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みぞれ、みぞれ、みぞれはぼくの犬の名で祖父が好んだ氷の味だ/岡野大嗣
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スイカバーの森にいましたぼくたちは赤いしずくをなめていました/竹林ミ來
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みんな好きなら私の好きはいらんやろかき氷でつくるみずたまり/北村早紀
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どうしても避けて通れぬ水たまりだつたのだらう 踏みつけて行く/龍翔
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一年にふたり以上は渡れない橋で僕らはまたすれ違う/岡野大嗣
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待つ場所を間違えていたことにする/松田俊彦
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もてあまし抱えきれない月がでる身の丈にあった服をください/窪田政男
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退屈な世界はかなり美しい/竹井紫乙
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人々が孤独な種として暮らす西瓜の中は夕焼けの国/飯田和馬
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苺なのか苺なのかと責められる/柳本々々
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倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使/岡野大嗣
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なんとなくショートケーキのイチゴとは仲良くなれる気がしなかった/宇野なずき
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深部にあるやわらかくかつしたたかなかなしみ海と名づけたくなる/吉野裕之
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老犬を抱えて帰るいつか思い出す重さになると思いながら/岡野大嗣
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眠ることしくじった夜に漕ぎ出でる記憶の断片浮かぶみずうみ/ふらみらり
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リプトンをカップにしずめてゆっくりと振り子のように記憶をゆらす/蒼井杏
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誰も手をつないでくれず夜が来た/山内令南
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この海にぴったりとした蓋がないように繋いだ手からさびしい/虫武一俊
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なんの蓋だろう海の匂いがする/松田俊彦
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夜といふひろい庭へと下りてゆくあるいは夢と間違へながら/飯田彩乃
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A4に納まるように生きてきた/むさし
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宇宙的スパンで見れば風呂のあとまたすぐ風呂の生物だろう/虫武一俊
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グレゴール・ザムザは蟲になれたのに僕には同じ朝ばかり来る/岡野大嗣
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世界からサランラップが剥がせない/川合大祐
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今日の日はなにもつけずに召し上がれこの世の甘い味がするから/盛田志保子