高橋 杉雄/Sugio(@SugioNIDS)さんの人気ツイート(新しい順)

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1年前の2月下旬は台湾有事に関する英語論文を書き終えたばかりで、ウクライナにはそれほどリソースを割いていなかった。ただアメリカの同業者と話すときに知識が必要なのでウォッチしていたくらい。
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フォーマルセオリーを含む定量手法が国際政治学の中心になっていく中で、イズムと離れた形で定性手法を再建させようとして進んできた道なのです。 以上、リアリズム研究の大畠秀樹先生のゼミ出身で、留学中にベネットの講義を取った(Aをちゃんと取ってます)現代軍事戦略の専門家の私見です。
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結局のところ、国際政治学におけるイズムというのは「ものの見方」であり、イズムに内在する論理だけでイベントを説明しようとするのは無理がある。それがベネットたちがラカトシュや科学的実在論を援用しつつ因果メカニズムを重視してきた理由であり(続く)、
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そもそも、「パワー」だけで因果関係を説明しようとするのも、「アイデンティティ」だけで因果関係を説明しようとするのも「価値」だけで因果関係を説明することもできない。人間社会にはそれらすべてが併存し、人間の営みに作用しているのだから。
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ただこの説明、「パワー」を変数に組み込んでいても、「アイデンティティ」も変数になっているので「リアリズムに基づく説明」ではない。イズムに基づく説明ではなく、アンドリュー・ベネットなどのいう「ミッドレンジセオリー」的な因果メカニズムについての仮説だ。
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このように、パワーではなく、アイデンティティをベースした方が説明力があると私見では思う。これと、中国の台頭というパワー分布の変化が重なり合い、ロシアに中国と組んで「バランシング」する、という選択肢が生まれたからこそこの戦争に至ったと言うことではないか。自分はこの仮説を採りたい。
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単純化して言えば、そもそも冷戦が終わったことで、東欧諸国や旧ソ連には、「ヨーロッパの一部」になるか、「旧ソ連の一部であり続けるか」という選択が生まれた。東欧諸国は「ヨーロッパの一部」になることを選択し、ロシアは揺らぎながらもプーチン政権において「旧ソ連の後継」の道を選んだ。
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そしてベラルーシにも、ウクライナにも、「旧ソ連の一部」であることを求めた。ベラルーシはそれを受け入れたが、ウクライナは様々な揺らぎの後、2014年以降に「ヨーロッパの一部」になることを選んだ。その結果がこの戦争なのだろう。
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冷戦終結からいままで、ロシアには無数の選択肢があった。その中からいまの道を選んできたのはプーチンであり、決してパワーの分布構造にただ導かれたわけではないのだ。(午後また続き書きます)
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いずれにしても時系列的な検証も必要になるが。 以上の点から、私は「NATO拡大がこの戦争の原因」とする一部「リアリスト」の仮説は棄却している。これは善悪論ではない。リアリズムに内在するロジックだけではその因果関係を説明できないからだ。
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もう一つの可能な説明仮説は、学会でパネリストから提起されたように、「中国にバンドワゴン」して欧米に「バランシング」することを選んだというもの。これならばリアリズムの論理で説明できる。しかし、そうだとすれば、ロシアの行動を決めたのは「NATO拡大」ではなく、「中国の台頭」になる。
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しかし待ってほしい。本来リアリズムの論理にアイデンティティは含まれない。ここでコンストラクティビズム的にアイデンティティを説明に取り入れるなら、それはラカトシュの言う「アドホック性」であり、この時点で説明はリアリズムに基づくものにならなくなってしまう。
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もちろんウェントのアナーキー論文で論じられているように、コンストラクティビズムはリアリズムを包含しうる。しかし包含されてしまったらそれはもはやコンストラクティビズムであり、リアリズムではない。
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リアリズムとして一貫した説明をするためには「なぜバンドワゴンを選択しなかったか」をリアリズムの論理で説明できなければならない。考えられる説明は、「露は欧米とは違う」ので「バランシング」を選んだということだろう。これはパワーでなくアイデンティティに基づく説明となる。
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構造的リアリズム的によれば、パワーに対抗する選択肢は「バランシング」だけではない。強いパワーにすり寄っていく「バンドワゴン」もある。NATO拡大に対するロシアの選択肢としても「バンドワゴン」は存在した。つまりNATOにすり寄っていく選択だ。実際そうした時期もあった。
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リアリズムとロシアのウクライナ侵攻について私見。国際安全保障学会でのシンポジウムで問題提起したように、NATO拡大がロシアの脅威感を高め、この戦争に至ったとする「リアリズムに基づくとされる言説」には1つ抜けている点がある。
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・あと気になるのは核実験。未臨界核実験をこれまでロシアがやってきているのは公然の秘密だが。
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ここに来てNPR1994で「リード」(核軍縮の先導)と「ヘッジ」(軍縮が進まない状況への用心)を並べたことの意味が沁みる。「リード」だけではダメなんだ。あえて言おう。「願望」を「リアリティ」より優先させた人々の罪は重い。
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・しかし、核軍縮に反するような措置をバイデン政権は取れないとロシアは見切っているのだろう。本気で条約を救いたいなら、米国は期限を区切って「アップロードを行う」と宣言するといった圧力をかけるべきだが、多分やらないだろう。それはNPRで決めた「核兵器の役割低減」に反するから。
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・なお、プーチン演説では直前に戦略爆撃機基地への査察を批判。つまりウクライナを空爆している戦略爆撃機基地への査察を拒否したいという理解は可能。 ・無条約になって困るのはアメリカではなくロシア。例えばアメリカは、予備弾筒のアップロードを行えば数ヶ月で配備弾頭数を2300程度に増やせる。
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・しかし現地査察はSTARTⅠ以降の核軍備管理条約の背骨。現地査察を行えることが、米国で新START後継条約に懐疑的な論者も、現地査察の重要性は強調。 ・特に、新STARTは「保有弾頭数」ではなく、「配備弾頭数」の上限を決めているものなので、現地査察がなければ条約としての意味がなくなる。
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新START履行停止宣言について。WBSで話したことに補足。 ・コロナを理由に中断していた現地査察の再開をロシアはこれまで拒否し続けていた。そのため条約違反の状態が続いていた。 ・今日の履行停止宣言はその現状を正当化するもの。このことが直ちに核軍拡につながるとは限らない。
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このタイミングで新START履行停止とは意表を突かれました。今の段階での評価はこのあと10時からのワールドビジネスサテライトで話します。 twitter.com/akomaki/status…
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・ロシアの直接的な行動には変化はないだろうが、王毅の訪問に合わせて、中露の連帯の強さをアピールしようとするか。 ・この点で中国を補助線としてみたとき、中国に対し、ロシアへの武器移転をやめるよう促したことがどう影響するか。中国側はこれが対米カードになり得ると認識したはず。
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この政権は外交日程の組み方がうまい(就任直後のアジア外交が例)が、今回もその特長が出た ・問題のATACMSや戦闘機、あるいは機甲部隊の訓練日程について、何らかの進展があるのではないかと推測するが、これは日が経てば明らかになること。