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2018年にモンサント社を買収したドイツ企業のバイエル社は、除草剤「ラウンドアップ」訴訟で高額の賠償金を突きつけられ、経済的ダメージを受けている。農民の除草剤離れに加え、「ラウンドアップ」をめぐる米国の集団訴訟の和解金が7億5000万ドル(日本円で約776億3000万円)にも上ったからだ。
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フランス、ドイツ、イタリア、オーストリアは2021年までに、除草剤グリホサートを使用禁止にするとした。一方、日本は2017年に小麦、大麦、ライ麦、そば、トウモロコシなどの穀物の残留基準を大幅に引き上げた。小麦で6倍、そば・ライ麦で150倍にも上る。なぜか日本だけが世界の潮流に逆行している。
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近年、ネオニコチノイド系殺虫剤の使用を見直す動きが加速している。市場に導入されて20余年、蜜蜂やトンボがいなくなっただけでなく、赤ちゃんを含む日本人全員の尿から検出されるようになってしまった。ネオニコチノイドは神経毒である。母親が食べれば胎児の脳に移行し発達障害の一因となりうる。
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2014年、ある深刻な論文が米国科学誌プロスワンに掲載された。2009年に採取された栃木県の新生児、それも1500g以下の極低出生体重児57人の生後48時間の尿のうち、25%からネオニコチノイド系殺虫剤の代謝物DMAPが最大0.68ppd検出されたのだ。DMAPは母体から胎盤を通じ胎児に移行したと考えられた。
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ネオニコチノイド系殺虫剤の特徴は、その目をみはる持続効果である。一度撒くと長時間土壌内に止まり、植物の表面から植物体内に取り込まれ隅々まで行き渡り、虫がその作物をかじったり樹液を吸ったりすると死んでしまう。そういうものを、生態系に影響を与えずに農家が使いこなすなど可能だろうか。
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世界がネオニコチノイドのもたらす生態系への甚大な影響に気づいたのは1996年、フランスの養蜂業者が、ネオニコチノイドをまぶした種子を蒔いたヒマワリ畑のそばでは蜜蜂が死んでしまうと訴えたことが始まりだった。以後、2000編以上の学術論文が発表され、ネオニコの危険性が指摘されている。
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外国資本による日本の土地買収が問題になっている。この10年、土地を取得した外国資本が別の外国人に転売することはあっても、日本人が買い戻したという例はほとんどない。このままだとそう遠くない未来、「日本の領土だが、所有権を外国人が持つゆえ収用できない土地」が各地であふれてくるだろう。
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外資の土地買収が取り沙汰されるようになったのは2008年。以来、買収面積は公表値7607ヘクタール(2020年)まで増えた。この間、講じられた対策は、17道県が作った「売買の事前届出」条例(国内も国外も差別がない)くらいだ。「安全保障だから対策は国でしょう」と自治体は言うが国は無策を続けた。
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ここ数年、法令がいくつも制定された。
2016年 農地法改正
2017年 種子法廃止
2018年 漁業法改正
2018年 水道法改正
2019年 国有林野管理経営法改正
2020年 種苗法改正
つまり、外資を含む民間へ社会資本や公共的財産がスムーズに払い下げられるよう、規制の緩和と撤廃が次々と行われた。
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外資による日本の土地買収が問題になっている。「日本は風景がいいし、土地は肥沃です。水も汚染されておらず安全で豊富です」。買い手にとってはお買い得感がある一方、売る方は他に買い手が現れないから売り急ぐ。売買はほぼ野放し状態だ。こうして日本の農林地、リゾート地、離島が売られていく。
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外資による日本の土地買収で問題なのは税金面である。外国人が買収地を法人名義で購入し、海外在住のためと連絡不通にしておくと、「所有者不明」の扱いになる。転売しても法人登記をそのままにしておけば、所得税、不動産取得税、登録免許税等のほか、固定資産税も免れる。国は手出しができない。
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外資による日本の土地買収では、転売が繰り返されたりすると「所有者不明」扱いになり、日本の税務当局は税金を徴収できなくなる。理由は、国税マンや徴税吏員がもつ権限(質問検査権)が海外では通用しないからだ。海外での外国人から外国人への転売も、日本への報告は実態上ほぼ不要となっている。
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バイデン政権がスタートし、閣僚名簿が発表された。注目されたのは農務長官。オバマ政権でも農務長官だったトム・ビルザック氏が起用されたが、この人はモンサントの代理人といわれた人物。遺伝子組み換え作物を擁護する立場だ。バイデン政権でも、農業政策は農薬・種子業界が主導するとみられる。
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「自助・共助・公助」という言葉ががいまでも胸にひっかかっている。国が責任を負うべき公助がなぜ最後なのか。コロナ対策でも自助だけが求められ、公助はなかなか発動されない。むしろ、この言葉は国民に向かって「和を乱すな」「公助に頼るな」と言う時の方便として用意されたのではないかと思う。
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バイデン政権初の報道官記者会見で、記者たちは納得のいくまで質問を何度も繰り返し、言葉の真剣勝負が繰り返されていた。それに比べ、日本の首相記者会見はどうだろう。原稿の棒読み、追加質問禁止、事前の質問事項提出、それに隷従する記者たち。何という違い。恥ずかしくないのだろうか。
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ネオニコチノイド系殺虫剤の成分は、食べ物を通じて体内に入り、重大な健康被害をもたらす。この成分を減らす最も有効な切り札は、有機農産物の供給を増やすことである。実際、ネオニコチノイドの危険性に気づきその使用を規制しはじめた多くの国で、有機農業の推進が国策として取り入れられている。
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NPO福島県有機農業ネットワークと北海道大学池中良徳准教授の共同研究によれば、それまで慣行栽培の食物を食べていた人が、米、味噌、野菜などを有機農産物に切り替えたところ、尿から排出されるネオニコチノイド系成分が1か月で劇的に減少したという。有機農産物が体内の毒を減少させたとみられる。
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外国人による日本の土地買収が問題になっている。本来、国土は歴史・文化・知財をも生み出す国家の礎、国富のはずだが、その国土が次々と外国人向けの資産の移転先となり、真の所有者は不明化し、次第に見えなくなっている。私たちは国土から得られるはずの果実を大量に失っていくのではないか。
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米国環境保護庁(EPA)は、除草剤グリホサートに関する生物学的評価の草案を発表した。それによると、生物多様性に及ぼすグリホサートの影響は甚大で、絶滅危惧種の93%に相当する1676種の絶滅危惧種が被害を受ける可能性があると警告した。グリホサートは除草剤ラウンドアップの主成分である。
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種苗法改正にあたり農水省は、シャインマスカットを例に、日本の大切な種苗の海外流出を止めるためと説明した。でも、なぜシャインマスカットが海外で栽培されるようになったかといえば、現地(海外)での品種登録がなおざりにされたからである。改正前でも、迅速に登録していれば回避できたのだ。
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種苗法改正で農水省は、「もっと種子開発が儲かる構造にしないといけない」「自家増殖が容易にできるようになれば、国内で種子の開発販売している中小企業が利益を十分得られず廃業してしまう」と訴えた。しかし、これが国内ではなく海外の企業の利益に置き換えられない保証はどこにもないのである。
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農水省は、種苗法を改正しても「登録品種の自家採取も登録者(特許保有者)が許諾すれば続けられる」と説明した。しかし、政府は農業競争力強化支援法で「これまで開発した種を民間に譲渡する」と言っている。その「譲渡」を受けた企業が自社の保有する種を容易に無償開放するかは大いに疑問である。
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農水省は種苗法改正にあたり、「自家採取が原則禁止になるのは登録品種だけの話であり、登録品種は種苗全体の1割しかないのだからほとんど影響はない」と説明した。はたしてそうだろうか。青森県で栽培されている米の98%、沖縄県のサトウキビのほぼ100%は登録品種である。この現実は無視できない。
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日本では一部に根強く「農業は補助金だらけで過保護ではないか」という意見がある。しかし、日本の農業保護は先進国で最低なのだ。2013年で見た主要国の農業所得に占める補助金の割合は以下の通り。
日本 39.1%
米国 42.5%
ドイツ 69.7%
英国 90.5%
フランス94.7%
100
世界のオーガニック(有機農業)市場。
アメリカ 3兆6000億円
ドイツ 1兆円
フランス 8000億円
日本 1850億円
(日本の市場規模だけが際立って小さい)