201
イラク戦争での米軍のバグダッドへの進撃速度が1日30km。無人の砂漠を前進した(補給物資さえ前方に集積していた)湾岸戦争の左翼部隊を例外とすれば、これが歴史的に最高レベルの進撃速度。
202
まだ2日目だし、再補給も必要になるし、ロシアの機動防御も考えなければならないが、少なくともいままではウクライナの進撃速度は凄い。
評価を見直さなければならないかな。
203
第二次ハルキウ反攻、このまま進めるとは楽観的でありすぎると思うが、もし進んだ場合、この戦争が始まって以来、核使用の可能性がもっとも高い状況になるかもしれない。
アメリカは明確なメッセージをロシアに送っておかないと。公の場である必要はないが。
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少なくとも機甲突破戦術は使いこなせているようだ。最初の攻撃が戦車16両という情報が正しいとすると1個中隊規模。つまり大隊規模の諸兵科連合部隊から始まった攻勢と推測できる。
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ちなみに進撃速度を制約するのは敵の抵抗だけでなく補給も大きい。
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突っついたら予想以上に弱かった可能性もまだ捨てきれないが、今になって思い返すといくつかのピースがつながってくる。例えばHIMARSをもっとくれという要求。面制圧兵器ではないので、いくつもの戦線で使うのでなければ意味がないと説明したけど、まさに複数の戦線で使うつもりだったということか。
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後方攪乱ならヘルソン反攻の期間中は続くはずだから、クリミア攻撃が止まっていることは不審には思っていたが、それ以上に考えが進まなかった。
ただ突破部隊の追送補給をきちんとやらなければならないし、ロシア軍も近傍の兵力集めて反撃するだろう。予断を許す状況ではない。
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ヘルソン反攻も一報は5月末。ロシア軍の兵力移動もあってか、反攻という割には進んでなかったし、8/29の攻勢開始後も進撃速度が遅かった。8月中旬のクリミア攻撃も、下旬以降は止まっていた。ヘルソン反攻の後方攪乱と思わせ、注意を南部戦線に向けるための攻撃だったか。
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第一次ハルキウ反攻の際、ウクライナが勝ちきれれば(補給線を切れれば)、イジューム周辺のロシア軍を包囲殲滅できる可能性があり、そうなれば年内のドンバス地方奪回はあり得ると話した(たぶん日曜スクープ)。「包囲殲滅できれば」という前提部分を無視して批判してきた某評論家もいるが。
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戦況というのは戦闘における損害でその後の展開が変わる。ところが現在進行中の戦闘がどう転ぶかはわからない。なのでそこは複数のシナリオを前提として置くしかない。その前提部分を聞き逃すあるいは無視して結論だけ記憶に残る人が多いみたいだが。
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第一次ハルキウ反攻の時も、「勝ちきれなかった場合」(補給線を切れなかった場合)には膠着するとちゃんと言っていた。
それはそうと、今回、ドンバス奪回まで繋がるか。現段階では予想は難しいと考えている。理由は以下の通り。
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第一次ハルキウ反攻の時は、イジューム周辺の部隊はドンバス攻勢の成否を背負った主力部隊。そういう部隊を撃破できれば天秤はウクライナに傾く。ところが今回は、主力とは到底言いがたい空洞化した部隊のよう(実際、この2ヶ月、地上進攻はバフムト南部方面が中心でイジューム方面は砲撃が中心)。
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だとするとそれを撃破したとして戦力バランスが大きく変わることはない。現在ロシア軍の主力はヘルソン方面に展開していると予想されるので、ドニプロ川西岸で彼らを撃破することは引き続き重要。現在の機甲突破の最終的な成否と同様に重要。
そこで成功すれば、全体の天秤がウクライナに傾く。
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ロシア軍の使えるカードは2つ。1つは新編中とされる第3軍団。おそらくすでに防衛戦に投入されつつあるのだろうが、これで戦線を安定させられたとしても、その過程でそれなりに消耗するだろうから、攻勢的に使うのは不可能になる。
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もう1つは核オプション。これは通常戦力による防衛線の再構築ができるかにかかっている。
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どこかで話す機会があればと思っていたが結局話していないウクライナ軍の組織について。
ウクライナ軍はここ数年で組織改革を行っており、フォースプロバイダーとウォーファイターを原則分離している。その意味で米軍的(違いもある)。
フォースプロバイダーとは、軍の戦闘力を作り出す機能。
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フォースプロバイダーを担うのが総司令官と参謀総長。
総司令官(Zaluzhnyi大将)は即応性、軍事的任務付与とnational guardや国境警備隊の能力整備に責任を負う。参謀総長(Shaptala中将)は総司令官の下にあり、軍の能力整備、作戦および近代化の計画、訓練、支援機能、装備の配分に責任を持つ。
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ウォーファイターとは、フォースプロバイダーが作り上げた戦力を使って戦うのが仕事。作戦を立て、実行するのはフォースプロバイダーではなくウォーファイター。
そしてウクライナ軍でウォーファイターを担うのがウクライナ統合軍司令官のNaiev中将。
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この統合軍司令官は、大統領直属。Joint Operational Staffという独自の参謀組織を持つ。つまり作戦は大統領直属の統合軍司令官が実行するから、ザルジニー総司令官は作戦指揮は行わないということ。
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ただし、参謀本部もJ3機能を当然持っており、統合軍司令部とやや機能が重複している。このあたりは米軍の戦域統合軍と統合参謀本部の関係に近いか。米軍の場合は戦域統合軍司令官は大統領直属ではなく、国防長官を通じての指揮になるが。
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短く書くと誤解を招くかもしれないが、ウクライナ軍総司令官の役割は、どちらかというと日本の統合幕僚長の役割(政治を補佐する部分)に近いのかもしれない。
あ、違いがあるのはわかっているので「ここが違う」などのリプは不要。
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第1シナリオは、第3軍団を中心にする反撃でイジュームまでの補給線を再打通することに成功した場合。その場合はロシアはイジュームを確保し続けるが、第3軍団の戦力は使い果たして今後の攻勢は難しくなり、戦線は再び膠着化する。
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第二次ハルキウ反攻の今後、考えられるシナリオは3つか。
1.ロシア軍の反撃成功
2.痛み分け
3.ロシア軍大敗 twitter.com/SugioNIDS/stat…
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第2シナリオは、第3軍団による反撃の結果ウクライナ軍の進撃が停止。ただしイジュームまでの再打通には失敗。この場合はクピャンスク周辺で戦線が形成。ロシア側はベルゴロド方面ロシア領の防備を固める。
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第3シナリオは、第3軍団が撃破された場合。こうなるとロシアとしては、兵力をかき集めてベルゴロド方面防衛線を再構築しなければならなくなる。ウクライナが逆進攻するとは思わないが、ロシアとしてはその可能性への手当てが必要になる。核リスクがもっとも高いシナリオでもある。