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二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ/岡野大嗣
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ひとつだけ満開の桜があって願いが叶うような気がした/檀可南子
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咲きながら散って流れてゆく桜ちいさな春の傷口として/若草のみち
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すごい雨とすごい風だよ 魂は口にくわえてきみに追いつく/平岡直子
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出ておいで桜はみんな散ったから/松田俊彦
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ポケットに入れた切符がやわらかくなるまでひとり春を寝過ごす/岡野大嗣
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祈りとはおおげさだけどはなびらをにぎる右手をひらいてみせて/安田茜
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たんぽぽのぽぽよりたんが楽しくて足下も見ず踊っちゃうよね/谷じゃこ
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眠るあなたの心臓のうへに手を載せてここよりほかにゆく場所がない/飯田彩乃
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こんなにも人が好きだよ くらがりに針のようなる光は射して/中澤系
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君が持つ暗がりばかり知りたくて集めるためにまばたきをする/ショージサキ
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きっかけになったけんかはわからない仲直りから始まった夢/岡野大嗣
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貘になつた夢から覚めてあのひとの夢の舌ざはりがのこる春/荻原裕幸
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この町のまぶたは重い持ち上げても持ち上げても落ちてくる夜空/久野はすみ
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つかれたよ つつじの蜜に致死量があるならここで休めるのにな/岡野大嗣
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あいうえおかきくけこさしすきでしたちつてとなにぬねえきいてるの/まひろ
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落ち着いて驚かないで聞いてくれ実は前から君がすっすす/泳二
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た行しか知らぬ私は「土」と言う あなたのために「好き」の代わりに/大嶋航
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フレンチクルーラーの空気は新緑の季節がいちばんの食べごろさ/岡野大嗣
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五月をシロと名付ければシロはいつまでもわたしの鼻をなめるんだ/フラワーしげる
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「花束」の手話がわからず思い切り抱きしめてみる たぶん合ってる/西村曜
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花束はパンのかわりになりますか辿って会いに来てくれますか/岡本真帆
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星ひろう。なんでもひろわないでねときみにいわれる。「はい」とこたえる。/柳本々々
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干からびた君が好きだよ連れて行く/竹井紫乙
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ああまるでアイスクリームを食べるため今日一日を生きたみたいだ/山上秋恵