151
かつて勤務した病院で、重度の精神疾患のため長期入院している初老男性がいた。大変な症状があったが、それでも、彼の弟さんは盆と正月には必ず家に連れ帰って二人で過ごした。弟さんは言う。
「兄貴のおかげで進学できたから」
あの兄弟を思い出すたび、いろいろな感情がわき起こる。
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いろいろな兄弟姉妹をみてきた。胸温まる関係もあるが、圧倒的に多いのは呪詛や嘆きだ。
「兄のせいで」「姉に振り回されて」「弟がこんなだから」「妹さえいなければ」
きっと、そう思わずにはいられない出来事があったのだろう。ほとんどの場合、最初からそんな関係ではなかったはずだ。
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遊んだり、ケンカしたり、仲直りしたり、抱き合ってはしゃいだり……、我が家の子どもたちのそんな姿を見つめながら、この関係が壊れない4人であり続けてほしいと願う。それと同時に、こういう関係を歪めたり砕いたりしてしまう精神疾患に対して、怒りや憎しみや恐怖を抱く。
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患者さんと兄弟姉妹の関係が非常に悪いとき、医療側が家族の包容力のなさや無理解を嘆いてしまうことがある。
しかし、彼らの言動は決して偏狭さや無理解のせいではなく、関係を悪化させるような出来事が積み重なったせいかもしれない。そういう想像力は、常に持っておきたい。
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患者さんの家族は、病気への包容力や理解を求められる前に、まずひたすら労われ癒やされなければならない。
家族も決して無傷ではない。それどころか、本人以上に傷ついていることだってある。
そのことを忘れてはいけない。
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>本人以上に傷ついている
この表現は間違い。
目に見えない傷の深さを人と比べることはできない。
当事者には当事者の、家族には家族の、傷つきや苦悩がある。
ただ、医療的ケアを受ける当事者に比べ、医療の対象とはなりにくい家族が援助不足で苦しむことは多いように感じる。
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岩永直子さんからブロックされているんだけど、気に入らないことがあると些細なことでも手あたり次第にブロックしている人にフラットな意見が集まるとは思えないし、その状態でなるべく正確中立公平な情報発信をできるとも感じられないので、彼女発の記事はほとんど読まなくなった。
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>射殺された人を射的のネタにするのは面白いかなって。
絶句……。
news.yahoo.co.jp/articles/7c8ce…
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国葬反対で集まった人たちこそ、「殺された人を射的のネタにするのは面白い」なんて言う学生を徹底的に批判してやめさせるべきだった。
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これ、Twitterで精神科医がすごいすごいとザワついているので、ほんとにそんなにすごいのかと半信半疑で買ってみたんだけど、なんというか……、まだ数ページしか読んでない段階だが、ほんとにそんなにすごい。
amzn.to/3UNuki2
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へき地で勤務していたとき、製薬会社の人から「やっぱり患者さん多いですか?」と聞かれることが多くイラッとした。
「へき地は血縁婚が多いから精神疾患が多い」という偏見。
実際は、若くで発症した人は都会に出れず、都会で発症した人は故郷に戻ってくることが多いからだった。
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患者さんの家族(刑務所から出所直後)が外来に付き添ってきて、こちらを威嚇脅迫するようなことを言ってきた。反論しようと思えばいくらでもできる内容だったが、あえて一言こう尋ねた。
「それ、どういう意味で言ってます?」
相手はこれで黙った。
質問の力はすごいなとしみじみ感じた。
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ヤクザの元幹部で、覚せい剤精神病での入院を繰り返す人を担当したことがある。
対応に慣れた指導医からの助言。
「興奮したときはできるだけ大人数で行くようにね」
「暴れたときのためですね」
「それもあるけど、彼のメンツが保たれるんだ。俺一人を抑えるためにこんなに集まったんだなって」
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その指導医は続けて教えてくれた。
「あの人、入院直後は薬を飲みたがらないけど、押し問答するんじゃなくて、こっそり『俺のメンツも立ててよ』ってお願いしたら飲んでくれるよ」
さすがに試せなかったが、記憶に残るアドバイスだった。
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渋滞の「先頭合流」はズルい? 大多数が未だ勘違い… 渋滞時の正しい本線合流「ファスナー合流」の効果とは
効率が良くて正しい方法が、必ずしも受け容れられるとは限らないケースの典型な気がする。
news.yahoo.co.jp/articles/e8af6…
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精神科の入院患者さんには、調子が回復してくると、失ったぶんを取り戻そうと焦るあまり、あれしたい、これしたいと希望する人が多い。
「焦らないほうがいいですよ」と声をかけるのもいいが、「いままでは、そうやってうまくいきましたか? それとも……」と振り返ってもらうのもいい方法。
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患者さんへの情報提供のしかた。
「あなたがダイエットするなら、どういう方法があります?」(知識を確認)
「食事と運動ですね」
「食事はたとえば?」
「間食やめて、米を減らします」
「運動は?」
「……散歩ですかね」
「では散歩以外の運動について話しても良いですか?」(許可を得る)
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患者さん「ダイエットと健康のため、コンビニのサラダチキンを毎食1個とってます」
医師「あれカロリーあるし、塩分けっこう高いですよ」
と言いたくなるのをこらえ、
医師「ダイエットと健康のため、いいですねぇ。そのために、サラダチキンで気になることもあるので、お話してもいいですか?」
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医師「たとえば、カロリーはどれくらいか確認されてますか?」
患者「100くらいでした」
「カロリーについてはしっかり確認されているんですね。塩分はどうでしょう?」
「いや、そこまでは……」
「いま調べてみますね。……だいたい1.5g前後です。3食ということは……」
「4.5gですね」
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「WHOでは、一日の減塩目標を5gに」
と言いたくなるのをこらえて、
「一日の塩分はどれくらいに抑えるほうが良いか、ご存知ですか?」(知識の確認)
「いえ、8gとか?」
「おしい! WHOの目標についてお伝えしてもいいですか?」
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限られた診察時間で、こんなまだるっこしいやりとりなんてできない!
という意見が出るだろうし、実際まったくそのとおりだと思う。
とはいえ、効果が薄いことを重々承知で、あるいは効果がないことにイライラしながら、一方的な情報提供を続けるのも精神衛生上よくない気がする。
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こういう手法を会話の一部に少し取り入れるだけでも変化はあるはずだし、そうするとこちらのモチベーションも高まり、手法をさらに学ぶことで会話運びが上手くなり……、という相乗効果が期待できる。
患者さんのためにも、医療者自身の精神衛生のためにも、本書を勧める。
amzn.to/3MTeE9x
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一番最初の会話、せっかく「ダイエットと健康のため」と患者さんが言っているのに「いいですね」と承認しているだけなので、これは惜しいやりとりだった。
「ダイエットと健康のためですか、いいですね。何かそう考えるキッカケがありましたか?」
ここまで尋ねれば、動機が意識されて良かった。
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妻と互いを褒め合った。
相互理解が進み仲が深まるかと期待したが……、
あれ?
まったくそんなことない。
褒められるのは嬉しいんだけど、二人とも「え? そこ?」みたいなことが多い。
それで方法を変え、互いに「褒めてほしいこと」を伝えあった。
これはとても良かった。続
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患者さん「タバコをやめる方法ないですか?」
医師「禁煙外来はどうです?」
直接的に情報提供してもいいが、あえてワンクッションはさむ。
医師「そうですね、何かご自身で考えていることがありますか?」
患者さん「禁煙外来とか」
医師「いいですね、私も禁煙外来を勧めようと思ってました」