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「…マシュを返せ」
「何をいっているの?あの子はここにいるわ いまも 混ざり合っているだけ」
「あの子の小さな願いを叶えにきたの
さあ、ここは人理焼却の炎もいかなる魔の手も届かない
完全に閉ざされた、永遠の楽園
もうどこにもいかなくていいの!
ずっとここで暮らしましょう!先輩!」
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「どうやら俺達は城の内側にいるようだ」
「…アヴェンジャー?」
「マシュ、あの娘の宝具
あらゆる災厄を通さぬ鉄壁の城
今はそれが、燃え盛る外界を一切遮断する白亜の檻となっている」
「だが…共犯者!よりにもよって俺を連れたな!
シャトー・ディフを脱したこの俺を!
手はある、行くぞ」
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「鍵をさがすの、マスター」
「鍵?」
「そう、この宝具はマシュの心
心を開ける鍵がいるの
それはぜったいにこのカルデアにある
でも今は見つけられない
見つけるにはなぞなぞをとかなきゃ
この不思議な不思議な迷路のなぞを!」
「マシュの部屋…何かあるかもしれない」
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小さなノートがあった
5/14 右脇腹 軽傷 胸部打撲
5/15 頭部裂傷 浅いが出血多
6/26 …
日記とは呼べないような代物
日付と怪我の状態が乱れた字で書かれていた
「…俺の怪我のことだ」
最後のページには何かを塗りつぶした跡があった
隣のサーヴァントが呟く
「せ ん ぱ い を た す け て 」
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翌朝カルデアベースはパニックとなった
侵入の痕跡無しに忽然とマスターが消えたからだ
シオンたちの分析の結果
就寝中、彼女の脳波に異常な動きがあった後すぐ消失したことが分かった
茫然自失だったマシュがそれを聞いて一言
「夢を見ました
誰かに 次はあなた と言われる夢
きっと次は私です」
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今後の異聞帯の王がもし
剪定の運命を理解し
純然たる、人を救いたい思いで空想樹により生き長らえさせ
一方この世界が倒されるべきだとも理解し
主人公達が来たら無抵抗で民とともに消えようと覚悟しているような
あまりに脆く、強い異聞帯があったら
あの子達は 武器を構えず微笑む相手を
ころせるか
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「マスターがしんだ」
「マスターがしんだ」
「いや、ころされたのだ」
「忌々しい、どいつだ?」
「事もあろうにただの人間らしい」
「先輩は優しいからお金を貸していたそうなのです…それでトラブルになって」
ああ我が無力で平凡なマスターよ!!
我らが消える前にお前の仇を打とうではないか!!
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「はやく逃げなきゃころされる!」
玄関に走ってドアノブを掴む
が
「ぎゃっ…!?」
ドアノブは真っ白に凍り付いていた
握った手はそのまま貼り付き動かせない
(スキル 凍える吹雪)
不気味に優しい声が窓から響く
「どーれーにーしーよーうーかーなー」
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「あああわらわの!
わらわのマスター!今も冷たい土の中か!
よくも!よくもよくもよくも
これもわらわの滅びの業の定めであるならば!
消え去る前に焼き尽くさねば!
全てこの身も燃やした後にあの子の骸を抱きしめてやらねば!!
ああ可愛い いとしいそなた
まっておれ
この茶々がすぐゆくぞ」
63
サーヴァントたちはカルデアから果てしない旅に出た
食料も水も魔力も無く
マスターもなく
変質し捻じ曲がりながら
このまま消えてなるものか
その一心で探し、探し、探し続けた
奴にはカルデアとの縁があった
「マスターを殺害、マスターとカルデアを繋いでいたスマホを所持」
そしてついに、見つけた
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なんとか外に出ると辺り一面に霧が
「ああ目が!顔が痛い!痛い!」
毒ガス?スモッグ?とにかくはやくにげ
「あなたがおかあさんをころしたんだね」
「わたしたちのおかあさん」
「またかえれなかった」
「おかあさんはかえしてあげたいの
かえりたかった所へ」
「だから うん
ころしちゃおう」
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振り払って階段を駆け下りる
後ろからクスクス笑う声
逃げてるんじゃなくて逃げさせられてる?
しばらく走ると道の先に人が
「あの!助けてください!お願いします」
「マスターも…そうゆうたがやろうなあ」
「お初にお目にかかります」
「じゃあ」
ザシュ
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暗い空を見上げる 寒い
もう体は動かない
あの桃色の髪の女の子が来て
俺を見つめている
「先輩、あなたのいる未来を守るためなら命なんて少しも惜しくはなかったのに」
あの子はぼろぼろと泣いている
周りの奴らもいつのまにか泣いている
そのままどこかへ行った
きっとアイツの所だろうな
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3日未明 行方不明になっていたフジマルリツカさんが○○で発見されました
○○には何故か大量の花が被さった状態で、捜索中の○○宅ベッドに突如現れたとのことです
また、犯人とみられる男性も同日○○で発見されました
左肩から右腹部にかけて深い○○があり、○○は捜査を進めています
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「先輩」
「どしたの マシュ」
「私 ぜったい何があっても先輩をお守りします!約束です!」
「ありがとう、でも無理しないでね」
「はい でも約束です!指切りします!」
「わかった ふふ 約束ね」
「なんかマスターが面白いことしてる!」
「やるやる!」
「はいはい 順番に」
ある日の約束
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前髪を切り過ぎたぐだこちゃん
恥ずかしくて唸っている
「戦闘の時邪魔になると思って…」
非常事態に浮ついたことを頼めないと悩んで自分で切ったようだ
次の日
マシュが長い前髪を額の上でばちりと切っていた
「切り過ぎました!」
新所長も何故かヒゲを剃り過ぎていた
「剃り過ぎた」
皆、笑った
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「髭が無いとお若く見えますね」
探偵がにこやかに話しかける
「見える?本当に若いんだ!ピチピチの20代だぞ!?」
「それにやつらのほうが…まるでっ
子供のようではないか!」
新所長は言葉を詰まらせて、ぷいと顔を背けた
マシュとぐだこちゃんはお互いの髪をいじりあっている
ある穏やかな日の話
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「食べ過ぎで太ったかも」
「そんな…戦闘が続くので栄養補給は大事です!」
「新所長の料理、美味しいから」
「…全然太ってないじゃないですか」
返事はない
背負ったマスターはぞっとするほど軽い
ボーダーまで2キロ
血が、涙が、落ちる
「帰ったら温かいものをお腹いっぱいたべましょう…!」
72
夜の下総でみんなとはぐれた
通信が入る
「左の道を進めば合流できる」
突然背後に黒い影が現れ追いかけてくる
「走れ!走れ!」
無我夢中で走る
「あと少しだ走れ!」
「先輩!止まって下さい!」
気づくと崖の手前
あと一歩で落ちていた
追いかけてきていたのはマシュだった
耳元で舌打ちが聞こえた
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プチン プチン
「新しい礼装だ!」
「自動防御機能があるんだ
皆の協力で出来たんだよ!」
ダヴィンチちゃんは語る
「どんな時も君を守るのさ!」
その通りだった
単身襲われた時、突然礼装がほどけ敵の首に巻きつき締めころした
綺麗な色だと思ったんだ
サーヴァント全員の髪の毛が編み込まれていた
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マシュが戦えずカルデアに残っていた頃
俺への攻撃が不自然に逸れたり、致命傷が軽傷になることがあった
マシュの生霊と噂がたった
でも怖くないや
だってマシュだし
ただ、一部のサーヴァントは酷く怯えていた
「あれがマシュな訳あるか!ぐちゃぐちゃで首も逆に付いてて!」
俺を守ってるのは何?
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マシュのレベルが低かった頃
思わぬ消耗をした所を襲われた
倒れたマシュにローマ兵が槍を突き刺そうとする
「やめろ!」
足元の大きな石を拾って、それで
「ごめんなさい…先輩…」
ころしたかは分からない
けど相手はもう動かなかった
「…いつもマシュにさせてたことだ」
2人で身を寄せて、泣いた