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この国の○○の息子だったらしいじゃないか」と。狐は「え?」と切れ長の目を見開きました。○○といえば、国の重要な役職です。一般人はおいそれと出会えないような、そんな。「後継者争いから殺されかけて乳母と共に逃げ出して、いよいよ追い詰められて川に流された…ってさ。まるで御伽噺みたいな
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として立ってくれて、諸々の手続きも済ませてくれました。狐の寝床で「悪さ」をする時、時折思い出したように「あの子は本当に優秀だったみたいだね」「学年で一番だそうだよ」「表彰されたってさ」と教えてくれました。どうやら後継人として学園から連絡がいくようです。狐は医者に聞いた話を何度も
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ことを伝えました。黒猫が狐と話さないのは、きっと狐に腹を立てているからだ、と。いつでも帰ってきていいなんて調子のいいことを言って姿を消した仮の…保護者に怒っているのだろう、と。ごめんな、ごめん、と繰り返す狐の肩を大きな手が掴みました。「怒ってますよ!」という怒鳴り声とともに。
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なんてありえるわけがないのに。そもそも、この村に戻ってこないように村の名前すら、帰り道すら教えなかったのは自分なのに。
黒猫は今、幸せに生きている。本当の親に巡り会えて…。それがわかっただけでいいじゃないか、と狐は何度も心の中で繰り返しました。繰り返して繰り返して…、
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目が覚めると、やはり視界は真っ暗でした。しかしぼやけているのではなく、強制的に真っ暗闇の中にいるようです。目に触れると包帯が巻かれているのがわかりました。どうやらどこかの寝床に寝かされているのだとわかり、狐はよろよろとそこから出ようとしました。が、力のかけどころが上手くわからず、
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をして一日で起き上がるようにしていましたが、本当は二日でも三日でも寝込んでいたい気分でした。そんな最悪の日々でしたが、狐はそれでも幸せでした。黒猫が元気に学園に通っていると知っているからです。
医者はきちんと約束を果たしてくれました。黒猫は全寮制の学校に通っています。医者が後継人
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貰ったよ」と言われても、狐は呆然とするばかりです。黒猫が妙に上品だった理由を今更ながらに目の前に差し出されて、狐は息もできずに目を見開いていました。「君はあの子に自分の存在を知られたくないって言っていたから、君のことは黙っておいたよ」「そもそも、君は全然彼のことを聞いてこなかった
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狐は初めて知りました。黒猫もこんな気持ちだったのかな…と思って、心が切なく萎みました。
もうこのまま話しかけられることはないと思っていたある日のこと、「彼」が思いがけず声を発しました。「貴方の目の手術は成功しました。明日にでもその包帯は取れます」と。そして「家と、しばらく暮らせる
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だけの金を用意してあるので、もし……嫌でなければそこで暮らして欲しい」と。とても低く、重たく、黒猫とは似ても似つかない声でした。
狐はしばし黙り込みました。それからゆっくりと口を開きました。「黒猫…だよな」と。相手は黙ってしまいました。沈黙は肯定と同様です。狐はたまらず「黒猫、
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話だ」「君、川であの子を拾ったんでしょ?」なんて、笑いながら話す医者は、まるで他人事のようです。いや、他人だからしょうがないのですが、狐にとっては黒猫は他人ではありません。「とても優秀で学園でも目立っていたからね。ずっと息子を探していた○○と感動の再会さ。あぁ、私もいくらか謝礼を
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うとうとと眠気が消えません。
ふと起きると、よく人の気配を感じました。部屋には何人か出入りしているようでしたが、狐に判別がつくのは一人だけでした。あの、鈴の音をさせる人です。彼はよく部屋にいるようでした。時折、寝ている狐の毛を梳いている気配がします。狐は目が覚めていても、何も言い
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ました。狐は黒猫のことを聞きたくてたまりませんでしたが、医者の機嫌を損ねると「悪さ」がひどくなるので黙っていました。が、いくら経っても黒猫の話をしてくれないので、狐はついに耐えきれず黒猫の話をねだりました。すると医者は思い掛けないことを言いました。「あぁあの子ね。あの子は凄いね。
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托卵された鳥獣人、他の種の卵に紛れ込んでピヨって生まれる…んだけど、そこはなんとドラゴンの巣。他の兄弟と見た目もサイズも違いすぎる。けど、両親は「うん、まぁうちの子」って大らかに育てるし、弟四匹は「にいちゃんにいちゃん」って慕ってくる。一番に飛べたし、身軽だし、「ふふん俺は兄弟の
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魚を釣りあげ焼いて食べて。そしてまた寝床に入って寝る。その繰り返しです。たまに川の淵にぼんやりと座り込んでいると、小さな鳴き声が聞こえてきます。その度に「黒猫」と叫んで狐は川に飛び込みます。しかしもちろん、川に籠は流れてきませんし、黒猫もどこにもいません。狐の幻聴です。目が悪く
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噤みました。黒猫であるはずがないと気付いたからです。どうして幸せに暮らしているはずの黒猫が帰る家も教えずに放り出した狐など探し出すでしょうか。…その部屋は薬品の匂いがしましたので、狐は躊躇った後に「××…?」と医者の名前を口に出しました。すると、息を吸うような音がして、それから、
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目の前はぼやけたままでした。びっくりしましたが、そのうち良くなるだろうと思っていました。しかし、何回寝て起きても目の前はぼやけたままです。どころか、日に日にぼやけはひどくなっていきました。
その頃になると、医者が訪ねてくる頻度もぐんと落ちていました。どうやら狐に対する興味も薄れて
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。そのくらいに視力が落ちていました。村の人達はよろよろと歩く狐に、金を返せとは言わなくなりました。むしろ「いらない病気をうつされたら困る」と近寄りもしなくなりました。狐は村の中で、不思議なほど静かに暮らしていました。朝起きて、川で顔を洗って蓄えていた木の実を食べて、運が良ければ
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なくなりました。なんともあっけない関係の終わりでした。しかし、狐の方もちょうどよかった、と思いました。視界のぼやけは一向に改善せず、最近は目を開いていても閉じていてもあまり変わらないような状態だからです。辛うじて目の前のものの大きさは捉えられますが、それが何なのかまではわからない
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きたようです。視界のぼやけを医者に相談してみようかと思いましたが、やめました。自分の体のことを相談するには、医者に「嫌なこと」をされ過ぎました。彼に相談するくらいなら、なんでもないふりをしている方がマシです。医者は何も気付くことなく、いつも通り悪さをして……そして、ふつりと現れ
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ドアがバンッと力強く閉められました。鈴の持ち主は部屋の外に出て行ってしまったようです。狐はどうしようもないまま、寝床に体を埋めました。それ以外、狐に出来ることはなかったからです。
それから、狐は一日のほとんどを寝床の上で過ごすようになりました。薬を与えられているからか、日がな一日
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#創作BL
写ル○ですの時代にさ、「お前が好きなもんたくさん撮っといたぞ」って仲の良い友達にカメラ渡されてさ。いやこれ俺が今度旅行で使おうと思ってたやつじゃんあと何枚残ってんの?…え?残り二枚?ふっざけんなよ〜ってなってさ。結局、そんな半端な枚数の持ってけるかよって新しいヤツを
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初エッ…の次の日、朝ご飯に手作りのパンとかシャウ○ッセンのウインナーをボイルで出してくる攻めと、そもそも朝ご飯を食べるっていう概念がない受けの組み合わせ好き。「卵はどうする?(目玉焼きかゆで卵かオムレツか的な意味)」に対して「あ?冷蔵庫に入れる…?」って返す。育ちの違いBL。
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#創作BL
何にでも誰にでも優しい恋人。かくいう自分も街でふらふらしてる時に拾って貰ったしなぁ…、って肘ついて考える男の子。あの人が優しいのは俺にだけじゃないって思いながら同じく拾われっ子の犬を撫でる。
「自分だけが特別じゃない。調子に乗るな」って自分に言い聞かせていたそんなある日、
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#創作BL
スパダリくん(自分のことを攻めだと思ってるタイプ)がさ、恋人に贈り物するんだけどまぁ全然響いてなくて。じゃあ次は服だ、時計だ、ご飯ももちろん全部俺持ちで...、ってデート重ねるんだけど相手は段々冷めたような顔していって。
で、実際恋人くんは「はー?」って思ってる。プレゼント
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名家のΩなので発情期を迎える前に「どうぞどうぞ。まだ誰も手をつけておりません真っ新なΩです」って貢物みたいに良い家のαに嫁がされる…んだけどこのαがもう絵に描いたような第二性差別主義者で、Ωのことを物のように扱ってくる。「お前はただの子を産むための道具だ。発情期が来たら孕むまでは