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努力は実るって言葉が嫌いだ。それを言った部活の顧問も。夏、努力した僕らは初戦で負けた。虚しいほどの大差で。「努力は実るなんて嘘ですね」それは幼い八つ当たりだった。顧問の先生は答えた。「ごめんな。信じさせてあげたかった」その涙を見て、僕はなぜか、試合に負けた時よりずっと悔しかった。
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「あと五年経っても独り身だったら結婚しよう」大学の友達とそんな約束をしてもう五年。君はいつの間にかスーツが似合う人になっていた。「昔の約束覚えてる?独りだったら結婚しようってやつ。バカだよな」君は飲み会の席で笑った。左手の薬指には指輪が。そうだね、本気にするなんてバカだなぁ、私。
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寂しいよ。おやすみなんて言わないでよ。寝息をたてる君の隣で、子どもみたいに泣きたくなった。午前零時。なんだか朝まで話したいような気がした。目を閉じると会えないような気もした。手と手が触れる。だけど君を起こす勇気はなくて。この恋は毒だ。いつの間にか、私はすっかり弱虫に変わっていた。
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この世を去る時、最後に恋をした人が魂を導いてくれるらしい。事故に遭った私は手術の前に呼吸が止まった。光のかたちをした魂が、身体からすうっと抜けていく。見渡せば青く晴れた空。私は街を見下ろして、ぽたぽたと涙を落としながら歩いた。たったひとりで。よかった、あの人はまだ生きてるんだわ。
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「かわいいって言って。嘘でいいから」朝、鏡の前で何度も服を変えた。アイラインは三度も引き直した。私の誕生日、君に褒められたくて。「なんで。思った時に言わなきゃ意味ないだろ」斜め前を歩く君に、怒りのような悲しみが湧いた。嘘でいいの、嘘でいいから。だって君は一度も言ったことないもの。
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ネットの友達がアカウントを消した。突然だった。夜が明けても消えたままで、私は動揺を隠して学校に行った。友達とはいつものように漫画の話をした。先生のものまねで盛り上がった。なんだ、私ちゃんと笑えるじゃん。ただあの子がいないだけだ。真夜中に病む私を知る人が、いなくなってしまっただけ。
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『あと少しで家に着く』彼からのLINEを受け取り、私は料理の手を止めた。今日はスイーツが欲しい気分だ。『プリン買ってきて。かための』そうメッセージを送ると、すぐに返事が来た。『もう玄関の前だわ。付き合いたての頃なら、戻って買ってたかも笑』帰宅した彼はプリンが入ったレジ袋を持っていた。
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「この契約書にサインして」告白する相手を間違えたかもしれない。好きになった同級生は、僕に紙を差し出した。交際契約書だそうだ。浮気禁止。返信は二日以内を厳守。怪しい紙だが、僕は渋々サインした。あの日から七年。君は緊張した顔で新しい紙を差し出した。僕はまたサインして市役所に提出した。
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隣の席の君は人気者だ。優しくて、爽やかで、クラス内にファンクラブがある。私だけは入ってないけれど。そんな君と委員会が一緒になった。夏の午後、並んで花壇に水やりをする。「すごいね、ファンクラブ」君は意外にも不機嫌そうに答えた。「別に、あんなの意味ないよ。俺の好きな子は入ってないし」
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「好き」は貴方にあげたけど、人生まではあげられない。右手薬指のペアリングを外した。愛されないって泣くのは今日まで。冷たいのも、雑な扱いも、別にいいや。ただの友達に戻るから。『次付き合う子は大切にしてね』最後のメッセージを送信した。長い春が終わる。私は少し、私のことが好きになった。
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好きな人に彼女ができた。「ねえ、なんであの子と付き合ったの?」雨の日の昼休み。廊下で二人になった瞬間、我慢できずにそう聞いた。プリントを抱えた君は照れもせずに答えた。「そりゃ、告白されたからだよ。他に理由がいる?」本当のことは言えなかった。いるに決まってる、だって私が報われない。
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元彼の母から電話があった。静かな夜のことだった。彼に何かあったのだろうか。一瞬緊張が走ったが、違うようだ。私とも親子のように仲良くしていたので、最後に挨拶がしたかったらしい。「本当の家族になりたかったな……なんてね」この言葉を聞き、別れてから初めて涙が出た。私もです、おかあさん。
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二番目でもいいと思った。「ごめん、忘れられない人がいるんだ」君はそう答えたけれど、隣にいられたら満足だった。お花見も、夏祭りも、君は誘えば来てくれるから嬉しくて。カメラロールは君でいっぱいだ。けれど私は連絡するのをやめた。気づいてしまった。君から誘われることはない、きっと永遠に。
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あっさり振られた。「部活と勉強が忙しくて……」ユニフォームを着た君は申し訳なさそうに去っていった。けれど、その背中を恨むことはできなかった。正直な君を好きになったから。その後、クラスメイトから君に恋人ができたと聞いた。ちゃんと嫌いになれそうだ。そっか、君は一週間で暇になるんだね。
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「見て!これ、好きな人が前に使ってたネックレスなの」親友は胸元で輝くシルバーのネックレスを指差して言った。大学の講義室。変わった子なので心配していたが、彼女の恋はいい方向に進んでいるらしい。「欲しいって頼んだの?」彼女は首を振った。「ううん。フリマアプリのアカウントを見つけたの」
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デートに二時間遅れた。彼は寂しそうに俯いていた。後悔が膨らんでいく。「ごめんね。代わりに何か一つお願いを聞くから」「いいの?」嬉しそうにしていたのに、彼は何も求めなかった。誰よりも優しい人。そんな彼は、私の病気が分かった時に泣いた。「死なないで、お願い」私はいいよと頷きたかった。
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「本を読まない人は好きじゃないな」僕がそう言うと、セーラー服を着た君は分かりやすくむくれた。冷房が効いた放課後の図書室。じゃあ読む、と君は細い腕に山ほど本を抱えてきた。もうじき冬になる。この頃、僕以上の読書家になった君を避けている。読書量しか誇れない僕は、劣等感で潰れそうだった。
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言えなかった。花火を見にいこうと、何度も練習したのに。放課後、君は廊下で他の子に誘われていた。「週末の花火大会、一緒にいこ?」「いいよ」ああ駄目なんだ。一途なだけでは。土曜の夜、部屋の隅で膝を抱えた。真っ黒なヘッドホンで耳を塞ぐ。大好きな花火の音が、泣きたくなるほどうるさかった。
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「俺がダメな恋をしてたら、止めてくれる?」小さい頃からよく知っている彼は、海沿いの通学路を歩きながらそう頼んだ。自信がなくていつも迷っている人だった。「はいはい」私は苦笑いした。二十歳の夏、あの約束を果たす時が来た。傷つけたくないけれど、今、親友として伝える。「別れよっか、私達」
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彼は手先が不器用だ。特にネクタイを結ぶのが下手で、私の仕上げが日課になっている。「今日もありがとう」優しく抱きしめてくれるから、朝の時間が好きだった。リビングから聞こえるテレビの音で目覚めたある日。スーツを着た彼はネクタイを綺麗に結んでいた。「ばれた?」彼は照れた顔で襟を正した。
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「蛙化現象って知ってる?」少し前に僕を振った同級生は、休み時間にそう尋ねた。「知らない。どういう意味?」「好きな相手に好意を持たれると、急に気持ち悪く感じちゃうこと。そういう子、結構多いんだって」へえ。世界には残酷な現象があるもんだ。「それがどうかした?」「いや、ただの自己紹介」
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優しくてつらい。彼氏よりたくさん連絡をくれる同僚も。新しい服を着ると似合いますねと褒めてくれる後輩も。付き合って五年、同棲して二年。食事中すら話さない二人の部屋で、彼はスマホばかり見ている。けれどまだ好きだった。人の視野は広すぎる。彼が運命の人なら、彼以外見えなくなればいいのに。
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僕にそっくりな大人に話しかけられた。公園で友達を待っていた時だった。「未来から来たんだ。昔の自分が懐かしくなって」ベンチに腰掛けたその人は、未来の生活について教えてくれた。僕は最後に聞いた。「大人って楽しい?」「楽しいさ」嘘つき。僕は心の中で呟いた。だったらなんで戻ってきたのさ。
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二ヶ月ぶりに彼の家を訪れた。ルーズで片付けが苦手な人だから、こっそり掃除道具を持ってきていた。けれど開けてびっくり。部屋の隅々まで綺麗に整えられている。「二人の時間を大事にしたくてさ」私のために苦手な掃除を頑張ったらしい。けれど排水口周りは駄目だった。見知らぬ長い髪が残っていた。