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別に店内の他の客も店主も迷惑がってなんかなかったんだよ。でも普段の住まいで公共の場で、毎日そうやって都会の親子は暮らしてるんだよね。まだ箸も満足に使えない悪態のひとつも知らない幼子が火傷するかしたかで泣いてる時に母親が子供よりも周囲を気にしなくちゃいけないのって悲しすぎませんか。
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エラそうに言ってる私も子供がいない頃は赤ん坊の泣き声に平気でしかめっ面するような子供嫌いの若きブスだったからさ、だから自分が母親になったら周囲に迷惑かけてないか気になってしょうがなかったの。あれは異常だった。今は赤ん坊の泣き声に舌打ちする人いたらメンマ投げるくらいのことはするよ。
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「可愛くなりたい」が可愛くて大好きなんです。だから化粧品の仕事してたの。生まれ持った容姿のことはひとまず置いといて「可愛くなりたい」って願望がもう可愛いじゃないですか。可愛くなりたい人はみんな可愛い。モデルさんや女優さんに比べてどうだとか生まれつきはどうだとかは言いっこなしです。
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私の母親は、若い頃に東京から田舎の漁村へと引っ越して、田舎では珍しい真っ赤なコートを着ているという理由で「子持ちのくせに派手な身なりして」「都会から来て女優気取り」「客でも引いてるのか」と陰口を叩かれハブられて以来、目立つことを極端に恐れ、地味な色しか身につけなくなってしまった。
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母が好きな、すみれ色や若草色や真紅のセーターやカーディガンを時々プレゼントする。母は「こんな素敵な色、もっと若い頃に着たかったなあ」と言う。そして都内に出てくる時スーツケースに明るい色の服を詰め込んで出てきては「おかしくない?」と気にしながら、嬉しそうに鏡の前でクルクル回るのだ。
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すみれ色のセーターを着た母に「似合うから、そのまま帰ったら?」と言っても「何を言われるかわからないから」と悲しく笑い、わざわざ駅のトイレで焦げ茶色の服に着替え、スーツケースに明るい色を閉じ込めて田舎へ戻った。誰もが何歳になっても、ささやかな「好き」や「楽しい」を諦めず暮らせたら。
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とうとう中学受験まで1ヶ月きった長男ですが、今日は私のパート代を全て突っ込んで通っている塾から飛び出してきて「ねえねえ、金曜ロードショーって何時から何時まで?夜更かしOK?ナウシカ観ていい?バルスまでいい?やったあ!バルスバルス!!」と目を輝せてたから見ろ、塾代がゴミのようだ!!
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まだ新婚の頃、出勤間際のダンナに「たまには花でも買って帰ってきたらどうか」と言ってみたら、すごく困った顔して出てって、深夜になって最寄りのスーパーで仏花と菜の花と、あと生牡蠣を買ってきたんだよ。ダンナが考えつく精一杯の花と、私の好物。可愛くないですか。可愛いでしょ。可愛いんです。
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昔、北海道へ貧乏旅行に出かけた兄に電話したら「今?お砂糖を踏んでいるよ。大きな倉庫で、朝から晩まで固まった砂糖の山の上を歩いてる」「あと何日かお砂糖を踏んだら農家さんからお金がもらえる。それで帰る」と話して、あまりの訳わからなさに北海道は私が知らないファンタジーの大地だと感じた。
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しばらくしてから兄にその話を詳しく聞こうと「お砂糖の上を歩く、なんだか幸せそうなアルバイトしてたの?」と聞いたら、地獄を見てきたような表情で「あれな、甘くなかったぞ」と言ったきり黙り込んでしまったので、なんだか気の毒でそれ以上は聞けなかった。お砂糖なのに、とも言えなかった。
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タクシーに乗って、運転手さんから「お客さん、外国暮らし長かった方ですか」とか「帰国子女ですか」と聞かれることが時々あって、ある時「どうしてそう思うのですか?」と聞き返したら「車に乗ってきて、まず挨拶してくれるのは決まって外国の人か海外生活が長い人だから」とのお答えでした。不思議。
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ダンナと一緒に歩いていて文明堂の前を通りかかったので「私あの金色の箱のカステラ大好き」と好物のカステラ紹介したら「高い!」と値段にビックリしてたのに「でもあのカステラがあれば機嫌がいい」と補足したら「えっ、じゃあ安い!まとめ買いしておこう」と正反対に転んで資本主義の真理に触れた。
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ダンナに「察する」能力が無いことがわかってからというもの、ダンナに対して何か腹を立てた時にはその理由と希望の解決策や和解案をセットで提示するようにしていて、おかげで自分が腹を立てた時に理由を分析できるようになったし、無駄に争わずに済んでいる。発達障害も悪いことばかりじゃなかった。
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パート先のエラい人に「まめそまさん、20年くらい前まではね、毎日10時と3時に女性職員がお茶やコーヒーを入れて全員に配ってたんですよ」と話しかけられたので、面倒くさいやつキタ!と身構えたら「だから僕はね、本当はコーヒーに砂糖とミルク入れたいのに恥ずかしくて言えなかったんです」と。
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「毎日ブラックのコーヒーを我慢して飲んでたんです。あれがなくなって、女性職員は自分の仕事に集中できるし、それぞれ好きに飲めるでしょ。これに関しては今いい時代ですね」と、おそらくミルクと砂糖たっぷりの缶コーヒーを片手にエラい人が笑ってました。面倒くさいやつ疑ってスミマセンデシタ。
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お茶汲みシステムが廃止された経緯について「ある時、大阪から視察に来た職員が3時のお茶汲みを見て『驚いた!今時まだそんなことしてるんですか!?』って大笑いしたんです。その翌日あたりになくなりました」とのこと。意外といったら失礼かしら、関西のほうが先進的だったみたいです。商人だから?
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子ども会のナントカ会長の仕事で有給を取ってエラいお年寄り方とのナントカ会議に出席したのですが、どの議題にも要約すると「今の若い親はダメ、俺たち頑張った」「今の子どもは弱い、昔の子どもは強かった」というような意見しか出されずに得たものといえば入れ歯のニオイと軽い殺意くらいでした。
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「 置かれた場所に咲きなさい」なんて言葉、いい場所に生まれつき置かれたりうまいこと流れ着くことができた人にしか言えないよね。砂漠に生まれたり掃き溜めに流れ着いた人に向かって言えるか。そういう人が聞きたい言葉か。
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疲れてるなら手抜きをして休めばいいのはわかってるはずなのに、極限まで疲れちゃうと手抜きしていい部分とか休むタイミングとか方法を考える余裕すらなくなって全部やろうとしちゃうんだよねー。そんで苛立って自己嫌悪に陥るパターンまでわかったから、なるべく疲れる前に休んじゃうようにしている。
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さっき長男が「中学生になったら休み時間一緒にトイレ行くくらい仲がいい友達が欲しい」と話してたので「トイレ一緒に行って何するの?もしかしてちんこ持って手伝ってもらったりとか、おしり拭いてもらったりとかするの?」と長年の素朴な疑問をぶつけたら「最低!」って罵られたから子育て難しいな。
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あと数分で祖母が102歳になりますね。最近の祖母は施設職員さんに「これは最後のお願いなんですが」と縁起でもない前置きをして他愛もないワガママを通すテクを身につけたそうです。長い間ずっと誰にも甘えず一人で生きてきた祖母が、人生の終盤を幸せに過ごせていることを心から嬉しく思います。
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祖母は入所先の施設を病院だと思ってて、祖母の中では働き口が見つかったら退院することになっているそうです。施設職員さんが毎日「今いい仕事を探してますから、決まったらバリバリ稼ぎましょうね。それまでここでのんびりしましょうね」と声をかけてくだすっている。おかげで祖母はいつも笑顔です。
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高齢独居の祖母が大腿骨を骨折した時、母や私はベッドの上の祖母に「おばあちゃんはもう働かなくてもいいんだよ」と何度も声をかけてしまった。それが働き者の祖母にとってどんなに悲しく残酷な言葉であったことか。施設へ入所して介護のプロである職員さんと祖母の会話を聞くまで気づきませんでした。
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我が家では子供たちのスマホは親に閲覧権限があって、常に両親の監視下にある、ことになっている。実際に見たことはまだないけど、いつ見られても困らないという心構えで使ってもらうという約束。
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それでさっき長男が聞いてもないのに「あのさ、最近クラスのライングループで親ウザい話で盛り上がったりしてて、おかんおとんマジ最悪みたいな流れに長男くんも軽くノッてるんだけど」と深刻な顔して「長男くん、みんなの輪に入りたくて合わせてるだけのファッション反抗期だから」と告白されました。