151
三島由紀夫が亡くなったのは45歳だけど、この年齢の前後くらいに多くの作家の代表作が書かれている。夏目漱石の「こころ」は47歳、遠藤周作の「沈黙」は43歳、村上春樹の「ねじまき鳥」は45歳。経験と体力のバランスが絶妙なのがこの時期なのだろうか。人生100年時代だと、まだ半分も来てないのになあ
152
河合隼雄の「カウンセリングの実際問題」と小沢牧子の「心の専門家はいらない」。大学院生なんかは、この二つを合わせ読みながら、自分の仕事について思索すると勉強になる。この50年の臨床心理学が切り捨ててきたのが社会モデルであったことと、今それこそが回帰する必要があることを思いながら。 twitter.com/yamazakitakaak…
153
卒業式のない卒業。子ども達がうまく心に折り合いをつけられるといいのだけど。儀式は形式主義的だから、なくても良いもののように思えるけど、実際には人生の別のステージに移るときの不安定な心をフワッと包み込んでくれるもの。みんなと一緒に「儀式すること」が、人生の移行を支える。
154
155
それにしても、こう次々と催しが中止されていく現実を見ると、普段の我々が日々いかに互いに接触して、影響を与えたり、与えられたりしながら暮らしていたのかがわかりますな。「社会」という当たり前すぎて見えにくいものが、実はものすごい勢いでグルングルンと人を巻き込んで動いていたのを実感。
156
これ、チンパンジーでもそうだと聞いたことがあります。遊びは集団の緊張を和らげるためになされるので、正体不明の新人がやってくると「遊ぶ」。付き合いたてのカップルがカラオケとかボーリングとかで遊ぶのは不安だからで、本当に信頼できると遊ばなくても一緒にいられる。 twitter.com/MajimeShunsuke…
157
大学生になぜ本を読まないのかを真面目に聞いてみたら、インターン、授業課題、アルバイトで忙しい中、本を読むのはコスパが悪いから、瞬間的に楽しめることや好奇心を満たせるものをつい求めてしまうとのことだった。本人たちもそれで良しとは思ってないだけに、大学改革とはなんだったのかと思う。
158
この休息に効率を求めた結果、他者が排除されてしまう感じは、まさに現代の心理療法で扱われている課題だ。家族やパートナーに効率を求めてしまうと人は孤独になる。そして、孤独は疲れる。それで余計に休息に効率を求めてしまうという繰り返しをどうするかという課題。 twitter.com/ktowhata/statu…
159
同じことをグルグル考えているとき、絶対に答えが出ない気がするけど、実際には半年や一年単位で違う風に考えるようになるものです。思考とはカタツムリのようで、研究もカウンセリングもそういう営みだと思う。問題は考え続けることが難しいことなので、同じことを話せる相手がいるのには価値がある。
160
試験監督は実は監視ではなくケアの仕事。つつがなく試験が行われるように、室温を調整して、音を殺し、体調不良に対処する。まさにケア的なのは、試験監督が活躍せず目立たないときほど試験が無事に進行しているところ。逆に活躍が目立つのは悪いことが起きているとき。まさに親の仕事そのもの。
161
相談のたびに違うスクールカウンセラーが出てくるシステムだった結果、結局相談自体を辞めてしまった子供の事例を読んで思ったのだけど、対人援助職の本質って、なんだかんだで援助技法とかプログラムではなく「その人だから」というところにありますな。だからこそ、援助職の雇用には安定が不可欠。
162
保健室がまさにそうなんだけど、「居場所」というのは定住する場所ではなく、あくまで避難所であるのが大事ですね。普段は隠されている苦しさが束の間現れるのが居場所。いつもいる場所とか職業にしちゃうと、居場所は居場所じゃなくなってしまう。
163
ヘッセの「車輪の下」がまさにこれでした。一つの競争に勝った途端に、本人も周りの大人ももっと勝ちたい気持ちになってしまって、あらゆる時間が競争のための時間へと組織化されていってしまって、気づくと以前に勝った分まで失っているという話。ああ、これはこち亀的でもあるし、民話的でもあるな。
164
中学受験の合格発表の場で、大学受験の業者がチラシを配っているのを見るとつらい。マラソンのゴールの瞬間から次はトライアスロンを始めようとするようなもの。受験はたとえ受かったとしてもダメージがあるわけだから、しばらく休ませてあげてほしい。進学校の中1にいかにうつっぽい子が多いことか。
165
心理学にとって文体というのは中核的な問題だと思う。例えば、認知行動療法と精神分析、論文を一読してわかるのは文体が全く違うこと。語彙も、文の運びも全然違う。心には本質的に形がないからこそ、形を描くことを使命とする文体にこそ理論が宿る。
166
ああ、でも「嘆き」ということは、お世話してるのだけど、何もできないということでもありうるのか。辛い人を前にして、なんかできそうだと“cure”で、なんもできない人だと“care”なのか。
167
“care”と“cure”が語源が違うのも面白い。前者は「嘆き」とか「悲嘆」の意味で、「病床」という含みもあるらしい。後者は「世話」「心配」「責任」の意味。“care”は苦しんでいる側で、“cure”はその周りで世話をする側だとのことで対照的。語源は深層を見せてくれる感じがして、素晴らしいな。
168
思い切って「オックスフォード英単語由来大辞典」を買ったのだけど、素晴らしい。例えば“cry”はもともと「熱心に要求する」「声高に求める」という意味だったらしい。赤ちゃんが泣くとき、彼らは何かを求めてるし、よく考えたら大人が泣くときも、実はそこには何かを求めてる気持ちがあるなと思う。
169
長谷川和夫「ボクはやっと認知症のことがわかった」面白い。認知症の権威である医学者が認知症になったという時点で既に面白いのだけど、患者さんに今までデイサービスを勧めていたが、実際に自分も行くようになったらお風呂が気持ちよかった、王様気分だった、とほのぼのしてて素晴らしい。
170
先日の朝日新聞に書いた文章、こちらで全文読めるようです。
大佛次郎論壇賞・東畑開人さん受賞記念寄稿 ケアの価値見失う大きな社会|好書好日 book.asahi.com/article/130655…
171
「お金にならないけど素晴らしいこと」が世の中には色々あると思うのだけど、それを収益化しようとした瞬間にその素晴らしさは消し飛んでしまう。だけど、「お金にならない」と継続するのが難しいし、徐々に虚しくなりやすい。「お金にならない」にかかっているこの深い呪い。
172
「将来の夢」についての卒論。面白かったのは子供たちが夢を語ったり、発表したりするとき、「自分のレベルにあった夢」を言わねばならぬという強い圧力を感じていること。夢みたいな夢を語ると人の目が怖いので、夢を語るためには現実を見ないといけないという諦めの装置としての夢教育。いや悪夢か。
173
この前授業で「自分を好きになるにはどうしたらいいですか?」というベタな質問をされたのだけど、自分という曖昧なものを直接好きになるのは至難の技だから、先に他者を好きになった方がいい。それは嫌いな自分を和らげる。とはいえ、リアルな他者を安定して好きでいつづけるのも大変なのだけど。
174
色々な業界を見てて思うのが、若手を育てるために年長者がなすべき最も重要なことは、雇用を作ることですな。教育プログラムや訓練ももちろん大事だけど、きちんと生活することができて、学んでいるものを実践する仕事があることが、若手を育てる。雇用なしの教育はしばしば搾取のようになりますし。
175
「疲労とは休息への欲望が活性化された状態」とジャネが書いているのだがあまりに完璧で、深い定義だ。しかし、酸欠時に酸素をなんとしてでも吸おうとするようには、疲労のときに人々は休息を得ようとしないのは不思議なことだ。なぜか疲労のときに快楽を処方しようとして、より疲労が濃くなる。