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ここ一年ぐらい、コロナ対応で一般病床は減り、高齢者の「腰痛で動けない」とか、「食欲低下が進んで原因を検索したい」みたいな症状について、入院してしっかり調べるといった選択肢が絶えた。処方できる内服薬は毎日のように減る。今日もゾルピデムが出荷調整になった。
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受け持ち施設でもコロナウイルスに感染する患者さんが何人か出ているけれど、今のところは酸素飽和度が危険なぐらいに下がる人はいない。
その代わり(そもそも会話ができないから確実でないとはいえ)倦怠感が大問題で、食欲が全くなくなってしまい、解熱しても食欲が戻らない。
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皮下輸液で粘るのにも限界があり、かといってこの段階からの胃瘻造設などはご家族も望まれず、結果として施設内でお看取り、診断書の病名は「老衰」になる。コロナウイルス感染症は「死因には直接関係しない病名」欄に記載することになる。横浜の施設で老衰が10人、というのはこれなんだと思う。
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先日ひさしぶりに役所の列に並ぶ機会があり。「民間ならこんなに並ばせることなんてないのに!だからお前ら役人はだめなんだ!」みたいな民間大好きおじさんが窓口を専有。列が止まった。
「民間だって、お前みたいなのが窓口に来て業務を止めれば一緒だろうよ」と、並ぶ誰もがきっと思ってた。
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対策を徹底することは本来望ましいことだけれど、「感染者は自己管理が足りない」的な勤勉理論が生まれ、無理をする人が出てしまう。おかしいと思ったら気軽に休める空気を醸成するのも、感染対策の一環として欠かせないけれど、これを徹底と両立させるのはけっこう難しいのだと思う。
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しっかりと感染対策ができていた施設では、発熱こそなかったものの、体調不良を押して勤務を続けたスタッフから一気に広まった。こちらが心配するぐらいにゆるい施設では、ちょっとだるい程度のスタッフが欠勤、後日発熱してPCR陽性。でも発熱の3日前から欠勤だったから拡大を免れた。
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2週間ぐらい前までだったら、救急車を呼んだとして、仮に搬送不可でも、救急隊はとりあえず搬送先を探す努力をしてくれた。
どこかのタイミングで内部ルールが変わったのだろうけれど、今は「酸素飽和度が90ありますから」で、不搬送になる。医療が飽和するってこういうことなんだと今さら。
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今は司令部たる地域の保健所が完全にパンク状態で、独自の指揮系統を持っている救急隊が、騎兵隊よろしく分断された各病院をつないでいるような状態。リソースを増すべき場所はまずそこなのに、未だに「保健所要員を強化しました」的な話はあまり聞こえてこない。
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最近は何日かに一回、「万策尽きた」とか「詰んだ」みたいな言葉がよぎるのだけれど、そもそも現場をこういう状況に追い込まないのが行政の役割で。
明らかにリソースが足りていない、その割にヤフオクやメルカリでは普通に検査キットが買える昨今は、もう「政治の失敗」と叩いていいんじゃないか。
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今日なんかも、PCR陽性事例の患者さんが酸素飽和度低下、かかりつけだった大学病院に問い合わせると「保健所経由での依頼でないと受けられません」との返答。保健所に連絡したら「県に問い合わせて下さい」で、県に連絡すると「市の保健所で」。2往復して詰んだ。
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県と市の連携は、おそらく「お互いに余力があったら助けあう」的な文言があるのだろうけれど、両者がパンクしている昨今、良かれと思って挿入された文言が、たぶん集団無責任体制の根拠になっしまう。ここを責めてもしょうがないのだけれど。
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同時多発的に有熱者の往診依頼が来ている。一人で動ける患者さんは誰もいないのに、同じ廊下に面した個室が軒並み陽性とか。陽性が判明した職員が担当した患者さんがことごとく発熱したとか。
例年のインフルエンザ以上に、感染経路が素人でもわかるような発症パターン。検査キットは尽きた。
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有料老人ホームは、一度突破されると感染が一気に広がる。通年のインフルエンザよりも拡大速度は早い気がする。体調の悪い職員が、ちょっと無理して仕事をしたフロアに軒並み検査陽性が出る。
「休もうよ」と思っても、夜勤なんかは代わりがいない。むしろ今までこうならなかったのが奇跡だった。
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医療費が無料化して、それを単に便利だ、助かったと思ってくれるならば全く問題はないんだけれど、ごくたまに、無料のサービスを、価値がないサービス、見下しても構わないサービスだと勘違いする人が出てくる。
一度そうなると、病院は見下す相手だから暴言も出るし、要求も無茶になっていく。
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埼玉県の訪問診療医が射殺された事例、犯人は母子ともに生活保護を受給していたのだと。「母親の年金を当てにしていた」という動機はそうなるとありえないし、介護が負担だったら、特別養護老人ホームへの入居も比較的簡単にできたはずで。お金じゃないところから生まれた殺意は手に負えない。
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今までがクレーム続き、罵倒や暴言も出るような経過だったら余計に、ある意味憑き物が落ちたようにも聞こえる丁寧な電話を受けたら、「ここで今までの遺恨を断ってリスクをゼロにしたい」という気持ちが生まれる。ふだん線香を上げに行く機会がないドクターでも、こういうケースこそ分からない。
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射殺された埼玉県の訪問診療医がどんな誘われ方をしたのかは分からないけれど、トラブル続きだった患者さんが亡くなった翌日、ご家族から丁寧な謝罪の電話があり、その上で「ぜひ線香を上げに来て下さい」と誘われたら、同業者で行く人多いんじゃないかと思う。
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このニュースは、「丁寧な言葉で謝罪を口にする相手を疑わないと殺される」というのが本当に恐ろしい。悪人がたまにいいことをすると称賛される理屈で、よほどガードを上げておかないとほだされる。
news.tbs.co.jp/newseye/tbs_ne…
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でもこれからたぶん、トラブルリスクの高そうなご家族と被介護者が、地域の医療インフラからまるごとパージされる事例があちこちで発生すると思う。
それがたとえ自業自得とはいえ、じゃあそうなった被介護者を誰が診察するのか。
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埼玉県の事例は、ふだん自分がやっていることとかなり近い業態だし、亡くなったドクターがいた場所に、仮に自分が立って応対したとしても、射殺されなかった未来が想像できない。正直他人事じゃない。
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@itsukoh0702 たぶん、同業者で「自分ならこうしていた」と言える人はいなんじゃないかと思うのです。弔問を断ることは誰もが考えるでしょうけれど、「それをやるとあの人は襲撃してくる」ぐらいの想像が、亡くなったドクターにはあったのかもしれないですし。
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同業者バイアス前提だけれど、大坂のビル火災も、埼玉県の事例も、医療者側には致命的と言えるようなコミュニケーション上のトラブルはなかったんじゃないかと思う。「こうしていればよかったのに」という学びはおそらくなく、「やる奴はどこにでもいる。捕まると死ぬ」という事実だけが残った。
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埼玉県の事例は、仮に弔問に出向かなかったとしても、今度はあの息子がクリニックを襲撃することだって余裕でありえたのだと思う。それこそ大坂のビル火災みたいに。普段どおりのことを続けるだけだけれど、リスクに関する想像は大幅に変えざるを得なくなった。
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「医療に対する期待値が高いご家族と接する際にはこちらも前のめりで行かないとトラブルになる」程度のことは、件のドクターなら当然分かっておられたであろうし。療養型病床への紹介、有料老人ホームへの紹介みたいな手段は、たぶん最初から取れなかったんだろう。
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埼玉県の訪問診療医殺害の事例、胃瘻造設を断られたことが不満として挙げられていたけれど、あれは「主治医との死生観が合わなかった」みたいな話ではなく、「胃瘻チューブ増設、毎日3回の訪問診療で栄養注入、料金負担はしない」までをセットで要求していたんじゃないかと邪推してしまう。。