51
江川紹子「『カルト』はすぐ隣にーオウムに引き寄せられた若者たち」に元信者の手記が出てくるが、ひどい環境の中で体を壊すところまでいっているのに、環境ではなく、自分を変えようとし続けるのが印象的。それは無理があるのだけど、だからこそ自己に対する期待がミラクルな水準にまで高まっていく。
53
大学の新入生にレポートの書き方を教える。個人的には以下の2つで評価は30点上がるのではないかと思ってる。
① 必ず4行以内で改行する。
② 4段落程度で1節にして、必ず小見出しを入れる。
同じテキストでも、改行と小見出しを刻むだけで、ベタっとした文字の塊が、きちんとした文章っぽく見える。
54
サンデル「実力も運のうちー能力主義は正義なのか?」読了。能力主義の問題点を散々書いてきた上で、最後の謝辞では身の回りの人の能力を賛辞する文章が書き連ねられてるあたりに、能力主義問題の迷宮のような難しさを痛感する。
55
心理療法は前景に「心」があるが、後景には常に社会がある。つまり、時代の問題や社会の歪みがある。前景だけを語れば普遍的な人間の心性が浮かび上がるけど、後景を語ればローカルな営みが見えてくる。もちろん、両方必要だが、この20年は前景重視で、後景を語る言葉が貧しくなっていたのではないか。
56
「私たちはコロナの時代に孤独になったと言われますが、それはコロナが孤独をもたらしたのではなく、以前から存在していた孤独を誤魔化しようがなくなってしまったということだと思うのです」
ここが一番言いたかったことかもしれない。 twitter.com/ktowhata/statu…
57
「視点・論点」で話した「新型コロナは心にどう影響したのか ~奪われたケアについて~」がテキストになっています。
コロナが心に与えた影響は「間接的」であったこと、そして先送りと誤魔化しが、心にとって実に貴重なものであったことについて。
nhk.or.jp/kaisetsu-blog/…
58
岸政彦「給水塔」読んでたら、ジャズは聴衆ではなく演奏する人からお金を取るが、それは伝統芸能が客ではなく弟子から金を取るのと同型で、文化とはそもそも「やりたいやつから金を取る」ものだと書いてあって色々考えさせられてしまった。プロとは客を取れる人のことか、弟子を取れる人のことか問題。
59
森本あんり「不寛容論」とても面白かった。アメリカ草創期の宗教的迫害の歴史を追いながら、寛容とは「しぶしぶ」するものであり、つまり不快さに耐えながらなされる努力であり、そのために必要なのは相互の礼節であったという話。寛容な忍耐のためには、気持ちをどうこうするより、礼儀が役に立つ。
60
「はてしない物語」とかはまさに心の個室にこもることを描いた本であり、かつ読むと個室にこもれる本だから凄いな。
61
そう思うと、出版不況というが、本というメディアはこの世の終わりまで残り続けるんじゃないか。他者とつながるためのメディアはたくさんあるけど、自分とつながるためのメディアってとても少なくて、そういう欲求は人間である限りの消えることがないはず。
62
本というメディアの本質は、心の個室で安全に孤独になれるところにあるのではないか。読むのに時間がかかるから、きちんとひとりになれる時間を確保する必要があって、それがネットやテレビや新聞や雑誌とは違う。逆にいうと、本を読む余裕がないとすると、孤独になる権利が奪われているということ。
63
「私は淋しい人間ですが、ことによるとあなたも淋しい人間じゃないですか。私は淋しくても年を取っているから、動かずにいられるが、若いあなたはそうは行かないのでしょう。動けるだけ動きたいのでしょう。動いて何かにぶつかりたいのでしょう」
言うまでもなく、夏目漱石の「こころ」だが、至言だ。
64
読了、素晴らしかった。ゲームそのものではなく、それをめぐる親子のコミュニーケーションの方に問題があり、改善の余地があるという視座で一貫している本。ゲーム機は親が子に貸すという形式が良いが、サンタクロースがそれを妨害するので、サンタにはソフトの方を任せるといい、という話は特に良い。 twitter.com/ktowhata/statu…
65
この本、ゲームによって子どもの暴力性が引き起こされることはあまりなく、むしろ家族が「力づくで」ゲームをやめさせようとすることで、家族への反抗心が強まり、孤立や暴力に至ると書かれている。ゲームそのものではなく、ゲームをめぐる人間関係に暴力が宿っている。 twitter.com/ktowhata/statu…
66
絶対的に正社員の方が良い。援助者が毎日職場にいることには深い力がある。イレギュラーな危機に対応でき、組織のカルチャーを踏まえた上で支援をカスタマイズできる。連携は円滑になり、組織の構造そのものに働きかけることもできる。援助者自身も安定する。人件費がかかる以外、悪いことがないのでは twitter.com/cheeseholic5/s…
67
成功体験によって自己肯定感が上がるというのはよく言われていて、それもそれでそうだと思う。ただ、実は失敗体験について、自分ではなく、環境や社会に問題があったと気がつくことの方が自己肯定感にとっては大事なのではないか。自己賞賛を高めるよりも、残酷な自己批判を和らげる方に本質がある。
68
河合隼雄が村上春樹との対談で、頭でばかり「正しさ」を考えていると「小さな箱」に閉じ込められてしまうが、そこから抜け出すのを人間関係が助けてくれると語っている。人間関係は根本的に矛盾を含んでいるから、箱の中のピュアで小さな「正しさ」がもっと大きな景色から見えて、曖昧になっていく。
69
「涙は極度の悲しみからは生まれないが、ただ、なんらかの愛あるいはまた喜びの感情を伴ったり引きずったりする中くらいの悲しみから生じる」
これもデカルトの言葉だが、正鵠を得てる。悲しいことを涙するためには、もう泣いても大丈夫なくらいには、良いものが手元にないといけない。
70
「臨床心理学1995年革命説」。信田さよ子さんの歴史観だが、大変説得力ある。その年に内面的な心の問題とされていたことの多くが、実際に生じた暴力の結果だと再定義された。阪神大震災とオウム事件が起こり、DVが言葉として流通し始め、スクールカウンセラーが始まった年のこと。心の臨界点の話。
71
「心の革命」。フロイトとユングの決裂が、街中のクリニックと精神病院という働く場所の違いであり、見ている患者の違いであったことが見事に描かれてる。心理学理論は本質的に特定の人たちの心を描いたローカルなものなのに、普遍的な人間心性として語られがちであることの悲劇。
72
「心が病む」というとき、心は基本的に二人称なのではないか。世の中には様々な苦悩があるが、そのほとんどが他人からもたらされるか、「他人がいない」ということからもたらされる。他人は万病の元だが、同時にその万病の薬でもあるのが面白い。
73
この本に出てくる「嬉し涙は存在しない」説が面白い。嬉しいことがあると、これまで押し込めていたけど本当は悲しかった気持ちをようやく悲しめるようになるから泣く、これが嬉し涙だという説。 twitter.com/ktowhata/statu…
74
以前書いたけど、日の目を見ずに夕闇へと消えゆかんとするエッセイが発見されたので、ブログに載せました。
「心は太陽が南中しているときには目立たない。心は光の中ではなく、影の中に宿る」という河合隼雄論。
「夕闇の心理学―河合隼雄と小室哲哉」
stc-room.blogspot.com/2021/01/blog-p…
75
「精神がなにかの都合で不幸にも平静さを失ったとして、社交と会話はそれを取り戻すもっとも強力な救済手段である」
経済学の祖アダム・スミスの言葉だが含蓄が深い。そして、「社交と会話」が不可能になったときに、それを取り戻すのにどうしたらいいのかの集積がメンタルヘルスケアの知なのだろうな