映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』は長年燻っていた人種間の軋轢がついに暴動へ…という話で、そのきっかけは「その年一番の暑さ」だった訳だけど、最近ドイツの街頭で行われたフィールド実験では、酷暑の日にはマイノリティに対し差別が起こりやすくなるという結果が示されているのだ。 (1/16)
ネット空間で勃発するサイバー戦争はリアルの戦争に影響を与えるのか?両陣営による苛烈なサイバー戦が行われていると言われるクリミア危機を対象にした統計分析によれば、サイバー攻撃がリアルの戦闘に影響を及ぼしたという証拠は「今のところ」得られていないのだ (1/16)
選挙は民主主義の根幹を成す重要な要素の一つだけど、非民主主義的な体制でも結構選挙が行われていて、大体何かしらの不正が加えられるのだ。最近の実証研究では、権威主義体制が自国の選挙期間中に情報をコントロールする為にサイバー攻撃を活用している可能性が示唆されているのだ。 (1/11)
外国政府による他国のSNSへの干渉は主にプロパガンダを目的としたもので、botを使って対象国の人間を装い誤情報の拡散等を通じて世論操作を目論むのだ。特にロシアはこの「情報戦争」に長けていると言われているのだ。 (2/12)
ロシア政府が企業を使いSNSを通じてアメリカの選挙への干渉を試みているのは有名な話だけど、ロシアの「企業」が関連している事を示す間接的な証拠の一つとして、「ロシアの祝日には偽アメリカ人のツイートが減る」事を統計分析によって明らかにした研究があるのだ。 (1/12)
Twitter社は2018年10月、ロシアやイランによる情報宣伝工作に関係したと見られる3841のアカウントを公表したのだ。Twitter社は2020年7月までに計4回情報工作の疑いがあるアカウントを公表しているけど、「IRAが関連した」と断定しているのは最初のものだけなのだ。 jp.reuters.com/article/twitte… (4/12)
中でも有名なのは「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」というロシアの政府系企業(しかもエリート集団)で、2014年以後アメリカのSNSに干渉していると名指しで批判されているのだ。その対策にTwitter社が乗り出したのが2018年なのだ。 (3/12)
IRAが業務として情報工作を行っているなら、会社がお休みの日は工作活動もお休みになるはずなのだ。そこで筆者たちは2012-17年の期間に以下のロシアの祝日(アメリカの休みと被るから元日は除く)に偽アメリカ人アカウントによるツイートが減少するか、統計分析を行ったのだ。 (5/12)
分析の結果、ロシアの祝日は他の日と比較して偽アメリカ人ツイートが約35%減少する事が明らかになったのだ。特に2014-16年の期間(トランプvsヒラリーの大統領選挙戦)ではその傾向が更に強い事も明らかになったのだ。 もちろんアメリカやイギリスの祝日ではこうした傾向は見られなかったのだ。 (6/12)
また、IRAが干渉している事を間接的に示すもう一つの証拠が著者たちによって挙げられてるのだ。それはIRAの事務所があるロシアのサンクトペテルブルクの「気温」なのだ。なんとサンクトペテルブルクの気温が下がると偽アメリカ人ツイートが減るのだ! (7/12)
この結果は英米の主要都市の気温の影響をコントロールしても一貫していたのだ。 この理由は色々あると思うけど、偽アメリカ人アカウント担当の人が寒すぎて生産性が下がったり、雪とかの交通事情で会社に出勤出来なかったりしたのかも知れないのだ。 (8/12)
ただ、著者たちも言ってるけど、外国政府によるSNSへの干渉はそれ自体が問題な訳だけど、それが「リアル」の政治過程にどれぐらい影響するかを明らかにするのはとても難しいのだ。ある情報がどんな経路を辿り人々に影響を与えるかを追跡し検証するのはハチャメチャに困難なのだ… (10/12)
これらの傾向はTwitter社が公表した最初の情報工作アカウントだけで見られたのだ。より最近公表された情報工作アカウントを対象に2018-20年の期間で分析しても統計的に有意な結果は得られなかったのだ。これはロシア側がもっとちゃんと偽装するようになった事を示唆しているのだ。 (9/12)
あと一応筆者たちは補遺で ・アメリカの幸福度(関連はナシ) ・選挙先物市場(ロシアの祝日には共和党の「価格」が下がる) ・選挙結果予測(ロシアの祝日には共和党の勝利予想確率が低下する) あたりを分析しているので、気になる人はペーパーを読んでみて欲しいのだ。 data.nber.org/data-appendix/… (11/12)
今回の話は nber.org/system/files/w… からなのだ。 まだWPなので今後改訂される可能性はあるけど、こういう『ヤバい経済学』系の話はやっぱり面白いのだ! (12/12)
マルクスの思想はありとあらゆる学問分野に影響を与えたと言っても過言ではないけど、彼の著作は初めから学問の世界で大きな注目を浴びていた訳ではなく、実社会の大事件—即ちロシア革命—によって知名度が爆上がりした事を「仮想マルクス」を統計的に作り出して明らかにした研究があるのだ。 (1/20)
イングランドプレミアリーグ・リヴァプールFC所属のモハメド・サラーはプレーにおける活躍のみならずイスラム教徒というアイデンティティも注目を集めている選手なんだけど、最近行われた研究では、サラーの加入後にクラブ本拠地でヘイトクライムが減少した事が統計的に明らかにされているのだ (1/23)
アイデンティティが異なる人同士の結婚は集団間の融和が行き着く先の一つだと思うのだ。アフリカ諸国を対象に最近行われた研究では、異民族間の婚姻率が上昇すると民族紛争が発生する確率が低下する可能性が示唆されているのだ。 (1/12)
映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で描かれたコロンバイン高校銃乱射事件はアメリカにおけるスクールシューティングの代表的な事例としてよく知られているけど、最近行われた研究では、学校での銃乱射事件の発生がアメリカ大統領選挙にも影響を与え得る事が示唆されてるのだ。 (1/10)
政治家や官僚といった公務員の汚職事件は市民の猛烈な批判と激烈な怒りを買う訳だけど、そうした汚職事件の余波が意外な形——スーパーの万引きの増加——で社会に悪影響を与える事を明らかにした研究があるのだ。 (1/16)
今回紹介する研究は、イタリアのエミリア=ロマーニャ州に属する2つの県(モデナ県とフェラーラ県)で営業するスーパー(Coop/生協)から提供された26万件以上の購買情報と顧客情報を使って分析を行っているのだ。 (2/16)
で、そもそも汚職事件と万引きを繋ぐメカニズムは何なのか?筆者達によれば、考えられる可能性は感情的なもの——つまり怒りなのだ。「俺たちの税金なのに!!」という怒りが「万引きを行う道徳的・心理的ハードル」を引き下げてしまった、という見立てなのだ。 (11/16)
分析の結果、スーパーが位置する基礎自治体の公務員による汚職事件が地方新聞によって報じられると、その後4日間タイム・セーバーによる会計額を過少申告する、つまり万引きしてしまう確率が上昇(それも約16%!)する傾向にある事が分かったのだ! (9/16)
第二に、汚職事件が発生する事で万引きをする確率が上がるのは納税者(ブルー/ホワイトカラー・自営業etc)だけで、非納税者や納税額が少ない人(専業主夫/婦・学生・定年退職者etc)には影響が無かったのだ。年齢別でも就労年齢(25-65歳)のお客さんだけ万引き確率が上がったのだ。 (13/16)
いやいや本当か?という疑問は尤もだけど、筆者達はいくつかその根拠を示しているのだ。 第一に、店舗が位置する自治体以外で汚職事件が発生した場合は万引きが増加する傾向は見られなかったのだ。自分が居住し納税している自治体だからこそ地元の汚職事件に怒るのだ。 (12/16)