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太宰治の短編に「葉」というものがあって、それはお正月に素敵な夏の着物をもらったから夏までは生きていようかなってお話で、人生はしんどいばかりだしもう結構ですとは思っていても来月にあの新刊とか、来年あのドラマの二期がとか思うと、まあそこまでは生きるかなって思う、太宰の気持ち超わかる。
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お台所で煮物にする大根をとんとん切っていたら5歳がママなにしてるの?とにっこりやって来て兄の部屋に消え、次に13歳の兄の方が「今5歳がここに来なかったァ?」と来たのでお兄ちゃんの部屋に行ったけどねと普通に答えたら
「馬鹿野郎!そいつがルパンだ!」
なんか、そういう鬼ごっこらしい。
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4歳の支援関係の書類を出しに夏休みの幼稚園に行ったのですけど、園の扉を開けた最初の先生との挨拶が
「アーッ!お母さんご無事でしたか?」
「先生こそ、ご無事ですか?」
というものでさながら戦場のよう、こんなに周囲のひとびとがただ元気でいることが嬉しい夏は44年生きていますけど初めて。
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ついさっき、満月と追いかけっこをしながら病院に行きました。普段遅い時間の外出を殆どしない3歳が
「オツキサママンマル」
そう言ってぼんやりしていて昨日相当量の鎮静をかけたCT検査後の発熱、主治医の診断は
「風邪」
でした。とても肝が冷えました本人は今すごい元気です。
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散々日焼け止めを塗っているのにじわりじわりと日焼けしている4歳が帰り道、まだ入院中のお友達のいる大学病院を見上げて
「みんなは?びょういん?」
退院してわたしだけ病院の外なのは悪いなあとか4歳児は思うのか、あの子もあの子もあの子もみんな、来年は夏のひかりの中を走れ。
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元経管栄養児で、現在は結構な偏食の4歳は母の趣味と本人の食欲増進効果のため『孤独のグルメ』をよく視聴しているもので、今朝の連続テレビ小説を見て
「ゴローさんごはんたべてへん」
「ゴローさんおみせいってへん」
松重豊氏が食事をしていないことを凄く心配していて明日も見るそうな。
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今年は中学の家庭訪問があるそうで風薫る5月の初め、担任の先生が我が家にやってくるのを当の中3本人は「えー...」って取り立てて嬉しそうにしていない代わりに5歳の妹が
「あたしの折り紙を見せるねん!」
と言って菓子箱一杯の折り紙作品を用意して先生のお越しを心よりお待ちしています。
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私がやたらと小さい人たちに過敏に反応するのは、うちの4歳が赤ちゃんという人々が好きすぎていつも見に行ってしまうからで、彼女ときたら9月の入院も
「赤ちゃんと一緒のお部屋がいい!」
と言うので出来たら赤ちゃんがいてくれると私も助かります...(いないとむくれる
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40をすぎても「ミロっておいしいなあ」と思って今、それを飲んでいるわたしはまだまだ強くなれるはずだし、何なら病気のせいで疲れやすくて外を歩くとすぐ息切れして結果どこでも抱っこをせがむ4歳のために身長180㎝で体重90㎏ぐらいの屈強なラガーマンのような人間になりたい。
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平昌五輪の時、大学病院で羽生結弦選手の決勝の演技を見ていまして、その時の事を書いたら羽生さんを好きな方がそれを読んでくださるのですよね、あれから4年が経ちまして現在はこうですと手紙のような物を書きました。
4年後、オリンピックが来た。|きなこ @3h4m1 #note note.com/6016/n/n08252f…
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青梅が出始める季節になると
「今年も庭に梅なりそう?」
「もうスゴイよ」
「管理大変やない?あんまりやったら1本切る?」
「お母さんが梅漬けてる間は切られんわ、趣味やし」
昔は喧嘩ばかりしていた実家の姉とそんな会話をする。スゴイ大人になった気になる。お互い十分大人なんだけど。
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娘②が朝から大荒れしていて、霧吹きをテレビに執拗に吹きかけ、着せた服を勝手に脱ぎ、そして半袖を着たいと暴れ、いい加減にしてと叱ったらブチ切れて
「ママアッチイッテ!」
と言いながら自ら部屋から出て兄姉の部屋に行き半裸でピアニカを吹きながら戻ってきたのは一体何なの。あと絶対謝らない
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医療的ケア児が就園し、その子に専従に近い形で看護師が配置される、でももしその専従の看護師が何かの事情でお休みしたら、その子はどうなるんだろう。とりあえず今はまだ母子通園中の私が代打になる。
レアケースを生きるというのは、大なり小なりいつも問題があってそれを解決する事、割と毎日。
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娘②と同じか、よく似た疾患のお子さんをお持ちで、頑張った我が子を天国に見送りましたという方に
「頑張って、きっと大丈夫です」
娘②についてそんな風に応援を頂く時、この世にある善いものを全部集めて手渡されている気持ちになる『人間はいいものかしら』というあの問いへの答えを貰うような。
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朝の諸々の事柄に忙殺されていたら、背後から娘②がジャー入りのワセリンに手を突っ込んでそれをもりっと両手に盛った状態で「ママ、コレドージョ!」と近づいてきてグレーのパーカーを着ていた身としては有史、五.一五事件以来の
「待て、話せばわかる」
が出た。わかってもらえなかった。
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3歳のゴッコ遊び、最近の流行りは移動販売車のトーストサンド屋。ハムとチーズのトーストを売りながら車で旅に出て、3歳はパラフィン紙でトーストを包む係。たまに兄と姉が買いに来る。医療用酸素が足りなくなったら立ち寄り先の病院で貰うそう。ゴッコ遊びの時くらい酸素は無い設定にしようよ。
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不惑を越えて子供3人うち病児ひとり、家事して通院して入院して生きていると兎に角時間が無くて、約20年前に京都で学生だった頃に鴨川でぼんやりしていたあの時間を今少し分けてくれ私と思うけれど、無為で無駄で退屈な時間はその年頃の特権で一瞬だからいいんだと思っていたらカレーを粉買い忘れた。
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激動の1月折角の成人式が方々で中止になり、娘②の20歳はあと17年後かと思った時、ならこの子の病気を通じて知ったあの子も20歳であの子は21歳であの子は19歳か18歳で、皆きっと手術を終えて酸素を卒業して胃ろうを卒業して気管切開の孔を閉じてと思うだけで鼻水が出ますが私は元気です。
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医療的ケア児の娘を連れていると偶に「お母さん偉いね」と言われることもあるですが、この子と私の日々はDr、Ns、OT、PT、MSW、保健師、幼稚園、膨大な外の人の関与によりようやく成り立っているもので、しかし私はこうして子が家庭で母親だけに養育されていないことをむしろ幸せであると思うのです。