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ここ数年、中国の報道官とか外交官の会見の映像を見ることが多くなった。ともかく眉目秀麗・頭脳明晰・冷徹無比といった国家エリートたちが続々と登場するので、文章がなかなか終わらせられない日本の老人政治家とか、TVキャスターあがりの合衆国の報道官などと比べて、まあかないっこないなと思う。
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これでテロリズムに抗して民主主義を守れとか、みんながこぞって言い、それによってますます民主主義もへったくれもあったもんじゃなくなるんだろうなあ。
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公園のベンチでホームレスの排除のために記の仕切りが打ち付けられているのを見る度に、公園にホームレスの居場所も作れないで何がダイバーシティだと思う。
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資本制生産を超えることを目指していたはずの生協の展開理論が、小売りチェーン大手を次々に生み出したのを皮肉と考えるべきか、それともこの小売りチェーンの大展開と万年デフレ状態が結びついているのを考えれば、こうして消費資本主義は円寂すると考えるべきなのか。
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大学に就職して初めて教授会に出たとき、出席している教員たちのほとんどが内職しているか、居眠りしているかで驚かされたことがある。しかしオンライン開催で、教授会中にアイロン掛けできる時代が来るとは思っていなかった。
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蓮實重彦の『フランス語の余白に』には、フランス語を習得しろとは言わないが、それなら英語くらいは身に付けておけ、その際、国際親善だの文化交流だのといった美辞麗句に惑わされてはならぬ、外国語というのは外国人と喧嘩するために学ぶものである、という趣旨の一節があった。今でも覚えている。
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大江健三郎没。間違いなくWWII後最大の小説家が亡くなった。でも、周期的に自殺の観念に取り憑かれていた人が、こうして天寿を全うされたのだな、とも思う。大江健三郎ほど、読むこと、書くことが生きることだと教えてくれた小説家はいなかった。
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制服廃止みたいな「セコイ」話は、高校全共闘「後」、むしろ「民青的」な運動だった、との指摘あり。ーそれも承知の上で、ポスト全共闘現象に、今や右から左まで「タダ乗り」して(右の「リベラルのバーカ」からリベラルの「暴力は良くない」まで)「自由でのびのび」はないだろ、とふと思ったまで。
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ブルガリアの空港で乗ったタクシーの運転手が、大学で心理学をやった男だった。空港とホテルの間、行き帰りも同じ運転手にあたり、色々話を聞いた。昔は食えたが自由がなかったから、みんな蜂起した、でもいまや自由にはなったが、金がないから誰も外国には行けない、と言ったのをよく覚えている。
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円安で、教科書に使うフランス語テクストが大幅に価格上昇し、学生に買わせられないような値段になっている。感覚として、プラザ合意以前に逆戻りした感じ。この案配で円安が続くと、外国文化研究も随分様変わりせざるだろう。本を買うのにも、外国と行き来するにも、一苦労だ。
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日本は、ジャン=マリー・ルペンの昔から、フランスの極右にとっては、移民排除の「理想的」モデルケースだった。でも、その頃に加えて、日本ではさらに、労働基準法さえ適用されない「外国人技能実習・研修制度」まで作っているのだから、フランスの極右の理想のさらに上を行っている。 twitter.com/tommie116/stat…
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性差の平等はボスとそれ以外の不平等を解消しないのだな(そうなのだろうかーメスのボスになると何がどう変わるのか)とか、力が問題にならなくなると途端にメスがボスになるのはなぜだろうかとか、色々興味は尽きない。ー「ヒトの解剖がサルの解剖に役立つ」のであって、逆ではないにせよ。
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ラカンによれば、日本語話者には精神分析はいらない。その一つの理由が、漢字かな交じりの音読み・訓読み並列システムであり、もう一つの理由が「礼儀作法」、つまりあらゆる発話を、誰が誰に対して語るかを社会的・言語外的なコードを参照して規制するシステムだった。
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哲学者ってなんであんなにエラそうなんだろうなと思うことがあるが、文学部というところでわかったのは、哲・史・文という伝統的な言い方は、単なる順番ではなくて元々、序列なのだなということだった。蓮實重彦風にいうと、哲学者はエラそうなのではなくて、エライのだ。
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大江健三郎が「戦後民主主義」という符牒に収まりきれない人なのは小説を読むとすぐ分かるが、同時に、大江さんが極右から極左までのテロリスト的欲望の「正統性」を承認しさえしながら、「戦後民主主義者」を標榜したおかげで、「戦後民主主義」自体が随分懐を広げたところがあったと思う。
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日本語では「国民nation」という言葉が人間集団を指すこと、これが「国家State」とは異なること(対立概念でさえありうること)さえ一般常識になっていない。「人民」という言葉の忌避にしても、政治的主体になりうる集団に名を与えることそのものが組織的に抑圧されているのだと思う。
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大江健三郎、友人の編集者の話だと、アル中が進んでいて、もうたぶん新作は出ないだろうとのこと。『全小説』買おうかという気にもなるが、やはり淋しい。「ファシスト」にも「過激派」にも(オウムにまで?)あれほど同伴しつづけた大江の「戦後民主主義」って何だったのか、と思う。
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中年疲れ易く学なり難し
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フランスの大学教員養成校ENSは、年300人程度しか入学できない狭き門だが、学費がないどころか、在学中4年間は給料が支払われる。その代わり、卒業後6年以上公職に就く義務がある。できる学生にカネ出して国家に奉仕させるので、学生に借金を負わせて労働を強いる今時の日本よりよほど合理的だ。
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『政治少年死す』(山口音矢)に始まり、『河馬に噛まれる』(連合赤軍)を経て『宙返り』(オウム)まで、大江健三郎はWWII後日本のテロリストたちの魂を鎮めるように小説を書いてきた。とても私的な動機に突き動かされていたらしい今度の犯人に、同じことができる作家がいるだろうか。
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じゃあ今度一つ、自民党の党内人事に共産党から外部委員でも招いて選考してみたらいい。 twitter.com/okisayaka/stat…
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ハイデガーの『真理の本質について』を読んでいたら、うちの小学生がタイトルを見て、えらい大きくでたなー、と言うので大笑いする。
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大江健三郎にしろ、坂本龍一にしろ、自分が知っている、おそらくは近代日本の一番良い時期にはっきりと刻印を残した人たちが一気にいなくなってしまった。
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国民文庫版『資本論』訳者の岡崎次郎、岩波文庫訳もほとんど一人でやりながら、名義は師匠・向坂逸郎に奪われ(アカハラ、パワハラの類)、恨み骨髄で晩年奥さんと失踪したのは知っていたが、『資本論』訳で滅茶苦茶儲かったので、「失踪」中、移動は全部タクシーだったという驚愕すべき話を聞く。
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友人のフランス人歴史家によると、あちらでも人文系の退潮は著しく、哲学と文学には学生が減っているが、歴史学だけ別らしい。歴史学が国民的同一性の支柱で、歴史家が一般向けに書くことが多い(政治家も必ず歴史的エッセーを書く)という特殊事情はあるにせよ、ではなぜ・・・(続)