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医療費が無料化して、それを単に便利だ、助かったと思ってくれるならば全く問題はないんだけれど、ごくたまに、無料のサービスを、価値がないサービス、見下しても構わないサービスだと勘違いする人が出てくる。
一度そうなると、病院は見下す相手だから暴言も出るし、要求も無茶になっていく。
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有料老人ホームは、一度突破されると感染が一気に広がる。通年のインフルエンザよりも拡大速度は早い気がする。体調の悪い職員が、ちょっと無理して仕事をしたフロアに軒並み検査陽性が出る。
「休もうよ」と思っても、夜勤なんかは代わりがいない。むしろ今までこうならなかったのが奇跡だった。
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同時多発的に有熱者の往診依頼が来ている。一人で動ける患者さんは誰もいないのに、同じ廊下に面した個室が軒並み陽性とか。陽性が判明した職員が担当した患者さんがことごとく発熱したとか。
例年のインフルエンザ以上に、感染経路が素人でもわかるような発症パターン。検査キットは尽きた。
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今日なんかも、PCR陽性事例の患者さんが酸素飽和度低下、かかりつけだった大学病院に問い合わせると「保健所経由での依頼でないと受けられません」との返答。保健所に連絡したら「県に問い合わせて下さい」で、県に連絡すると「市の保健所で」。2往復して詰んだ。
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県と市の連携は、おそらく「お互いに余力があったら助けあう」的な文言があるのだろうけれど、両者がパンクしている昨今、良かれと思って挿入された文言が、たぶん集団無責任体制の根拠になっしまう。ここを責めてもしょうがないのだけれど。
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最近は何日かに一回、「万策尽きた」とか「詰んだ」みたいな言葉がよぎるのだけれど、そもそも現場をこういう状況に追い込まないのが行政の役割で。
明らかにリソースが足りていない、その割にヤフオクやメルカリでは普通に検査キットが買える昨今は、もう「政治の失敗」と叩いていいんじゃないか。
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今は司令部たる地域の保健所が完全にパンク状態で、独自の指揮系統を持っている救急隊が、騎兵隊よろしく分断された各病院をつないでいるような状態。リソースを増すべき場所はまずそこなのに、未だに「保健所要員を強化しました」的な話はあまり聞こえてこない。
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2週間ぐらい前までだったら、救急車を呼んだとして、仮に搬送不可でも、救急隊はとりあえず搬送先を探す努力をしてくれた。
どこかのタイミングで内部ルールが変わったのだろうけれど、今は「酸素飽和度が90ありますから」で、不搬送になる。医療が飽和するってこういうことなんだと今さら。
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しっかりと感染対策ができていた施設では、発熱こそなかったものの、体調不良を押して勤務を続けたスタッフから一気に広まった。こちらが心配するぐらいにゆるい施設では、ちょっとだるい程度のスタッフが欠勤、後日発熱してPCR陽性。でも発熱の3日前から欠勤だったから拡大を免れた。
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対策を徹底することは本来望ましいことだけれど、「感染者は自己管理が足りない」的な勤勉理論が生まれ、無理をする人が出てしまう。おかしいと思ったら気軽に休める空気を醸成するのも、感染対策の一環として欠かせないけれど、これを徹底と両立させるのはけっこう難しいのだと思う。
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先日ひさしぶりに役所の列に並ぶ機会があり。「民間ならこんなに並ばせることなんてないのに!だからお前ら役人はだめなんだ!」みたいな民間大好きおじさんが窓口を専有。列が止まった。
「民間だって、お前みたいなのが窓口に来て業務を止めれば一緒だろうよ」と、並ぶ誰もがきっと思ってた。
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受け持ち施設でもコロナウイルスに感染する患者さんが何人か出ているけれど、今のところは酸素飽和度が危険なぐらいに下がる人はいない。
その代わり(そもそも会話ができないから確実でないとはいえ)倦怠感が大問題で、食欲が全くなくなってしまい、解熱しても食欲が戻らない。
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皮下輸液で粘るのにも限界があり、かといってこの段階からの胃瘻造設などはご家族も望まれず、結果として施設内でお看取り、診断書の病名は「老衰」になる。コロナウイルス感染症は「死因には直接関係しない病名」欄に記載することになる。横浜の施設で老衰が10人、というのはこれなんだと思う。
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ここ一年ぐらい、コロナ対応で一般病床は減り、高齢者の「腰痛で動けない」とか、「食欲低下が進んで原因を検索したい」みたいな症状について、入院してしっかり調べるといった選択肢が絶えた。処方できる内服薬は毎日のように減る。今日もゾルピデムが出荷調整になった。
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世界が羨む日本の医療は過去の話で、全世界的な感染症に対応できる余力をそもそも用意せず、民間任せで強引に員数をつける、ある意味旧軍伝統のやりかたをそのまま現在に引き継いだのが日本の医療体制だったのだろうけれど、ここにきてそれを糊塗してきた薄皮が、いよいよ破れつつある。
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医療のリソースはいよいよ少なく、患者さんの数は毎日のように増える昨今、そこに旧来の「医療を受ける権利は誰もが平等」のルールが加わると、「大きな声でごねる患者さんが少ないリソースを総取りする」という地獄が発生する。見聞する範囲で、だいたいそうなってる。
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マスクの感染症対策効果は脇に置くとして。
初診の患者さんと、ご家族と面談するときに、施設のルールでノーマスクの方はいないけれど、対面した相手がウレタンマスクだったり、面談中に鼻がむき出しだったりする人は、かなり高い蓋然性で意思疎通や情報共有が難しい/面倒くさい。
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ウクライナの事例、「核を持っていた国が大国の甘言に迎合して核を放棄すると、20年たらずで国が蹂躙される」というのは、道徳の教科書に乗っけてほしい。
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たとえば沖縄で「琉球王国独立派」みたいな勢力が武力蜂起、県庁に立てこもって日本からの独立を宣言、中国が即座に独立国家を追認、独立した沖縄国に平和維持目的で中国軍の派兵を決定したとして、自衛隊はともかく、在日米軍は動けるんだろうか?
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島耕作、引退しても介護施設には来ないでほしい。。
あの主人公が入居施設に改革を提言、それを受け入れた現場が幸福になる展開をやられると、現実世界で施設のクレーム対応を担当している人が死ぬ。
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でも「発熱しました」で往診に呼ばれ、行ってみたら煉獄さんの格好をした男性が座っていたら、診察する側としてはもう恐怖でしかない。
どちらの方向でも、無難から外れている人は、行動が読めないから、どこに逆鱗があるのか見えないし。
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小説でもSNSでもそうだけれど、そろそろ「意識を保つために麻薬系鎮痛薬を断り、疼痛を我慢する」的な描写をやめてほしい。麻薬系鎮痛薬を使いながら社会活動している患者さんなんていくらでもいるし。
ああいう描写を信じて鎮痛薬を内服したがらないケースもあるし。
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「大病院の治療はもうたくさんです。母親は以前はあんなに元気だったのに、何年も通院して、今はここまで落ちてしまいました。「訪 問 診 療 だ け で」以前の状態に戻してくれることを希望します」みたいなご家族と遭遇すると、正直すぐにでも逃げ出したくなる。
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訪問診療の期待値を、面談を通じてなるべく下げることが目標になるのだけれど、期待値が高いご家族に限って、「訪問診療で奇跡の回復」みたいな個別事例をネットから探し出してきて、「同じことを再現してくれればいいんです」みたいな話をされる。
校長じゃないんだから、最頻値を見てくれよと。
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「高齢者に投じる医療資源は無駄だよね?」的な論には、実際にそれをやっている当事者として、正直「そのとおりです」としか返せない。
でも自分が高齢者に分類されるであろう近未来が、「あなた達に投じる無駄な医療資源はありません」と言われる社会だったら、それはそれでだいぶ寂しい。