126
90歳すぎの女性が「赤ちゃんの泣き声が聞こえる」と家族に連れられ受診。
詳しく聞くと、何十年も前、生まれてすぐの赤ちゃんを亡くされていた。家族も知らない過去だった。
「赤ちゃん、寂しいんですかねぇ」
そう呟くと、女性は涙を流された。同席した家族も涙。
以後、泣き声は止まったらしい。
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「ありがとう」を言う言わないの話題に入るなら知っておいてほしいのが、ひたすら「ありがとう」を言うだけで、言われる機会がほとんどない・皆無という人がいるということ。
だからなんだ、と言われたらそれまでなんだけど、「だからなんだ」というその空気が俺なら辛いだろうなと思う。
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引用RTが殺伐としてきたな……。
感謝すること、謝罪することを人として当たり前のことだと主張するわりに、人を傷つける言葉を投げかけることには無頓着なのが、あまりにバランス欠けていると思う。
人を傷つける言葉には気をつけることも当たり前だと感じられるようになればいいのにね。 twitter.com/suminotiger/st…
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ここにきて、ついに当院でも患者さんやスタッフにコロナが発生。
年度始めの朝礼で、職員に向け院長はこう言いきった。
「ここまで感染者が出なかったのは皆さんが対策してきたからこそ。それでも、感染は誰もがかかりうるもの。安心してください。一切責めません。引き続き、一緒に頑張りましょう」
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近隣住民も被害に遭っており、納屋に置いていたものが頻繁に盗まれていたらしい。
家族に信じてもらえたことが良かったのか、よく眠れるようになったそうでめでたく終診。
もし初診の時点で物盗られ妄想だと判断して薬を処方していたら、彼女の残りの人生は大きく損なわれていたのではなかろうか。
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認知症の検査では、年齢のわりにしっかりしたほうだった。とりあえず診断は保留。2週後の再診予約とした。
次の診察時、息子がやや興奮ぎみに語った。
「先生、どうやら本当に盗まれているみたいです!」
続
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物盗られ妄想の人だと、これが逆になる。「いつ盗られたのかは分からないし、現場を見たわけでもないが、盗んだのはアイツだ」と、自分の感情にとって都合の良い決めつけをする。
彼女の場合、それが全くなかった。続
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話を聞くと、妄想っぽさがない。この感覚の説明は難しいが、敢えて言えば「都合の良い決めつけ」がない。
例えば「いつ盗られたことに気づいたか」という質問には具体的に答えられるのに、「犯人の目星はあるか」という問いには「さっぱり分からない」と言う。続
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田舎で一人暮らしの高齢女性が、都会に住む息子に連れられ受診。
症状は、物盗られ妄想。
「小屋のものを盗まれる」と言うが、置いてあるのはガラクタばかり。泥棒なんかいないと言い聞かせても、本人は頑なに「盗まれた」と繰り返すという。
こういう時は、まず患者さんを信じてみる。続
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精神科の患者さんには「スルーする力」の弱い人が多い。
「耐える力」はもっているのに、いや、もっているからこそ、「スルーする力」を鍛えぬまま、耐えられない段階まで耐えてしまう。
たとえ耐える力が弱くとも、スルーする力を駆使して生き抜いている人は、強い。
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訪問診療の猟銃事件。
亡くなった患者さんの弔問にスタッフを二人も連れて行くくらい、熱心な先生だったのかもしれない。
あるいは、もしかすると生前からひどいモンスター家族で、後のトラブル回避のため弔問に、しかもその場での万が一に備えて男性二人を同行させて行かれたのかな……。
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幻聴や妄想を否定せず修正に持ち込むのに必要なのは、ほんの一工夫だ。
そういう症状のある人たちと頻繁にやり取りしながらでないと磨けず、漫然と対応していても身につかず、また身についても使わなければ鈍る。
これはセンスではなく、技術だ。
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ある患者さんから「CIAに電話して」と言われたことがある。
「否定しない」精神で考える。
用件は?
向こうの担当者は?
電話番号が分からない。
実際には、「分かりました、電話番号を教えてください」と答えた。
患者さんはそれ以上なにかを言うことなく、ニヤリとして去って行った。
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質問を繰り返していると、「あれ? 気のせいだったかな?」という様子で首をかしげながら、うやむやに終わることがある。
こうすれば、否定された、聞いてもらえなかった、という感覚は芽生えない。
140
名前を呼ぶ幻聴のある人。
「呼びました?」
「(呼んでません、じゃなくて)なにか聞こえました?」
「名前を呼んだでしょ?」
「なんて呼ばれました? 苗字? 名前?」
「苗字」
「◯◯さんって?」
「うん」
「私の声?」
「うん」
「口は動いてました?」
「いや……見てない……」
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ここで、患者さんが「お願いします」と答えてくれるようなら、「家族が死んだ」という妄想は少し緩和・修正されたようなものである。
幻聴や妄想の訴えには、とっさに「そんなことないよ」と否定してしまいがちだが、真実を答えるのではなく、いったん受け止めて返してみる。
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「家族が死んだ」という妄想のある入院患者さんに、「生きてますよ」と訂正する。この訂正は、相手からすると「否定」だ。
では、どう答えるか。
「もし亡くなったと連絡があれば、真っ先にお知らせしますよ」
こうすれば、相手を否定する言葉の「圧力」は弱まる。
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「薬を飲みたくないんです」
「どうして?」
「薬を飲むと霊感が弱められるから」
「なるほど。ところで、霊感で得したことは?」
「いいえ」
「困ったことは?」
「あります」
「それなら、霊感が弱まるほうが良いのでは?」
「そうですね(笑)」
妄想を否定せず、内服継続に結びつけた会話の一例。
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モンスターの数は、都会のほうが多い。
ところが、田舎、それも病院が地域に一つしかないような僻地だと、モンスターに対して「出入り禁止」ができない。
行く病院はそこしかないから。都会なら「よそに行け」ができる。
モンスターがやりたい放題できる僻地勤務は、本当につらい。 twitter.com/BookloverMD/st…
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少し補足。
これは家族が紹介状を開封したのではなく、受けた医師が「あなた、こんなことしたの?」と確認したみたい(詳細不明)。
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「病院を脅迫する家族がいる」というのは、とても大切な診療情報である。
これを隠したまま他院に紹介するのは、他院からしたら騙し討ちのようなものだ。
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ある患者さんの家族がモンスタークレイマーで、ひどいときは「病院に火つけるぞ!」と脅迫するほどだった。
その患者さんが別の病院に移ることになり、診療情報提供書には家族の脅迫についても記載した。
後日、家族から怒りの電話が入ったが、「事実ですよね?」と返して切った。
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最後に思い出話。
働きだしたロン毛の彼に、「どうして髪切ったの?」と尋ねた。
「面接受けたとき、この人のところで働きたいって思ったからっす」
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ブックオフ社員だったとき、バイト面接にロン毛の若い男性が来た。
足を組み、ヘラヘラッとした雰囲気だったが、話してみると悪い人でもなさそう。人手不足もあって悩んだが、当時の店的にロン毛は敬遠対象。
結局、「ロン毛」を理由にお断り。
翌日、彼から店に電話。
「髪、切りました!」
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これから少し、反省というか、懺悔というか、そいうい話を書く。
不快に感じる人がいるかもしれないし、わざわざ書くことでもないのだろうが、数ヶ月後、数年後に誰かがイイネやRTすることで、俺に今日の気持ちを思い出させてくれるかもしれない。
いくつかの連ツイになる。