1
難病患者に同情するはずもなく、むしろ自己責任論とコスト論で指弾するような人々が、病気を理由に辞任する総理には「ヴァルネラブルな弱者」として感情移入してしまう現象は実に興味深く、これこそこの7年半を可能にしたものであるのは間違いない。このような場に立ち会えたこと自体が稀有であった。
2
某日のオンラインの酒席で、SNSにたむろする現代人の「飲む、打つ、買う」は「ヘイト、ガチャ、イキリ」ではという説が出たので、ここに記録しておく(考案者は私一人ではない)。それぞれ「醜悪さの共有を通じた内輪の盛り上がり、賭けによる刹那的快楽、男性性の誇示」で対応している見立てである。
3
首相を見ていると、単純な家父長的保守政治家とはだいぶズレている面があり、例えば野党議員と討論すると必ず「親や教師に叱られる子供」の側になって、むしろそれを支持の源泉にしてさえいる。戦後民主主義の帰結として(!)江藤淳的な治者たり得なくなった大衆は、子の方に自己同一化するのである。
4
三角関数は教えなくてよい、古文や漢文も必要なかろう、英語は「役に立つ」からやってもよいが面倒な文法は勘弁...、と病的な勉強嫌いなのが本邦の平均的メンタリティであるとすれば、いったいどの科目なら学ぶ気になるのか。それが講師に怒鳴られながら習得する「マナー」というオチなのであろうか。
5
給付の10万円で文庫本を150冊くらい買えると言っている人を見て、最近の講談社文芸文庫だと50冊強程度にしかならないんだよなあ、という感慨がある。90年代は文芸文庫でも定価3桁円が少なからず、まして岩波文庫で1000円以上はそうそうなかったはずで、この20年で学術系の文庫の値段は確実に上がった。
6
いまごろプーチンはYouTubeのデカ文字動画を見ているのでは、といった揶揄はむろんはずれていて、彼はよくも悪しくもドイツ語とロシア語の「教養」の人である。そして、古典の読書から得られた知見を直接的に国際政治に反映してくる点で、本邦などの政治家とは別の意味で始末に負えぬ相手なのである。 twitter.com/hhasegawa/stat…
7
嘱託殺人を行った医師のものとされるツイートを読むと、塀のなかで受験勉強をして東大に入りたい、なる書き込みがあり、それ自体は彼の人生なのでご自由にしていただくとして、国数英の三教科はともかく「歴史なんかマジで興味ない」とも言っているところに、ある種の症例の典型性が見えるように思う。
8
(承前)で、この構図は、いい歳をしたはずの人間が「親の立場」ではなく「子の立場」でしかものを考えられない現象(twitter.com/hhasegawa/stat…)とも相即しているのではないか。オタクや表現の自由戦士が体制を擁護したくなる心理的要因としては、このあたりのメカニズムも考えた方がよさそうである。
9
漢文の授業に意味がない、と主張する人物の書いた詞が「この身体に流れゆくは/気高きこの御国の御霊」(bit.ly/2oYGV7K)と考えると非常に腑に落ちるのであった。一年後の伏線回収。 / “「RADWIMPS」野田洋次郎の「漢文不要論」ネット上で議論に - ライブドアニ…” htn.to/BriRNN7pBZ
10
スポーツ選手が「感動を与えたい」などと言ってしまうことについては、選手として自己形成する過程で質問に対してはその類の答えしかしないよう刷り込まれてきた結果なのだろう。しかし、定型句を反復する以外の言語使用ができる者が本邦にどれほどいるのかと考えると、別に彼らに限った問題ではない。
11
一般に、オタクの消費行動には、「顕示的消費」と同時に、コンテンツを「買い支える」と言いたがるところに現れているパターナリスティックな心性も見られるように思うのですよね。たかが消費者のくせに出資者気取り、という。労働者が「経営者視線」を持たされているのと平行的なのかもしれませんが。 twitter.com/bokukoui/statu…
12
オタクの習性については、丸山眞男の「亜インテリ」概念で説明できる面も大きいように思える。「一般人」より知的であると気取りながら、情報の供給元はせいぜい漫画、アニメ、ゲームと通俗書でしかなく、歴史家はじめ専門家に問い正されると応答できず、今度は自分たちの「庶民」性に居直る、という。 twitter.com/hhasegawa/stat…
13
いまさら古文だの漢文だのを学ぶ必要はない、自然科学と国際言語としての英語だけでやっていけばよい、と居直ってすめば最高であるとしても、どこかで必ず民族的、文化的アイデンティティが欲しくてたまらなくなる時期が来るのであり、そのときどういうものに飛びついてしまうのかはもはや自明である。
14
日本学術会議OBは日本学士院に迎えられ年金250万円が保証される、なる流言があったそうで、学者を「不当な特権階級」と槍玉に上げるべく行われたデマが「月20万円前後の収入」であるところにむしろ感慨がある。日本が貧しくなった、というより、「少し羨ましい」水準が嫉妬の動員に最適なのだろうが。
15
災害時に顕著なように、現政権の過去の各政権との違いは、国民の便宜のため尽力するポーズをとるかそれをこれ見よがしに放棄するかにあって、自分のことを尊重してくれる人がいるとナメくさり、逆にパワハラ傾向の指導者には嫌われぬよう尻尾を振る「普通の日本人」への人間理解度では群を抜いている。
16
ヘイトスピーチの本来の対象を明言せず、もともと差別的な集団だけ反応するよう発信するのは、英語圏で(最近は独語圏でも)いう「犬笛政治(Dog Whistle Policy)」の典型であろう。批判されても、そんな意図ではなかった、そう解釈する方がレイシストだ、と弁明し責任をなすりつけやすい利点もある。
17
補足すれば、支持母体からもわかるように、家父長制的な支配に魅了され一貫して理念に掲げてきたのも事実で、そのくせ本人は「家長」ではなく「お子様」キャラという鵺的構造が見事に現代日本にマッチしたわけである。「ゾンビ家父長制」、「こどおじ家父長制」などの分析概念が必要なのかもしれない。 twitter.com/hhasegawa/stat…
18
まずアウトな例では。しかし、擁護している者を見ると、「神話に由来するキャラを登場させる」と「神話の邦訳や解題を出典不記載で地の文に混ぜる」の違いを理解していないようで、剽窃に関する教育の敗北を感じる。 / “FGOに歴史書からの剽窃が発覚?「文章がほぼ一致して…” htn.to/9H9iQv33Dn
19
プーチンの思想には西欧では関心が持たれていて、例えばフランスではミシェル・エルチャニノフが、相応のインテリである大統領の読書歴を分析した『ウラディーミル・プーチンの頭のなか』(amazon.co.jp/dp/2330039727?…)を書いている。独訳、英訳、西訳が出ており、隣国の本邦でも誰か紹介すべきだろう。
20
エルチャニノフによれば、プーチンの「保守的転回」に大きな役割を果たしたのは「1918年から1933年までのドイツにおける保守革命」で、具体的にはシュペングラー、シュミット、ユンガー、ニーキシュの名が挙がっている(独訳74~77頁)。彼らの著作自体、2000年代以降のロシアで争って読まれたという。 twitter.com/hhasegawa/stat…
21
某大「最年少准教授」を名乗って差別発言などをしているという人の現職を調べると、寄付講座の特任准教授とのことらしい。産業が大学に密接に関わるようになればなるほどこの手の人士は増えるのであり、68年のテーマが「産学共同」であった意味も明らかになろう。この機会に過去ツイートも掲げておく。 twitter.com/hhasegawa/stat…
22
究極的には、右派カルトの主張は、メシア崇拝など核心を伏せる限り、平均的日本人の通俗的道徳観念と衝突せず、素朴に「よいことを言っている」と見なされる土壌があるのだと思う。一方、人権や近代的法体系は外来の「西洋思想」であり、勉強しなければわからず、そして大抵の人間は勉強が嫌いである。 twitter.com/hhasegawa/stat…
23
大河ドラマ視聴者のなかには「戦は嫌だ」的な台詞を現代的観点の混入と忌避する者がいて、どうも件の(元)考証者もそこへの介入を期待されていた節がある。しかし、中世の武士も自分の稼業を罪深いと考えて仏教にすがったりしたわけで、彼らに厭戦思考「も」あったのを否定するのは逆に難しいのでは。
24
高校生の大半がサラリーマンになるとすれば、法律の素人の国語教師に下手に契約書の読み方を教わるより、ひたすらカネの話をしているバルザックやフローベールの小説の方が「実用的」と思わなくもない。少なくとも、『ボヴァリー夫人』からは、リボ払いでスパチャをしてはいけないことくらい学べよう。
25
大阪では9年ほど前、坂本龍馬を気取る市長が「船中八策」なるものをブチ上げ悦に入っていたことがあった(webronza.asahi.com/politics/theme…)。それがここに来て、同じ「維新」を名乗る党に属する府知事が、よりによって「見廻組」もどきの組織を発足させてしまったところに歴史のイロニーを感じざるを得ない。