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「狐の窓って知ってる?」
「こうやって指を組んで隙間を覗くとお化けの正体が分かるんだって!」
何の気なしに2人でサーヴァントで賑わう食堂を覗いた
「…!?」
「ひぃっ!」
見てはいけなかった
隙間越しの異形がこちらに気づいて一言
「マスター、マシュそれやっちゃだめ」
以来一度もやってない
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その子はその後も度々夢に出てきて
「今日はいつもの大通りを通らないこと」
「〇〇時発の電車には乗らないこと」
色んな忠告をしてきた
そして何年かたったころ、こう言った
「今日、献血をしに行こうと友達に誘われるから
一緒にいきなさい」
それで俺はカルデアに来た
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「竜の魔女の炎が来たら右に避けなさい」
「狂戦士に気をつけなさい 私がいればすぐ済むのに」
もしかして、この子は恐ろしいサーヴァントなんじゃないかと思い
ダヴィンチちゃん達に相談しようと思った夜、彼女はまた来てこう言った
「だめだめ、だめよ
言ったらあの盾の女の子も食べてしまうから」
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バビロニアで戦闘が続く頃
「黒い水の女は右にいる方を倒しなさい」
いつものような忠告
「でも、汚れる前に食べてしまおうかしら?」
すると辺りに花が一斉に咲きだした
「夢魔が!おのれ!」
彼女が去った後
白い光の中に誰かが見えた
嬉しそうな、悲しそうな、不思議な顔をして、どこかに消えた
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人理修復を終えた後
怖くて怖くて話してしまった
「カルデア総力を挙げて君を守ろう!」
「すぐに該当サーヴァントを調べます」
皆を危険に晒したのに、誰1人責めず力を貸してくれた
ただ、なんだか熱っぽい
今日は早く休もう
その晩夢で少女は泣いていた
「もう助けられない 運命は元どおりになる」
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「緊急治療!この熱は非常に危険な状態です!はやく!!」
「酷い嘔吐と痙攣だ!すぐに〇〇を投与!」
「先輩!先輩!」
しかし、治療のかいなく目は覚めなかった
「…〇〇という病気だろう
彼が以前命を落としかけ奇跡的に回復したという」
「今になって何故…彼の話と関係があるだろうが」
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「…誰にも話さなければそのまま生きられた」
「でも本当の理由は話せない、そういう決まりだったの だから怖がらせて言わないようにしようと…」
「どこかの未来で優しくしてもらったから…だから助けたかったの」
「罵られても恐れられても助けたかったのに…」
少女は誰もいない宇宙で、ただ泣いた
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どこかのカルデア
「ゴホッゴホッ」
「まあマスター!?どうかなさったの?」
「ありがとうアビー 風邪ひいたみたいなんだ」
「ベッドにいかなきゃダメ ナイチンゲールさんをお呼びするわ」
「大したことないよ」
「だめ ようく休まなきゃマスター
…どこかの私がそう言っている気がするの」
終わり
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「無理だろうけど、全部終わったら2人で普通に暮らしたいね」
「はい」
「アルバイトして交代でご飯作って、疲れた時はお惣菜」
「一緒に服を買って、帰りに人気のパンケーキ屋に並ぶの」
「素敵です」
戦闘不能のオルテナウス
マスターは足が折れ動けない
猛吹雪の中
2人は寄り添って夢の話をした
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マシュと離れて歩く
喧嘩じゃない
数日の行軍で垢まみれ
臭いと思われたくない
マシュは腕を掻いている
ツン、と鼻をつく
ナイチンゲールが腕に消毒液を塗ったのだ
「掻いてはだめ 雑菌が入ります」
そして私たちを見つめて
「どうか恥じないで
貴女達が生きている証です」
私はマシュの隣に並んだ
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「絆6以上の最終再臨させたサーヴァントを変換して得た呼符を使うと必ず目当てのものを喚べる」
ネットで話題の召喚方法を見たマスター
3基を選択、震える指で座に
入手した呼符で回すと虹回転
「やった!本当だった!」
画面に映った待望のサーヴァントは微笑んだ
「「「ただいま、マスター」」」
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「寒いね」
マシュも私も体が潰れている
出血が酷く半日持たない
でも数時間は持つ 三画失った令呪はあと一時間でひとつ回復する
(マシュを治してからしねる よかった)
気づくとベッド
令呪で回復したマシュが運んだ
「先輩の体は一度きりなんです!」
それでも
(あなたが生きていてよかった)
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「ほんとに聞こえる!」
カルデアで糸電話が流行った
ナーサリー達はお茶会の予定
円卓の騎士は伝言ゲーム
感謝や愛を伝えたり
散々遊んだマスターは、疲れて部屋に
何気なく相手のない糸電話に耳をあてると
「誰か…誰かいませんか」
どこかの世界の
滅び1人生き残ったマシュと最期の会話をする話
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「直接攻撃を受け、8割が壊滅 電力システムも崩壊
数日意識不明だったマスターは今朝…」
「サーヴァントもいなく、人も数えるほどしか
食料も水も薬もなく、私もこの傷では…」
「マシュ…」
「どこかの先輩、お願いです 楽しいカルデアの話をして下さい
私たちが過ごせたかもしれなかった日々を」
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もし優秀な魔術師が人理を修復したら、とか
きたのが主人公じゃなかったらマシュはどうだったとか
考えるけど
もし、は無かった
無かったんだよ
誰もいなかった
燃え盛る中マシュの手を握り一緒に死んで行こうとした子供は1人しかいなかった
誰も代わらず、代われなかった
子供にやらせるしかなかった
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「ハンバーグ」
「カツ丼!」
食料も水も尽きた夜
食べたいものを言い合った
「先輩!お肉を食べる方法ありました!」
「新所長の魔術?」
「0時前に私の腕を切断してしぬ前に一画で直せば毎日お肉が手に入ります!」
冗談だと笑ったけど眠れなかった
あの目は本気だった
「あなたのためなら」
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「あんた!悪霊がついておる!」
「それも大量に!色とりどりの老若男女が満面の笑みでだ!」
ガード下でいきなりおばあさんに話しかけられた
霊能者?らしいけど
「いや俺、ユーレイとか信じてないし」
「とにかく災いが迫っておる!寒い場所には近寄るな!」
藤丸立香
献血にいく1週間前のこと
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「苛められているの?かわいそうに…」
「殴ったりは三人だけど、他の皆もジロジロ見るだけだし
大人の人たちも…」
「どこの集落も同じなのね」
「分かったわ 私がなんとかしてあげる
だからしばらくはここに来て一緒に遊んでちょうだい?」
「ど、どうやって」
「私じつは、かみさまだから」
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アビーは変わってた
いつもユーゴっていうぬいぐるみを持ってた
遠い国から来たらしいけど日本語はペラペラ
「私ったらお利口さんなの!」
あと自分のことを皆に言うなって
だけど元々言うつもりなかった
どうせ「よそもん」の言うことなんか信じないし
それに、せっかくできた大切な友達だったから
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2週間後事件が起きた
僕を苛めてた3人が【通ってはいけない道】の分岐の先にある祠を蹴り壊した
「罰当たりが!」
村の大人は異常に信心深く口々に3人を親子共々責めたてた
いじめっ子達は泣きながら
「俺じゃない!」
「金髪の恐い女の子にやれっていわれた!」
と騒いでいたが、相手にされなかった
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それから変なことばかり起きた
季節外れの彼岸花が咲いたり
村はずれの廃屋が燃えたり
「あいつらのせいだ!山神さまの呪いだ!」
村中その話だった
そのうち
夏風邪が流行るのも
窓ガラスが割れたのも
誰かが鎌で怪我したのも
いじめっ子の家にカラスの死骸が置かれたのも
全部「呪い」のせいになった
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結局3人とも県外に引っ越した
僕はいつのまにか「よそもん」から「村の子」になった
その間もアビーと遊んでた
皆前より【通ってはいけない道】に近づかなかったから
かくれんぼ 鬼ごっこ 川遊び
本当は気づいてた
僕が来ただけで噂になったのに
金髪青い目のアビーの話を
皆なんでしないのかなって
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きっとアビーが「山神さま」なんだ
「山神さま」は子供を誘って攫う
だからあの道は通ってはいけない
大人たちの話
アビーは僕を攫うのかな
だったら何で助けてくれたのかな
村の皆は今は優しいけどやっぱり怖いし嫌だ
父さんと母さんは引っ越してから喧嘩ばっかり
僕
僕、アビーに攫われてもいいや