシは偶然の差と考えてもいい」ペアをたくさん用意して、そのペア間の差(ここでは選挙結果)に統計的に意味があるかを検証するのだ。これを専門的には傾向スコアマッチングというのだ(理解や説明に誤りがあればどなたか補足/訂正をお願いしますなのだ)。 (8/12)
同じぐらいの確率で演説の可能性があったのに、片方は実際にあって、片方は実際にはなかった「ペア」に注目すると、そのペアの間では演説があるか否かはもはやくじ引きと同じで、それ以外の部分はとても似ている「双子」みたいなものなのだ。 (7/12)
彼らはまず、「ヒトラーがどこで演説するか?」を説明できるような統計分析をしたのだ。そこでは前回選挙の情勢なんかが使われたのだ。そのモデルから「ヒトラーがその地域で演説する確率」を予測したのだ。この予測に「当たり」と「外れ」があるのがキモなのだ。 (6/12)
「投票前の選挙情勢」が「演説するか否か」だけでなく、「選挙結果」にもプラスの影響を与えるとすると、選挙情勢を考慮しない場合、選挙の効果を過大に推定する(バイアスがかかる)可能性があるのだ。この研究はその問題にかな〜り真剣に取り組んでいるのだ。 (5/12)
演説をどこで・いつするべきかをヒトラーの気持ちになって考えたとき、簡単に大衆を動員できそうな場所や他の政党との競争が激しい場所を優先するはずだけど、どちらも「選挙に効果がありそうな所」と言えるのだ。でも効果があるかどうかは、選挙情勢によるのだ。 (4/12)
あらゆるソースから情報を収集した結果、当該期間にヒトラーは公開演説を455回も行っていたのだ。あとは選挙結果への影響を見るだけ…とは行かないのだ。実は街頭演説のような選挙活動が投票行動に与える影響を推定するのはめちゃくちゃ難しいのだ…。 (3/12)