予算・経験値・時間など、複数の要素が混ざった難しい判断だったろうと思います。博物館標本を使用して研究をしているため、どうしても「標本にできなかったのね…」と思ってしまうのですが、今回の一件のスムーズな対応は、関係者の方々が議論と検討を重ね、ノウハウを集結した結果と思っています。
科博の田島さんが「これだけ大きいクジラを陸揚げする経験値が今の日本には足りませんでした。どれくらいのクレーンが必要で、どのような機材が必要という見通しが立てにくかったです」とおっしゃっているので、本件では埋設も極めてハードルが高かったのだとわかりました。 news.yahoo.co.jp/articles/24d23…
この部分が中々伝わらなく難しいなぁと思っているのですが、漂着クジラの処分法は「埋設して土に還す」「海に投棄して海に還す」「焼却して灰に還す」の三択です。大型の場合、焼却は困難なので実質二択。そして、埋設することと骨格標本を作ることはイコールではありません。 twitter.com/kiranuka/statu…
もしご興味あれば、「肺のような器官をもったデボン紀の魚の話」もご覧ください。肺の起源と進化を追うと、肺という器官の見方が少しだけ変わるかもしれません。 拙著新刊「キリンのひづめ、ヒトの指:比べてわかる生き物の進化」の一章の加筆前のものです。 nhkbook-hiraku.com/n/n92b88f3e4a75
補足しておくと、クジラを埋設処理するとなったら、当然土地の確保が必要なので、埋設か海洋投棄は費用だけで決定できるものではないです。このツイートの真意は「より安そう」「より自然っぽい」というイメージのものでも、調べてみたら違うこともあるんだなあという話です。
東京ズーネットさんの「アフリカゾウのうんこを洗ってみたら」にある『ゾウたちは食べるだけではなく、耕し、タネをまき、自分たちのくらす環境を育てていると言えるでしょう』に近いものを感じる名文。 こんな素敵な文章が書けるようになりたい。 tokyo-zoo.net/topic/topics_d… twitter.com/AnatomyGiraffe…
『自らの産卵死によって川の上流域に有機物を運ぶサケ・マスが川と海をつなぐ生物であるなら、クジラは「浅海と深海をつなぐ生物」であり、さらに「光合成生態系と化学合成生態系をつなぐ生物」ということができるだろう』 とかカッコ良すぎて痺れた。
ちなみに著者の大越先生、大変に文章が上手く、とてもとても面白いので、気になった方は図書館などで月刊海洋を探してみるといいと思います!
「浮く鯨と沈む鯨」は月刊海洋2008年7月号の鯨骨生物群集特集に掲載されています。他の記事も含めて、大変面白かったです!知らないことたくさんあって勉強になった。
岡部(2021)「那覇空港に漂着したマッコウクジラ -腐敗の経過観察と鯨体の処理方法について-」dc.ogb.go.jp/Kyoku/kengyo/k…
参考資料 大越(2008)「浮く鯨と沈む鯨ーその分解過程から推定される異なった鯨骨生物群集の成立プロセス」jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL…
再浮上・再漂着などが起こらずに分解が進み、そしていつか海底の映像を見られたらいいなぁと思っています。 というわけで、ここ一週間ほど、ランチタイムや寝る前のまったり時間を使って調べ学習をして、新たな知識を色々得られて良い経験になりました。知らないことを知るのは楽しいことです。 12/12
いずれにしても、大型クジラの漂着は市町村にとっては災害のようなものです。今回、曳航も引き上げも運び出しもスムーズで、作業の配信をみただけでも、関係者たちが多大な労力を払っただろうことが想像できました。11/12
費用に関しては、過去の事例は海岸に漂着して近くに埋めたものなので、川から曳航して埋設地に移動する必要があった今回の事例にそのまま当てはめることはできません。ただ、あの規模の船を片道10時間近く動かすとなると、地上で重機を使って作業するよりコストがかかるのではないかと思います。10/12
「専門家が埋設を推すのは、骨格標本目当てでコスト度外視だから」と言った意見もみましたが、そんなことはなく、①漂着クジラの大半は埋設している②海洋投棄に比べて低コストなことが多い③いつか予算が取れたら掘り出して骨格標本にできる、という3点に基づく意見かと思います。9/12
また、処理費についても、過去の例では埋設の方が安価なのですが、「海洋投棄の方がコスト削減」と思っている方も多いようでした。 「自然界の流れに沿っているように"思える"」「より安価な"気がする"」ことが、本当にそうなのかは、きちんと調べて確認する必要があるのだなと改めて感じました。8/12 twitter.com/anatomygiraffe…
さて、今回、陸上への埋設と海洋投棄の二つの選択肢が挙げられていました。そして埋設を「ヒトの手による不自然な行動」、海洋投棄を「より自然界の流れにそった行動」と考える方々が一定にいると感じました。6/12
今回調べ学習をして改めて思ったことは、ヒトの手が加わる以上、どうしても自然界での現象とは若干のズレが生じてしまうということです。あの状態の遺骸を沈めることは、自然界ではあまり起きない現象です。そして、その「ズレ」の影響がどれほどなのか、私たちはほとんど知らないのです。7/12
つまりマッコウクジラの場合は、死後長期間海表面を浮遊し、少しずつ分解され、ポロポロと海底に骨を落としながら漂流していく可能性が高いのではないかということです。大越(2008)では、「頭蓋骨と脊椎骨が同所的に存在する可能性は低いと思われる」と書かれています。4/12
↓のツイートの通り、過去にも海洋投棄したマッコウクジラを定点観察し、鯨骨生物群集の形成に関する研究が行われていますが、前述の大越(2008)の中で「そこに成立した生物群集は自然界のマッコウクジラのそれとは異なる可能性のあることを考慮しておく必要があろう」と但し書きがされています。5/12 twitter.com/anatomygiraffe…
私は知らなかったのですが、クジラの仲間には、死後沈むクジラと沈まないクジラがいるそうです。多くのクジラ類は死後その場で沈降しますが、マッコウはすぐには沈まず、海上を浮遊しながら分解されていきます。ヒゲクジラでは、セミクジラとホッキョククジラが沈まないと言われているとのこと。2/12
↓で紹介した沖縄のケースでも、2ヶ月の間、骨が少しずつ脱落しつつも、死体はずっと沈まずに海洋を漂っていたことが記されています。報告文の最後には「マッコウクジラの海洋投棄をする場合は、数ヶ月後でも再浮上して船との洋上事故が起こる可能性がある」との注意喚起がなされています。3/12 twitter.com/anatomygiraffe…
淀川のマッコウクジラの一件をきっかけに、鯨骨生物群集について調べ学習をしたので、少しまとめてみようと思います。今回の海洋投棄について、「それが自然な状態だよね」と思った方にぜひ読んでいただきたいです。というのも、マッコウクジラは本来『沈まぬクジラ』と考えられているからです。1/12
博物館には、100年以上前に収集された標本が保管されていることも多い。そんな標本を見るために、頑張って予算を取って遠路はるばる海外まで出向くこともあります。19世紀に集められた標本を宝物のように扱う研究者たちを知っているから、「標本として残してあげたかった」と思ってしまうんだろうな。
2002年に鹿児島で海洋投棄されたマッコウクジラについては、その後2003-2005年にかけて、無人探査機ハイパードルフィンによる調査が行われ、鯨骨生物群集の形成に関する研究の一端を担ったそうです。今回のマッコウも、その後の経過観察ができるといいですよね。 参考文献→jstage.jst.go.jp/article/kagaku… twitter.com/anatomygiraffe…