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この記事にも「努力」といつ言葉が出てくる。竹中平蔵氏が新著でも語っているらしいキーワード。竹中氏がこれまでに日本に染み込ませた「呪い」が、日本中で孤独を生んている。
もう、この妙に説得力のある、それだけに強力な「呪い」を解除すべき時がきているように思う。
withnews.jp/article/f01912…
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格差はどんどん大きくなり、どれだけ努力しても浮上できる見込みの立たない困窮に置かれる人が増えてきた。努力や勉強が社会的浮上につながらない、歯車の噛み合わなさを放置して、「努力が足りない、勉強不足」と断ち切る。そして自分の成功を暗に称える。そんな構造が日本で生まれている。
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昨年、東京大学の農芸化学科は定員80人なのに、進学希望したのが50人台だったという。なぜそんなにも希望が減ったのだろう?今の若い人たちは、農芸化学が就職で非常に有利だということを知らないのだろうか?教えてくれた人によると、先輩から聞くはずだというのだが。
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農芸化学は食品メーカーへの就職が多い。製薬メーカーの研究者になる人も多い。ビールとかの酒造メーカー、飲料メーカーにも、他の学部と比べて圧倒的に有利だし、研究者にもなれる確率が高い(ただし修士号はとっておいたほうがよい)。農学部は、生物系の就職にむちゃくちゃ強い。
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まあ、私も農学部卒業だと言ったら、「今時、畑を耕すのか」なんて言われたから、農学部がとても遅れた分野だと誤解している人は多い。しかし農学部は医学部、薬学部と並んでバイオサイエンスの研究で最先端を走っており、特に食品や飲料メーカーに就職がとても強い。
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製薬にも就職が強いが、こちらは医学部や薬学部出からも行ける。ただ、製薬メーカーは健康保険制度のガタツキもあって規模を縮小しており、就職先としてちょっと厳しい面も出てきているかもしれない。他方、食品・飲料メーカーへの就職の強さは、農学部は圧倒的。
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修士を出ておけば、食品・飲料メーカーで研究者として配属できる可能性が高い。農学部を出たら職業は農業しかない、という変な誤解があるけれど、食品・飲料メーカーへの就職は、他の学部の追随を許さないほど、農学部が強い。
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私の先輩同級生後輩(ただし東大じゃなくて京大の農芸化学)でも、食品・飲料メーカーに就職した人が多い。食品・飲料は景気に左右されにくく、経営が安定しているから、就職先としても非常に良いように思う。そして、食品・飲料に就職するには、農学部は非常に有利。中でも農芸化学は特に。
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東大京大じゃないけれど、旧帝大の学生で、理学部の学生を私は指導することが多いのだけれど、食品・飲料メーカーに就職したがっていた学生、無理だった。理学部は勉強の面で非常に難しいのだけれど、その分野の企業に就職する場合、農学部の人間は超有利だった。
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まあ、就職ばかりが人生ではない(私なんかは農業研究者になっちゃったし)のだけれど、就職って確かに重要は重要。で、景気に左右されにくい食品・飲料メーカーに就職するには農学部、特に農芸化学が有利なのに、あんまり知られていないようだ。もったいない。
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もしかしたら、農学部ってところがどういうところか知らない人が増えているかもしれないので、ちょっとデフォルメしすぎだけれど、農学部の雰囲気を伝えているマンガを紹介しておく。
まず筆頭は「もやしもん」(石川 雅之)。
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これは獣医学部に偏るんだけど、研究者も出てきてまあ、変な人ばかりが出るけれど、まあ、実在の人物をデフォルメしているという点で。作品も面白い。
「動物のお医者さん」(佐々木倫子)
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これは農業高校の話で、しかも畜産ばかりなので、農芸化学の話とずれちゃうんだけど。農業のマンガとしてはやはり挙げておきたい。
「銀の匙」(荒川 弘)
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あー・・・なんか、当初の農芸化学、農学部は就職が有利なんだぞ、というテーマからずれていくけど・・・農業マンガで面白いと言えば、どうしても挙げておきたい。
「百姓貴族」(荒川 弘)
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うーん、こうして農業系のマンガを並べてみると、農芸化学の雰囲気、大学の農学部の様子がいちばん表れているのは、「もやしもん」かなあ。ただ、他の作品も、農業のことを楽しく知るのにとても適しているので、読んでみていただきたい。
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農家が激減している。2020年に農業従事者の数は152万人。2007年に312万人いたことを考えると、13年で半分に減少している。高齢者がどんどん農業をやめているので、日本の農業人口はますます減少していくだろう。
jacom.or.jp/nousei/news/20…
jacom.or.jp/nousei/news/20…
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日本の農業は大規模化が進行中だが、何か落とし穴はないだろうか。一つ懸念されるのが「過疎化」だ。
今はまだ、元農家の高齢者が農村部にたくさん住んでいる。その住民の需要を当て込んで、スーパーマーケットも、ガソリンスタンドも存在している。しかしやがて、高齢者が姿を消していくと。
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住民が少なすぎて、スーパーやガソリンスタンドは経営が成り立たなくなり、撤退していくだろう。飲み屋や飲食店も姿を消すだろう。そうなると、田舎の農業従事者にとって気分転換も難しく、生活するにもあまりに不便な地域になってしまう。
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大規模農業は一人ではできない。従業員を雇うことになる。しかしあまりに不便になってしまった田舎に住むことを、経営者は嫌がるようになるかもしれない。すると、従業員に農作業を任せて、自分は都会で暮らす不在地主的な経営者が出ないとも限らない。こうなると。
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現場の従業員との意思疎通が難しくなり、次第に不満がたまっていくだろう。やがて、かつての不在地主と小作人との関係のように、ギクシャクしてくる可能性がある。
古代ローマには、ラティフンディウムという大規模農業が盛んになった。しかしこれも、経営者がローマに暮らし、奴隷に耕させるように。
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現場に来ようとせず、収入だけを送れという経営者に不満を持ち、農業生産への意欲は減退。農地に堆肥を入れ、地力の維持に努めなきゃいけないのに怠るようになり、次第に土壌がやせ、ついには石灰岩の露出する土地に変わってしまったことが、モンドゴメリー「土の文明史」に記載されている。
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生産性の高さから大規模農業が進められているが、それは人を減らすということでもある。それは同時に過疎化を意味し、スーパーやガソリンスタンドなどの地域インフラが維持できなくなる。すると経営者はつまらないから都会に住むようになり、不便な土地での農作業を従業員に丸投げになる恐れ。
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田舎に住民をつなぎとめる政策を施さなければ、大規模農業もやがて維持が困難になるほど、過疎化が進むだろう。大規模農業に従事する従業員も人間であり、生活インフラもなく、ただ耕せと言われても我慢が続かないからだ。生活インフラを維持し、ある程度遊興もできる程度の住民数が必要。
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アメリカではすでに大規模農業の弊害が現れ始めている。小学校は生徒数が少なすぎて閉鎖になり、病院も撤退し、映画館もボーリング場も姿を消し、わずかに小規模な店を残すのみになって、若者が農業を継ぐことをためらう原因にもなっている。病院や学校は、その土地で暮らすのに必須のインフラなのに。
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大規模農業を持続するには、田舎の住民数をいかに維持するか、という政策とセットでなければ、早晩、破綻することになるだろう。農業以外の生活インフラを田舎でとう維持するか、という問題は、近い将来の日本の食料安全保障と直結する問題になるかねない。