伊豆の美術解剖学者(@kato_anatomy)さんの人気ツイート(古い順)

海辺でウニの死骸を拾ったら、「アリストテレスの提灯(咀嚼器)」を探してみる。骨を美しいと感じる人であれば、精巧な骨格に目を奪われるだろう。
ラオコーン像は発掘当初右上肢が欠損していた。ミケランジェロは右手を頭の後ろに回していると推測し、補修を監督したラファエロは右腕を高くあげていると推測した。後年オリジナルが発見され、20世紀になって取り付けられた。原作はミケランジェロ案に近く、人体や蛇が作る導線も収まり良い。
20世紀美術解剖学の巨匠ゴットフリード・バメスは板書の名手であった。リアルタイムで描かれる人体像は、知識と経験がそのまま反映される。角度を自在に変えることができるのは、頭の中に立体的な像が想起できたからだろう。写真はBammes. Malerei - Grafik - Künstler-anatomie. 2000. より。
筋による区分は、骨の区分と見た目が異なる。特に見た目との差が大きいのが上肢。背側の表層は、うなじから腰にかけてのほぼ全体が上肢の筋で覆われている。緑:頭頸部(体幹)、赤:上肢、黄:体幹、青:下肢。
膝の歴史。膝は起伏が細かく、形態の捉え方が難しい。古代ギリシャ彫刻の膝(添付1枚目のAのみエジプト古王朝)を時代順に並べると、自然な形状に最適化されて行く様子が可視化できる。2枚目の体表図は、大腿の弛緩時(左)と収縮時(右)の膝。
美術解剖学は、How to drawではなく、人体や生物、およびそれらを表現した作品を観る目を養う学問なので、様々なスタイルや趣向を持つ作家に対応できると考えている。How to drawは個人スタイルを教えがちになる。自然物の構造と形態は、個人の造形趣向とは関係なく存在している。
肩甲骨は可動域が大きく、初心者には目測が難しい部位の一つ。しかし、骨の形状は変わらないため、メルクマール(目印)さえ見つけることが出来れば推測することができる。モリールの図版に赤点を加筆(モリールはメルクマールを肩鎖関節の内側に設定しているが、肩峰角も見つけやすい)。
手首の屈曲・伸展は、指の状態によって可動域が変わる。
美術解剖学は、解剖学を学ぶことによって、表現のスキルアップを図ることが主な目的となっているが、人体を含む生物の内部構造そのものが美しく、不思議に満ちている事を知る機会でもある。
回内・回外。美術解剖学の教科書では、尺骨を軸に橈骨が回旋すると言う記述が多い(図、中央)。実際に見慣れている動作では、尺骨も動き、手首の位置があまり変わらない(図、右)。肘筋による尺骨の外転作用。
輪郭線のみで表現された絵画にも美術解剖学は有効である。例えば、輪郭から内側の形に侵入する「回り込み」と呼ばれる形にも自然に反応できるようになる。内部の走行やつながりを知っているから。
上:ゆるく握る。下:堅く握る。Grant's Method of Anatomyより。
前腕など筋が密集して理解しにくい場合は、筋の中央あたりを通過する仮想軸を描くと整理できる。描かれた仮想軸は、筋の主な収縮方向を示す。この方法は、古くはレオナルド・ダ・ヴィンチが採用している。
臀筋端綱(はづな、独:Sitzhalfter)。体表の外形に影響する筋膜の一つ。臀溝(臀部の下縁で横方向に走行する皮膚の溝)を作り、大臀筋の下部線維の一部を押さえる。ここ数年、筋膜ブームとなっているが、外形に影響する筋膜は美術解剖学でも有益な情報となる。カラー図はランツ『臨床解剖学』より。
メディカルイラストレーションにおけるペン画は、スクラッチボードテクニックと呼ばれる描画方法を応用して描かれる。医療用の場合は、この技法に加え、クロスハッチングがない。添付はMichael Harbert氏のデモンストレーション(リンク先は元動画)。youtube.com/watch?v=L2MHlK…
腹直筋の腱画は、個人差があるが、体表のランドマークと概ね一致する。第一腱画は、肋骨弓(水色)と合わさってローマンアーチと呼ばれる起伏(赤線)を作る。第二腱画は、胸郭の下縁、第三腱画はへそあたりに向かい、不完全な第四腱画はさらに下向きのラインを作る。
瞳の色と皮膚の色。美しいデータ。Paul Broca "Instructions générales pour les recherches anthropologiques" Paris, 1879.
フランス生まれのイギリスの彫刻家エドワード(エドゥアルド)・ランテリによるエコルシェの制作プロセス(1902年頃)。教科書用のデモンストレーションというのもあるが、体表を作った後に、筋の溝を作り込んでいる。
表在静脈は血液の回収ルートである。このルートが洋服などで圧迫を受けると血流が阻害され、冷えが起こる。洋服の構造的欠陥である。こうした外的要因の冷えを確認したいのであれば、モンゴルのゲルで暮らす人々のように裸で布団に入ってみれば良い。
平面的な作図方法。こうした方法は、作者によって様々で、人体の独自解釈も見られて興味深い。添付はメディカルイラストレーターもやっていたアーノルド・モローの美術解剖学書より。
歯列と咬合。美術解剖学の教科書ではあまり記載されないが、造形に用いられる機会は案外に多いのではないだろうか。Arnould Moreaux "Trente-deux planches de morphologie des dents" (1956)
解剖学では「普通って何?」の回答を明確に用意している。5割以上の発現率で観察できる構造のことである。しかし、全身が標準構造すなわち普通で構成された人体は、私は見たことがない。
「骨(単一の骨)は嘘をつかないが、骨格(複数の骨の人為的な連結)は嘘をつく」といわれる。CTの出現によって観察に基づく精巧な解剖図でも生体とのズレが確認できるようになった。