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「自己肯定感」って心理学的な言葉で、それを心理学的介入によって改善しようという意図をもつ言葉と思うが、実は「自己肯定感」の低さを「心のせいではなく、社会のせいだ!」と怒ったり、悲しんだりしたときに初めて、自己肯定の回復が訪れることはままある。これも心理学のパラドックス。
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アメリカのある先住民では、「うつ」がそれ単体では病気でないという話も面白かった。落ち込みや悲しみを部族と分かち合ってる限りはそれは正常なプロセスで、人に話せなくなり、悲しみを一人で所有しているのは病いと捉えられる。心は人々の間を回遊してるのが自然で、個人に閉じ込められると病気。 twitter.com/ktowhata/statu…
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心理学にせよなんにせよ世の中にはすでに十分過ぎるほど文献があるので、何を書いても全く新しいことを言えることはないのだが、それでも何かを書くことに意味があるのは、それが自分サイズの言葉を作る行為だからではないか。教科書や先生の言葉ではサイズ感が合わないから、手に馴染む言葉を作る。
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相談のたびに違うスクールカウンセラーが出てくるシステムだった結果、結局相談自体を辞めてしまった子供の事例を読んで思ったのだけど、対人援助職の本質って、なんだかんだで援助技法とかプログラムではなく「その人だから」というところにありますな。だからこそ、援助職の雇用には安定が不可欠。
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もらうだけでありがたい気持ちになるようなメールを連発できるのを「メール力」という。これは文章力がすごいように見えて、本当は類稀なる事務能力の賜物。科挙で詩作が問われたり、平安時代の官僚が短歌で競ってたりするのと同じで、事務能力の本性は文書作成力であり、その根底にはポエジーがある。
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スマホも本も持たずに、一人で15分黙って座っていてもらうという実験。かなりの人数が6分たったくらいで、退屈のあまりに自分に電気ショックを与えるようになったらしい。実験前には「電気ショック?そんなバカなボタン押すはずがない」と言っていたにもかかわらず。いかに一人になれないかの実験。
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学生がホラー映画を見まくって、心理士・精神科医がどう描かれているのかを卒業研究で調べたのですが、彼らが人間らしい側面を見せてしまうと、殺されたり、大怪我を負ったりすることが多いという大変味わい深い結果を得ました。
あと、ブルーのシャツを着ていることが多いとのことでした。
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グリンカー「誰も正常ではない」、心の病の名指し方がいかに人々の意識に影響を与えるかの人類学で面白い。ネパールの僻地では「メンタルヘルス」と看板を出すと患者がこないが、「慢性頭痛」と看板を出すと不安や抑うつに苦しむ人がたくさんやってくるという。文化に合わせた心の翻訳の話。
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「自分の頭で考えろ」とよく言われるが、これは呪いのようなところがある。自分の頭で考えているか、人の言ってることを鵜呑みにしてるかは判別つきにくいし(というか混ざってるのが常だし)、なにより「自分の頭で考えろ」という人は、しばしば自分と同じように考えると喜び、そうじゃないと怒る。
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これ、チンパンジーでもそうだと聞いたことがあります。遊びは集団の緊張を和らげるためになされるので、正体不明の新人がやってくると「遊ぶ」。付き合いたてのカップルがカラオケとかボーリングとかで遊ぶのは不安だからで、本当に信頼できると遊ばなくても一緒にいられる。 twitter.com/MajimeShunsuke…
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コロナのストレスについて授業でアンケートを取った。恋人や家族など親密な人との間で、衛生意識が違うことが多く挙げられていた。どの程度外出自粛するかの感覚が違うことで、カップルが別れたり、家族で争いが生じる。言葉で話し合うことが最も難しいのが清潔さと不潔さ、安全とリスクの感覚。
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「普通の家族で育った」と思っている人がいかに傷ついてきたのかの卒論。そこでの傷つきは主に親の言葉によって生じるもので、それはその後の人間関係の消極性と繋がる。しかし、「経済的に支えてくれたから」という理由で「普通の家族」と思うのだとのこと。「普通」によって隠蔽されるものの話。
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そう思うと、出版不況というが、本というメディアはこの世の終わりまで残り続けるんじゃないか。他者とつながるためのメディアはたくさんあるけど、自分とつながるためのメディアってとても少なくて、そういう欲求は人間である限りの消えることがないはず。
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大学生になぜ本を読まないのかを真面目に聞いてみたら、インターン、授業課題、アルバイトで忙しい中、本を読むのはコスパが悪いから、瞬間的に楽しめることや好奇心を満たせるものをつい求めてしまうとのことだった。本人たちもそれで良しとは思ってないだけに、大学改革とはなんだったのかと思う。
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手越くんの会見、ついつい見てしまう。「夢追い」系の自己実現の言葉が、実は「このままだと失業するのではないか」というリスク不安に駆り立てられている感じがして、現代のキャリアをめぐる辛さをよく言い表してる。
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オンラインイベント、最後ブチっと切れるのがさみしいという話をよく聞く。確かにリアルだと「廊下」があって、そこで個人的に延長戦をしたり、余韻を感じたりができた。職場や学校でもそうだ。人間らしいことは大体「廊下」で起きていたのではないか。
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以前、学生が「アイドルに裏切られるとき」という卒論で、裏切られたファンがいかにして自分の「信じること」を再生していくかを書いていたのだけど、逆に言えば宗教が難しい現代人はもはや「ファン」という形でしか自らの宗教性や「信じること」へのニーズを満たせないということなのかもしれない。
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心の万能薬としての「時間をかける」。具体的には「寝る」と「様子を見る」に尽きるが、案外難しい。不安なときには、悪しきことが起こりそうで、時間が恐ろしく感じられるからだ。したがって、「とりあえず様子を見よう」と言ってくれる誰かがいると心強い。不安は分け持たれると、時間に耐えうる。
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ふと思ったのだけど、スクールカウンセラーが人生で最初の心理士との出会いであることってとても多くて、そこでいい体験をできると、その後の人生でカウンセリングや心理的援助を利用するための希望の基礎になるわけだから、スクールカウンセラーというのは社会的に物凄く大きな価値のある仕事だ。
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中学受験の合格発表の場で、大学受験の業者がチラシを配っているのを見るとつらい。マラソンのゴールの瞬間から次はトライアスロンを始めようとするようなもの。受験はたとえ受かったとしてもダメージがあるわけだから、しばらく休ませてあげてほしい。進学校の中1にいかにうつっぽい子が多いことか。
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受験本を色々と読んで、共通しているのは「親が勉強を教えるのは難しい」ということ。それは勉強の難易度の問題ではなく、人間関係が傷つきに満ちてしまうという難しさ。実の子どものカウンセリングや外科手術が難しいのと同じ。親が教師になると、子は身近に教師を得るが、「親」を失ってしまう。
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「将来の夢」についての卒論。面白かったのは子供たちが夢を語ったり、発表したりするとき、「自分のレベルにあった夢」を言わねばならぬという強い圧力を感じていること。夢みたいな夢を語ると人の目が怖いので、夢を語るためには現実を見ないといけないという諦めの装置としての夢教育。いや悪夢か。
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谷川俊太郎の「色」という詩がすごかった。「希望は複雑な色をしている」という一文から始まり、「裏切られた心臓の赤」とか「日々の灰色」とか「原始林の緑」とかあまり希望っぽくないカラフルさが列挙され、「絶望は単純な色をしている 清潔な白だ」で締められる。確かにそんな感じがする。
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臨床心理学に入門するための10冊。
幅広く学べて、読みやすく、そして必読の本
1.河合隼雄 カウンセリングの実際問題
2.河合隼雄 ユング心理学入門
3.小沢牧子「心の専門家」はいらない
4.下山晴彦・丹野義彦 講座臨床心理学1 臨床心理学とは何か
5.信田さよ子 依存症
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