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まだまだふにゃふにゃの乳飲み子と幼児を抱えていた頃。慣れない育児と一人になれる時間が10分と持てない不自由な毎日に疲れて、子供たちが熟睡している明け方に足音を忍ばせて外に出て、コーラとか飲みながら自宅前の歩道橋の上から眺める朝焼けがささやかな息抜きでした。そういう時期もあった。
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その頃はランドセル背負ったよその子が巨人かってくらい大きく見えたし、ふにゃふにゃの我が子をそのサイズまで成長させる自信も実感も全然なくて、ふにゃふにゃで小さくて重くて可愛くて弱っちくて、思い通りにならなくて意味がわからない生き物との戦いが永遠に続くような気がしていたんだよ。
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永遠に続くように思ったから明け方の歩道橋でボロボロ泣いていたのに、過ぎてしまえば今度は辛かった時期もほんの一瞬だったように思えるから不思議なもので。似た境遇を先に乗り越えた人が、今が大変な人に「大変なのは今だけ」「あっという間よ」みたいな言葉をかけてしまうのも、なんでかわかった。
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我が子の可愛さとは別に、育児から逃げたくて自分に絶望して一人になりたくて、消えてしまいたいとか飛び降りれば終われるとか考えてたことも、こうして文字にしておかなければ忘れてしまう。すっかり忘れたら、似たような状況にある人たちへ無神経な言葉を浴びせてしまいそうだから、書いておきます。
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拾った定期券を警察署へ届けたら手続きに小一時間かかって心底ゲンナリしたし、私の前に並んでたコンビニ制服姿の男性は「仕事中なんで権利も何もいらないんで!帰らしてください!」と半泣きで叫んでた。警察の職員さんが悪いわけでなく、届けた人に嫌な思いさせる事務のシステムが良くないと思うの。
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パート先の職場、ホワイトなはずだったのに私が毎朝30分早く出社して好き勝手にそこらじゅう掃除したり車ピカピカに磨いたりしてるのを美人上司が朝礼で「皆さんも見習ってください」なんて仰ったものだから、全職員の出社時刻が半強制的に早まってしまうというという最悪の結果をもたらしました。
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上司のヤギさんにメモ渡す時ヤギのイラスト書き添えるのはまだしつこく続けていて、最近ではヤギ書き忘れてると「おい、ヤギがいねえぞ」と催促されるようになりました。たまにヒツジ混ぜてみたりすると「てめー俺を誰だと思ってるんだ」と絡んでくるのでヤギさんの心のオアシスになってるんだと思う。
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同居してる義父は聡明な人で、完全同居とはいえ色々きっちり線を引いてくれて、おかげで比較的うまくいってるほうだと思ってるんだけど、何故かウインナーだけは私が買ってきて冷蔵庫にあるやつ容赦なく使う。どうしてウインナー限定で踏み込んでくるの。
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長男が「10から先の英語の数字、11はセブンイレブンあるからわかるし、13はゴルゴだからわかる。12の変なやつがどうしても覚えられない!何だっけ?」と聞いてきたので、表情を変えず作業も中断せず「クトゥルフ」と答えておいた。素直に「クトゥルフか、ありがと!」って感謝されて胸が痛い。
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101歳の祖母が入居先施設の職員さんに「死ぬ前にもう一度あげものさんが食べたい」とワガママを言い、親切にもアジフライやらトンカツやら出してくだすったのに祖母は「これじゃないよ」と機嫌が悪く、困り果てた職員さんから「あげものさんとは何の揚げ物でしょうか」という問い合わせがあった。
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という話を母から聞いて、一発でわかった。からあげくんだ。もう15年くらい前に、一人暮らし時代の祖母にローソンのからあげくんを差し入れたら祖母がいたく気に入って、コンビニに入ったこともなかった祖母とローソン行って買いかたを教えたんです。私のこと忘れても、からあげくんのこと覚えてた!
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行きつけのカレー屋さん、食事中に隙を見せると世間話ついでに
中古車とか中古スマホとかココナッツオイルとか子犬とか売りつけてくるのがちょっとな。今日はマトンカレー食べてる時に「ナンおかわりは?いる?犬は?好き?マルチーズいる?」って流れるように犬セールスされて危うく買いそうでした。
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「本当ですか?」の発音で「ファンタジスタ」が全然バレないって以前Twitterで見て、今日ヒマだったので「大丈夫ですか?」をモゴモゴと「体操部ですか?」「誕生日ですか?」「ボンジョビですか?」等にして遊んでみました。結果、ボンジョビの時だけエラい人がちょっと怪訝な顔してました。
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30歳の時に清水寺の舞台から飛び降りるつもりで買ったコートがね、それはそれは素晴らしく暖かくて軽くて動きやすくて、初めて袖を通した瞬間わああ!って感激したんです。でも次の瞬間、お金持ちと貧乏人は同じ時を同じ場所で暮らしていても味わう寒さすら違うのか...って気がついて少し凹んだ。
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それは器用に手早くチラシを折って小さなくずかごや箱や小鳥を作り出す老婦人がおられてね。その手つきや作品たちの細部まで整った美しさにいつも感嘆するのです。住所や夫や、色々なことを忘れて殺風景な病室で静かに暮らしてる彼女の、きれいに正しく慎ましく生きてきた人生の結晶みたいだって思う。
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仕事で関わるその老婦人は長く私を拒み、いつも目を逸らしたまま手元のチラシを折り続けていました。ひたすら足を運び、仕事を済ませては彼女の作品や技術に賞賛を送って1年以上が経った今日。できあがった小鳥をうっとり眺めているところに彼女から無言でチラシを差し出されたんですよね。
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私、折り紙って嫌いで鶴も折れないくらい不器用なんですけど。断れるはずもなく、必死で彼女の手元を見て、真似してチラシ折ったんです。四苦八苦しながら同じものを作ろうとしてもやっぱり間違えてヨレヨレになって。すると老婦人の手が正しく直してくれる。ふと顔をあげたら老婦人が笑っておられた。
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上司のヤギさんがエラい人の愚痴を言ってて「死ねばいい」と言い放ったので、つい「いくら腹が立ってもそんな物騒なこと言うもんじゃありません」と諌めたら小さな溜め息をついて「そうだな、ミミズだけ食って生きればいい」と言い直してから「それから苦しんで死ねばいい」と付け足してた。闇は深い。
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この時期スーパーの食品売り場が徐々に正月モードに変わる様が本当に好きで、用もないのにスーパーをはしごして帰ります。かまぼこがね、先週の金曜までは100円とか200円だったのが、今日は正月専用かまぼこ400円スタートだったりしてね。かまぼことかハムあたりから少しずつ狂っていくよね。
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年末年始の狂いゆくスーパーは、商品を買う人も陳列する人もレジ打つ人も狂ってはいないのに、毎日ほんの少し棚に隙間を作ってはそこに狂気めいた正月ムードが割り込んで当然のようにきっちり並んで、いつの間にか狂っている。ケからハレへ、正常から狂気への、恒例で一過性の不思議なグラデーション。
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私は毎年この時期、このグラデーションの観察に夢中になり、狂気めいた値段のかまぼこに圧倒されるあまり四六時中かまぼこのことを考えては普段あまり食べないかまぼこが無性に食べたくなる。しかしながら狂った値段のかまぼこを買うのがどうしても悔しくて、一人わさびのチューブ握りしめて泣くんだ。
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そんなことが何年か続いたので、今年は狂う直前のかまぼこを買っておいたんだ。文句のつけようがない絶妙のタイミングだった。そしたら今度は全然かまぼこ食べたくならないもんだから冷蔵庫を開ける度にかまぼこ見て(何これ)って思うんだよ。かまぼこよりも先に私が狂ってしまった悲しい結果である。
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今朝ダンナに「昔から誰かと飲みに行く時には相手の終電を調べておいて乗り遅れないように声かけるようにしてる」って話をしたら、不思議そうに「僕にもしてくれたっけ?」と言われたんですけど、そりゃもちろん終電なんか逃して一緒にいたい人に対してそんなことするわけないじゃんね。鈍感野郎めが。
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「あなたがたのうち日頃から掃除をしている者だけが年末に大掃除をしなさい」イエスがそう言うと、私たちは戸惑い、一人また一人と使い慣れない掃除用具を放り出して、こたつやおふとんやTLへ戻り、ルンバだけが残った。
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年越しそば的ラーメン食べた地元の中華屋さん人気店らしくて大変な混雑でした。あの時、隣の席で2歳くらいの男児が膝にラーメンこぼして大泣きしてさ、しっかり者そうな母親が手当よりも先に「迷惑でしょ!!」って口塞いだ。もう忘れたけどきっと私もそうだったんだろうなって悲しくなっちゃってさ。