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「万世一系の天皇家が~世界に類がない」とする今日の東京新聞社説を読んで思い出したのは北一輝『国体論及び純正社会主義』の次の一文。「笑ふべきは法律学者のみに非らず、倫理学者にても哲学者にても、其の頭蓋骨を横ざまに万世一系の一語に撃たれて悉く白痴となる」(原文ママ)。
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「国民」が11回、「人々」が6回出てくるように、「お言葉」は政府でなく国民に向けられている。国民が天皇個人の気持ちに共感し、生前退位を支持すればそれが「民意」となる。天皇が政府や議会をすっ飛ばして「民」との直接的な回路を開こうとするところに危うさを感じないわけにはいかない。
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正直、またやられたという感じ。AERA本日発売号の皇室特集。8日の天皇の「お言葉」をすんなりと受け止める基調の記事のなかで、私一人が違和感を抱く配役(悪役?)にさせられている。週刊現代の次号に掲載される青木理さんとの対談は、この記事とは全く違う内容になることだけは確かだ。
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台風の影響もあり、日高本線、石北本線、釧網本線、石勝線、根室本線の一部または全線が運休ないしバス代行になっているJR北海道。すでに廃止が決まっている区間も含めて、事実上鉄道網が崩壊している。この深刻な事態はもっと報道されてよいのでないか。
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非常勤で行っている明学のゼミでコーヒー牛乳の話題になったついでに調べてみたら、大正期に東海道線の国府津駅でいまもある東華軒が売り出したのが最初だったらしい。コーヒー牛乳に限らず、牛乳の普及に鉄道の駅が一役買っていたとすれば結構面白い話になるかもしれない。
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政府が大嘗祭を2018年に行う方向で検討に入ったとのニュース。それなら2年後の18年11月に即位礼と大嘗祭を東京で行うことになる。昭和のときは代替わりから1年11か月、平成のときは代替わりから1年10か月後に行ったが、うち1年は服喪期間だった。来年中に退位しないと間に合わない。
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8月8日の「おことば」で、天皇は平成になって自ら公務(など)を増やし、出席の回数が増えた宮中祭祀や、より徹底して全国を回る行幸を象徴天皇の務めの核心に位置づけたのに、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」という名称は「おことば」の趣旨と矛盾していないか。
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岩波天皇皇室辞典を編集したのが縁で、2005年に三笠宮に一度お会いしたことがある。そのときのやりとりについては明日までにメディアに出ると思うが、学者の質問に対して学者として答える姿勢が印象に残った。また皇后や皇太子妃など皇室に嫁いできた女性たちに対する率直な評価にも驚かされた。
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2005年に会った際、三笠宮は皇室に嫁いできた女性のあり方として皇后や皇太子妃には批判的で、常陸宮妃を最も評価する趣旨の発言をされた。皇后も皇太子妃も、天皇や皇太子を差し置いて前に出過ぎているという意味に受け取った。この発言と、実母の貞明皇后に対する見方がつながっていると思う。
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三笠宮に「昭和天皇と貞明皇后の間に確執はありましたでしょうか」と尋ねたとき、明らかに手汗が滲んでいた。初対面の若造がこんな質問をしたら、失礼なことを言うなと一喝される可能性が高いと思ったからだ。だが三笠宮は表情一つ変えず、間髪を入れずに「あったと聞いています」と答えられた。
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正直、このときは感銘を受けた。昭和天皇、秩父宮、高松宮の三兄弟から十歳以上も年が離れていた三笠宮は、母親とこれら三人の息子たちとの関係をやや距離をおいたところから見られたのではないか。「あった」と断定せず、婉曲な言い回しをしたところに学者らしい慎重さを感じた。
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宮内庁記者からの伝聞。現天皇は明治天皇を評価していない。長い天皇制の歴史のなかで明治は伝統から外れた時代であり、戦後の象徴天皇こそ伝統に沿うと考えている。明治節の復活につながる明治の日などもってのほかである。大正天皇については意思に反して引退させられたと考えているようだ。
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韓国のニュースを見ていると、天子が徳を失えば「匹夫」となり、革命が正当化される(孟子の)儒教思想を目のあたりしているかのような錯覚に陥る。いやおそらく錯覚ではないのだろう。日本では決して見られない光景ではないか。
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共同通信から取材を受けた際にも言ったけど、平川氏、大原氏が退位に反対したということは、少なくとも八木、櫻井、渡部、百地各氏も反対する可能性が高い。つまり半数近くが退位に反対することになるわけで、有識者会議の思惑通りには進まなくなる。こういう人達を選んだ時点でわかっていたはずだが。
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今日乗った山形新幹線は東京から山形まで2時間44分かかった。東北新幹線のはやぶさは東京ー仙台を1時間32分で結ぶから、仙山線に特快を復活させれば、山形新幹線よりも早く山形に着けるわけだ。だがそうなると、一体何のために山形新幹線をつくったのかという重大問題が噴出することになる。
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今日の共同配信で天皇と学友のやりとりが公開された。私が最も注目したのは、昭和天皇が摂政になったとき大正天皇と昭和天皇の関係がよくなく、「大正天皇をお守りする人と摂政の昭和天皇をもり立てようとした2派ができ、意見の対立があった」ことを根拠に、天皇が「摂政はよくない」としたところだ。
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2派の対立があったことは元女官の梨木止女子も『椿の局の記』で回想している。大正天皇に近い人たちは「良い御隠居さんに押しこめたてまつって」とよく嘆いていたとも言っている。拙著『大正天皇』で推しこめ説を唱えたことで随分と批判されたが、元女官の回想は正しかったことになる。
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ここで気になるのは、なぜ現天皇がそれを知ってるのかだ。昭和天皇から直接聞いたのか、それとも摂政時代につけていたとされる日記をひそかに読んだのか。その日記には摂政になった当時の昭和天皇の心境が赤裸々に綴られていたのではないか。ちなみに昭和天皇実録には、このあたりに関する記述はない。
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現天皇は2010年7月22日の参与会議で大正天皇に言及し、摂政設置は大正天皇の意思に反するものだったと述べた。そして今年の7月21日にも大正天皇に言及したわけだ。現天皇は皇太子時代に全国を回り、人力車夫や路傍の少女にも声をかけた大正天皇に親近感をもっているように思える。
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かつて啄木が「ふるさとの訛」を聞きに行った上野駅に、最高で95万円払って豪華寝台列車に乗る客専用のホームが作られる。長野県の姨捨駅には豪華寝台列車専用のバーが、尾道駅や東萩駅には豪華寝台列車専用の出入口ができる。誰もが利用できる公共空間としての駅は、過去のものになりつつある。
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東京駅や日光駅には皇室専用の貴賓室がある。原宿駅の近くには宮廷ホームがある。しかし皇室がこれらの施設を使うことはもうほとんどない。JR東日本やJR西日本がこれから走らせる豪華寝台列車は、昭和の天皇に相当する特権身分を平成の日本に作り出し、駅で可視化しようとしているように見える。
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大手出版社の元幹部から聞いた話。天皇退位の目的は改元にある。天変地異の多発する平成を改める必要がある。大正の時は皇太子を摂政にしたため元号が変わらず、亥年に関東大震災などが起こった。2019年の亥年が来るまでに改元しないとさらに大きな出来事が起きる。摂政拒絶の理由もここにある。
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拙著『皇后考』で触れたように、亥年を凶事が起きる年と見なす感覚は貞明皇后も持っていて、関東大震災を予言した。天皇が「おことば」で平成30年までの退位(つまり改元)を匂わせたのは、翌年が亥年に当たっていることも関係しているように見えなくもない。
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今日の朝日新聞読書面で、来年3月までに出る『日本政治思想史』(放送大学教育振興会)の宣伝をさせて頂きました。先日紹介したラジオ講座のテキストです。全くの書き下ろしです。版元が全く広告を出さないので自分で宣伝するしかありません。これまでの研究の総決算です。よろしくお願いいたします。
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寄川粂路元教授が明治学院を提訴したことを東京新聞の記事で知る。私は面識がない。記事では大学の運営方針を批判したこともその一因であるように書いてあるが、私だって昨年5月と9月の連休を全部授業日にするのはおかしいとTwitterで批判した。懲戒解雇されるには相当の理由があったはずだ。