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「あかねさす」月見バーガーって何よという話ですけれど
『永遠の迷子でいたいあかねさす月見バーガー二つください』
という短歌があるのです、詠み人は確か歌人の東直子さん。あかねさすのは紫野でもなく、日でも日暮れでもなく月見バーガーなんだねえという自由さよ、私の好きな秋の歌。
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秋の涼風の吹くずっと前からくいしんぼの娘(11歳)はとても楽しみにしてたんですよ、あかねさす月見バーガーを。それで今日土曜の昼に私と2人して張り切って出かけたマクドナルドで「月見バーガーふたつください!」って言ったら
「まだです…」
水曜日からだったこの秋、さいしょのかなしみ。
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私がやたらと小さい人たちに過敏に反応するのは、うちの4歳が赤ちゃんという人々が好きすぎていつも見に行ってしまうからで、彼女ときたら9月の入院も
「赤ちゃんと一緒のお部屋がいい!」
と言うので出来たら赤ちゃんがいてくれると私も助かります...(いないとむくれる
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ご近所の、この夏生まれた赤ちゃんがママの抱っこ紐でお散歩に出ているのを見ていたら、その子が雨上がりの空がやけに澄んで高いのだとか、お顔のすぐ横をスイと横切ってゆくシオカラトンボの姿にぽかんと驚いていて、それで私も気がついたのですけれど、あの子は生まれて初めての秋なんですね。
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いつもなら野球部の巨大なスポーツバッグにジャージ姿で駅への道を全速力で
「やべー」
など言いながら駆けぬけてゆく近所の高校生が今日はぱりっとした白い制服にTHE NORTH FACEのリュックだけを背負って静かに歩く坂道には、夏の終わりがたくさんたくさん落ちていました。
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人は途方もない苦境にあるとか、底なしの孤独にある時に、それが一体何なのか正体を知れなくとも原因がわからなくとも状況だけでも言葉でつかまえることが出来るとひどく安心するものなので、方法は短歌を詠むでも小説を書くでも良いのですけれど、この140文字のテキストって多分、丁度いいんです。
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うちの4歳の好きなもの?ひと?の話。
ところで小児科に限らずお医者様というのは中年以降、体を壊す方がいるもので患者サイドは心配で、子の入院の時外来の時つい「先生大丈夫ですか?元気?」と聞いてしまうのが最近の癖です。
大好きは元気ですか|きなこ @3h4m1 #note note.com/6016/n/nfe15e2…
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よしながふみ先生の『大奥』のドラマ化は、幕末の家茂と和宮の姿を緻密に精巧に描く脚本であってほしい。母親に顧みられなかったひとりと、愛されてのびやかに育ち、しかし時代の変遷の中に国を背負う運命となったひとりの、家族の愛のような、シスターフッドのような、そんな2人の姿をお願いします。
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マスクをしているためにほぼ念力の(ナツメグ!)は空を泳ぐばかりで伝わらず、ひとりのおばちゃんが「お母さんは何作るて言うてたん?」と聞いてナツメグが判明し2人は
「おばちゃんありがとう」
ぺこんと頭を下げてレジに駆けて行きました。私の暮すのは大阪と言って、いっちょかみの多い町です。
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「何?クミン?」
「絶対ちゃう、おまえメモどこにやってんや」
「どっか行った」
「アホ!」
スパイス棚の前で喧嘩するおつかいの兄弟が買い物かごに入れた合いびき肉と玉ねぎからハンバーグを推察した私含む3人のおばちゃんが
(ナツメグ!)
口パクで伝えようとする夕方のスーパーで。
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私は娘に関わっていた医療者の多さに驚愕しつつ深々と頭を下げてその場を辞した。すごい人数の笑顔だった、歩いて退院する患者を見ることは稀だと、嬉しいと言ってくれた。会いたいけどもう来るなとも言ってくれた。毎日報道される「本日の重症者」の数字を見る時、私はいつもあのICUの人々を想う。
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私には前列の数名、娘を担当していた看護師に見覚えはあったけれど、背後の特に医師であるらしい人々が全く分からなかった「どちらさまですか」と聞くとそれは呼吸器科医と集中治療科医と臨床工学士だという、実際はこの倍の人数が、ICUに入院していた娘の為に総出で日夜稼働してくれていたのだそう。
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さては急変か、この命の砦に呑気に退院報告というのはそぐわなかったのかと身構えた時「どうぞ」と開いた二重扉の前に、20人近い人間がずらりと並んでいた。藤色のスクラブと紺色のスクラブ、深緑の術衣の人々。何ごとかと驚き慄く私と娘に看護師のひとりが「自分達に見覚えはないか」と笑顔で聞いた。
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ICUは『生き馬の目を抜いているのはここ!』という部署であるし、軽く挨拶だけと思い面会時間丁度、ICUのインターホンを鳴らし「1ヶ月前にお世話になりまして、今日退院です」と伝えると「あっ!開錠します」と事務の人がそう言った直後、扉の向こうに聞こえたのはざわざわとした人の声と複数人の足音
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子が長く入院して退院する時、親は院内の方々に「お世話になりまして退院します」を告げながら歩くもの。あれは直近の手術入院の時、入院して退院まで2ヶ月程かかったもので、そして「退院の日には寄ってね」と言われていたもので私はICUに挨拶に行った。娘がそこで3週間程お世話になっていたから
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扉を開けたら、お化けの扮装をした芸人さんが突進してきてそれを目の当たりにした人は「ギャー!」と悲鳴をあげて逃げ惑うという動画をうちの子は大変に好む。私は嫌だ、だって怖いから。でも扉を開けたら意外な景色が広がっていて驚愕したという経験は実はある、心臓が止まっても大丈夫そうな場所で。
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それからあまり出かけられないけれど、美術館や博物館の学芸員であるとかキュレーターの方にも、特に大きな企画展の時には
「私こそが東奔西走していろんなとこから借りてまいりました展示品を」
という顔でにこにこどこかに立っていてほしい、それで「ありがとういい展覧会でした!」とか言いたい。
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雨の夕方、傘をささずに私の前を歩く女の子がいて、背後からそれを追いかけて男の子がやって来て、自分の青い傘をその子にほいと渡してそのまま雨の彼方に駆けていく姿を見まして、それがあまりにもサツキと勘太で、その場にいた私は思わずトトロの顔になりました。
清いものを見ました。
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病院の窓については、設計とか設備とか治療、諸々の適性を孕むものなので、ないとかあるとかそれは医療者の方にお任せすることですが、患者家族である私にとって「窓」はこういうものでしたよという話。娘のかかりつけ病院は窓が多い、掃除が大変。
窓|きなこ @3h4m1 #note note.com/6016/n/n5bcc38…
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NICUにも窓がありました。
温度管理の完璧な空間に窓、それは自然の採光を室内に取り入れるためのものだと思いますが、そこに娘を預けていた頃の私には、面会時間を終えて病院の外から小児病棟を見上げた時、あの灯りの中で娘は安心して眠っている、そう思うためのやさしいひかりの、希望の窓でした。
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4歳の支援関係の書類を出しに夏休みの幼稚園に行ったのですけど、園の扉を開けた最初の先生との挨拶が
「アーッ!お母さんご無事でしたか?」
「先生こそ、ご無事ですか?」
というものでさながら戦場のよう、こんなに周囲のひとびとがただ元気でいることが嬉しい夏は44年生きていますけど初めて。
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優秀な人々は「出来てしまうから苦しい、持っているから苦しい」ということを周囲に言っても「貴方はいいわよ~」なんて言われて余計苦しいのだなあということを凡庸な私は最近知りました。すごく優秀な友達の話。
うれいなくたのしく生きよ、娘たち|きなこ @3h4m1 #note note.com/6016/n/n145ae2…
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近所の『猛犬注意』の札を門扉に貼っている大きなお屋敷、大型犬でも飼ってはるんかと思っていたら今日、格子戸をからり開けて出たきたおばあちゃまの連れたワンちゃんが大変にポメポメしい栗毛のポメラニアンだったもので「エッ?」って顔をしたらおばあちゃまも「ウフフそうなの」って顔、確信犯。