801
あと雨が4回降ったら死にますとぽつりもらしたサーカスのクマ/木曜何某
802
終わらせてしまわぬように知っている海の名前をひたすら挙げる/佐々木朔
803
海だってあなたが言えばそうだろう涙と言えばそうなんだろう/木下侑介
804
もうダメだおれはこれから海へ行くそしてカモメを見る人になる/瀧音幸司
805
いいかげん神様引退しようかな 思い通りもつまらないから/竹林ミ來
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優秀なペンギンなので空を飛ぶことを望んでなんていません/谷じゃこ
807
買った時から傷のあるこの服をようやくすこし許しはじめる/山階基
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わたくしを温めるため沸かす湯はかつて雪なる記憶を持てり/中畑智江
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このオレの入浴シーンを謎として見る猫アリス牝7ヶ月/工藤吉生
810
あたらしい明日があなたにくるようにぼくはかうして窓をあけてゐる/中山明
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コーヒーはまだ温かい陽のあたる砂場に裸足で飛びこむように/沼尻つた子
812
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、きらきらとラインマーカーまみれの聖書/穂村弘
813
こたつから飛び出していく猫たちは冬の終わりを告げてゆきます/広沢流
814
ハムレタスサンドは床に落ちパンとレタスとハムとパンに分かれた/岡野大嗣
815
幸福のかたちにとても近いのであなたの温度が欲しかったのです/後藤由紀恵
816
花瓶だけうんとあげたい絶え間なくあなたが花を受けとれるように/笠木拓
817
ありがとう なんてことない人生をちゃんと物語にしてくれて/檀可南子
818
林檎からうさぎを創り出すような小さな魔法に生かされている/松尾唯花
819
わたくしの心臓として適当なりんごをひとつ買ってください/有村桔梗
820
かなしみに加速がつけばスカートの裾をほつれる糸のいきおい/高松紗都子
821
好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ/東直子
822
火の通りにくいものから鍋に入れ軟らかくなるまでに泣きやむ/泳二
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煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火/井上法子
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ことごとく傘の下には人がいてこれが雨だと信じています/吉田竜宇
825
ここじゃない何処かへ行った友達も浴びてるかも知れない通り雨/若草のみち