伊達きよ(@kiyokiyomaroro)さんの人気ツイート(リツイート順)

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狐の優しくとも残酷な嘘を信じました。 黒猫が、この小さな村の小さな家に戻ってくる事は不可能でしょう。なにしろ黒猫はこの村の名前も知りません。例え目が見えるようになっても、村までの道のりを知らないので、帰りようがありません。狐は自分がどれだけ残酷なことをしようとしているかわかって
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返すのはお金でも毛皮でもなくていい。貴方自身で払っていただければ」と。狐は最初意味がわかりませんでしたが、手首を這う医者の手が二の腕まで伸びてきた時に、ようやく気付きました。狐はほんの少しだけ悩みましたが、ほんの少しの後にしっかりと「わかった」と頷きました。そも、狐には一生
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黒猫には金で不自由な思いをして欲しくありませんでした。今は無邪気に自分との生活を一番だと思ってくれる黒猫も、いずれはその不便さや不自由さ、息苦しさに気付くはずです。 最近、村の若い者がそわそわとした顔で黒猫を見ているのを狐は知っていました。狐の目だけにではなく、誰の目にも黒猫は
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いました。しかし、それが黒猫にとって一番の幸せなのだと思っていました。こんな村で、嫌われ者の狐と暮らしていくより、街に出て学問を学び良き友を得て楽しく賑やかに暮らしていく方がいいのだ、と。狐は黒猫の素晴らしい未来を思い描き、精一杯の笑顔を浮かべました。そして今生の別れのつもりで
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かかっても返せないだけの借金があるのです。それが少し増えたところで痛くも痒くもありませんでした。自分の体で黒猫を素晴らしい世界へ送り出せるなら、それ以上に良いことなどないと思ったのです。狐は用意周到な医者と契約書を交わして、来た時と同じようにこっそりと家に帰りました。
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黒猫を抱き締めました。黒猫も、同じだけの力で狐を抱き返してくれました。狐は泣きました。黒猫に悟られないよう、静かに、ほろほろと。 父の罪を償うためだけにあると思っていた自分の人生に、もうひとつ、それとは比べようもない立派な意義が与えられたのです。狐は生まれて初めて「ありがとう」
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きました。狐は父狐や、村人、そして医者のことを頭に思い浮かべました。そして「そうだな」とこくりと頷きました。金があれば、金があったから、金がなかったから、狐は悲しい思いをしたり何かを諦めてきた気がします。実際のところ、金があれば幸せかどうかなんてわかりません。ただ、それでも、
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狐はそんな卑しい自分がほとほと嫌になりました。黒猫の幸せを願うのであれば、そろそろ黒猫を手放してあげなければならないのです。 ある日狐は、黒猫に言いました。「今からお前の目が見えるように手術をする。お金?大丈夫、これまでにちゃんと蓄えておいたんだ。毛皮もたんまりある。なにも心配
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かも知らなかった狐は、自分の物知らずぶりに思わず笑って、そして泣きました。泣く狐を見て、医者は興奮した様子でした。いつもより手酷く扱われながら、狐は「黒猫」「俺の黒猫」と小さくこぼしてはしくしくと泣きました。もう自分の黒猫ではない……いや、元々その黒い毛の一片たりとも自分のもの
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魅力的に見えるのでしょう。それはそうです、だって、狐の可愛い黒猫なのですから。黒猫がその視線に気付かなくてよかった、目が見えなくてよかった、と心の隅でぼんやりと考えてしまってから、狐は「いけない」と思いました。心の泉に沈めたはずの願いが、その箱の隙間から漏れ出していたのです。
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する事はない。それから、手術後すぐにお前が学校に行けるように手続きをしておいたんだ。うん、そう、ちゃんとお金を稼げるようにね。しっかり勉強するんだ。…え?もちろんいつでも帰って来ればいい。ここはお前の家なんだから……」 黒猫は何度も何度も狐に確認しました。狐はその不安を消して
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じゃないか。てっきりもう興味がないのかと思っていたよ」なんて笑われて、腕を取られて乱暴に裏返されて……狐はぼんやりと荒屋の天井を眺めました。そう、自分の知らないところで黒猫は本当の家族を得て幸せに暮らしていたのです。しかも、黒猫はもう学園を卒業したのだといいます。学園に何年通う
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どんなに外の世界の素晴らしさを語っても、黒猫はいつもこんな調子で、狐の首筋に鼻を押し付けちりちりと鈴を鳴らすばかりです。狐は耳を伏せて「困ったな」と内心考えてから「俺も金があると嬉しい」と言いました。すると黒猫が真っ黒な目を丸くして「狐さんはお金があった方がいいですか?」と問うて
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それからまた、いくらかの時が流れました。ある冬、狐は風邪を引きました。初めはこんこんと咳が出る程度でしたが、そのうちに寝床から立ち上がれないくらいの頭痛に襲われて、目の前がぼやけて、手足が痺れて、水を飲むことすらできなくなりました。しばらくして頭痛は治り、熱も下がりました。が、
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なるまで助けることができなかった僕自身に……怒ってる、嫌いだ、苦しい……」眩しい世界の中で泣いていたのは、黒猫とはまるで違う、大きな黒豹でした。大きな大きな体を丸めて、おいおいと泣いています。どこからどう見ても黒猫ではない彼に、しかし狐は手を伸ばしました。思い切り伸ばして、その
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と心からの感謝を、誰にともなく述べました。 続く。
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そしてきつく縛った縄を解いて、箱の蓋を開けました。 「ずっと黒猫と一緒にいたい」 狐は、初めて自分の望みを口にしました。一緒にいたい、いたい、いたいよ、と寝床の中で繰り返しました。黒猫に幸せになって欲しかった、けれど本当は、それと同じくらい、狐は黒猫と一緒にいたかったのです。黒猫が
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屋敷や素敵な家族を持つ立派な医者でしたが、この家に来る時は悪い男でした。文字通り「好き勝手」にされて、狐は自身の尊厳というものをくしゃくしゃにされてしまいました。医者が来た次の日は寝床から立ち上がることもできません。村人に「月に何日も寝込んで、役立たずだねぇ」と言われるので、無理
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狐が送った音です。「黒猫」狐は吐息のような声を漏らしました。黒猫、黒猫、俺の黒猫。 世界は真っ黒に染まりました。黒猫の色です。狐は黒猫の色と音に包まれて、もうなにも怖くないと思いました。 続く
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狐はごろりと転げ落ちました。が、その体を誰かが受け止めました。驚いて身をひくと、りんりん、と懐かしい音がしました。いつもの幻聴かと思いましたが、あまりにも「そこ」にあるように鳴るので、狐は「黒猫?」と虚空に向かって問いかけてしまいました。返事はありません。狐は躊躇いながらも口を
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そしていよいよ寝床から立ち上がれなくなった頃、狐は「そうだ」と昔のことを思い出しました。昔々、黒猫がまだ狐の黒猫だった頃、自分は自分の願い事を胸の中の泉に沈めてしまった、と。もう許される頃だろう、と狐は心の泉に潜り、縄でぐるぐる巻きにされた箱をそっと拾い上げました。
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貰ったよ」と言われても、狐は呆然とするばかりです。黒猫が妙に上品だった理由を今更ながらに目の前に差し出されて、狐は息もできずに目を見開いていました。「君はあの子に自分の存在を知られたくないって言っていたから、君のことは黙っておいたよ」「そもそも、君は全然彼のことを聞いてこなかった
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です。 多分、聞かなければいけないことや、謝らなければならないことがたくさんあると思いました。が、今だけは、その全てを忘れて狐は黒猫を抱きしめました。黒猫の大きな腕が、今は小さくなってしまった狐の背中に回りました。その腕の、たしかな温もりを感じながら、
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何度も心の中で繰り返しました。辛いことがあった時、どうしても立ち上がれない時、そのことを思い出して、心の中で優しく撫で回して、そして元気を貰いました。黒猫のことを思えば、どんな不幸も幸せに変わりました。黒猫は、狐の希望でした。 しかし、ある時から医者はあまり黒猫の話をしなくなり
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なくなりました。なんともあっけない関係の終わりでした。しかし、狐の方もちょうどよかった、と思いました。視界のぼやけは一向に改善せず、最近は目を開いていても閉じていてもあまり変わらないような状態だからです。辛うじて目の前のものの大きさは捉えられますが、それが何なのかまではわからない