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試験監督は実は監視ではなくケアの仕事。つつがなく試験が行われるように、室温を調整して、音を殺し、体調不良に対処する。まさにケア的なのは、試験監督が活躍せず目立たないときほど試験が無事に進行しているところ。逆に活躍が目立つのは悪いことが起きているとき。まさに親の仕事そのもの。
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自己啓発や心理教育にもアッパー系とダウナー系がある。前者はアドラーの「課題の分離」みたいな切断系で、色々あるけど理性を使ってスパッと割り切っていこうぜ、という感じ。後者は接続系で「どうにもならないことあるよね。。」みたいな自分の中の非理性や他者といかに付き合っていくかという構え。
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「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」面白い。一読して、現代東京の民俗学だと思ったのだけど、多分これはレンタルさんが「なんもしない」からこそ取れた現代への距離なんでしょうね。「なんもしないで、ただ、いる、だけ」の反社会性と批評性。と、まじめに書くと膝かっくんされそうな本。
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自傷やオーバードーズなどのいわゆる「メンヘラ」文化は、確かに自己破壊的で、痛ましく、危険でもあるのだが、一方で言葉にならないような苦痛をなんらかの目に見える形にすることで心を包みこんでいるようにも思う。苦痛が表現され、人間関係の中に置かれるために、水路となるのが文化。
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中井久夫の「治療文化論」を再読しているのだけど、本当に素晴らしい。こういう圧倒的な教養と日々の臨床が無理なく接続されていくような知性が、メンタルヘルス業界のこの20年でめっきり減ってしまったのはなぜなんだろうか。専門職として確立するというのはそういうことなのかもしれないけど。
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心理学関係の講座やスクールで、中国の人々が学んでいるのは「自我」であるという話は面白い。共同体や家族に絡めとられているところから、境界線を引き、個人になっていくプロセスを心理学の知が補助し、牽引する。そう思うと、「嫌われる勇気」があれだけ売れたのも納得いく。「自我」は売れる。
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“care”と“cure”が語源が違うのも面白い。前者は「嘆き」とか「悲嘆」の意味で、「病床」という含みもあるらしい。後者は「世話」「心配」「責任」の意味。“care”は苦しんでいる側で、“cure”はその周りで世話をする側だとのことで対照的。語源は深層を見せてくれる感じがして、素晴らしいな。
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炎の人類学者と勝手に呼んでいる磯野真穂さんの「ダイエット幻想」を読み始めているのだけど、「本能論は思考停止には適しますが、考えるには適しません」と炎の名言が出てきてシビレる。「本能」で説明してしまうことは、安易に現状肯定になってしまうからこそ、炎の右フック。
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最近、店の人が店の前に椅子を置いてただ座っているのをよく見る。アジア的風景なのだが、不思議なことに日々通りがかると愛着が湧いてきて、つい買ってしまうということが起きる。人間の身体は最強のメディアなのだと思わされる。ウイルスも愛着も媒介する。
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この前聞いたいい話。親密性とは何か?それは震度2の地震があったときに、「地震あったね、大丈夫だった?」「大丈夫、そっちは?」「こっちも大丈夫」と絶対大丈夫なのに、気遣う話ができる関係性。逆に孤独だと、震度2の地震は、なにも起きなかったのと同じことになってしまうのだとのこと。
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以前書いたけど、日の目を見ずに夕闇へと消えゆかんとするエッセイが発見されたので、ブログに載せました。
「心は太陽が南中しているときには目立たない。心は光の中ではなく、影の中に宿る」という河合隼雄論。
「夕闇の心理学―河合隼雄と小室哲哉」
stc-room.blogspot.com/2021/01/blog-p…
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臨床心理学概論の試験で「次の20年の臨床心理学の最重要テーマは何か、日本社会の未来を踏まえてあなたの考えを論じなさい」的な問題を出したら、高齢者とか災害とか自助グループとかも多かったが、最多回答は「孤独」だった。大学生は次の20年の臨床心理学のユーザーでもあるわけだから、説得力ある。
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実際、「自尊心」についての論文は古くからあるが、「自己肯定感」をタイトルとする論文が出始めるのは1995年前後であり、バブル後の新自由主義社会が「自己肯定感」という概念を必要としたのはひとつの事実と思う。そういう意味でも、これは僕らの「この社会のせい」と言い得る。
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素晴らしいエピソード。
「心が一つ存在するために、心は必ず二ついる」
これが今度の本の終わり頃にたどり着くテーゼ。 twitter.com/LampLampLamp6/…
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河合隼雄の「カウンセリングの実際問題」と小沢牧子の「心の専門家はいらない」。大学院生なんかは、この二つを合わせ読みながら、自分の仕事について思索すると勉強になる。この50年の臨床心理学が切り捨ててきたのが社会モデルであったことと、今それこそが回帰する必要があることを思いながら。 twitter.com/yamazakitakaak…
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大学の新入生にレポートの書き方を教える。個人的には以下の2つで評価は30点上がるのではないかと思ってる。
① 必ず4行以内で改行する。
② 4段落程度で1節にして、必ず小見出しを入れる。
同じテキストでも、改行と小見出しを刻むだけで、ベタっとした文字の塊が、きちんとした文章っぽく見える。
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SNSをしていて改めて思うのは、モヤモヤやイライラを愚痴や陰口として世界に発信しても、結局自分に回帰したり、ときに増幅したりしてしまうことがあること。それらは信頼できる他者に受け取られることで、心に収まるものとして変形されていくのだな、と。心は心に受け取られないといけない。
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河合隼雄が「変わるも変わる、人生が360度変わりました」とクライエントが言ったと書いてたけど(確か)、これは人生が1ミリ変わったことの逆説的な表現です。「人が変わる」は結構みんな知ってはいるが、表現するのはとても工夫がいる。この1ミリを描くために文学がある。 twitter.com/ktowhata/statu…
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岸政彦「給水塔」読んでたら、ジャズは聴衆ではなく演奏する人からお金を取るが、それは伝統芸能が客ではなく弟子から金を取るのと同型で、文化とはそもそも「やりたいやつから金を取る」ものだと書いてあって色々考えさせられてしまった。プロとは客を取れる人のことか、弟子を取れる人のことか問題。
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続き
6.伊藤絵美 ケアする人も楽になる認知行動療法入門
7.藤山直樹 集中講義 精神分析
8.諸富祥彦 カール・ロジャース入門
9.中井久夫 治療文化論
10.熊谷晋一郎 みんなの当事者研究
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ハイデガー勉強会。「私とは何か」という問いが、実存を問うのではなく、キャリアを問うことへと変化したのが現代ではないかという議論。僕らを包み込む「世界」に空白が生まれたときには実存を問わざるを得なかったが、「世界」の代わりに「市場」が再包摂すると、「私=キャリア」になる。