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すきなひとのすきなひとのはなしをきいている そのすきなひとにもすきなひとがいる/柳本々々
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くつしたは祈りを暖めるために夜にしみ込むように眠ろう/北村早紀
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ごめんねの後にあなたのつむじから生えている虹もうゆるせない/加賀田優子
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仲直りしてあげるから買ってきて雪のにおいのアイスクリーム/嶋田さくらこ
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流星が尾をふる音がきこえます ゆりかもめ、そちらはどうですか/笹井宏之
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くりかえすことのしあわせ何度でもホットケーキは円形になる/高松紗都子
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はじまりも終わりも見えない道に居て君しかいないような気がする/武田穂佳
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捨ててきた「もし」の種から咲く花はあんなにきれいで見てはいけない/沼尻つた子
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なにひとつまちがってない いつ答えあわせをしてもしあわせである/ほしみゆえ
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たった今うれしい夢をみていたようれしかったのだけが分かるよ/岡野大嗣
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たのしいと思う気持ちが静電気めいて近づくたびにはじける/辻聡之
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届くとか届かないとかではなくて風のすがたになれるかどうか/岩尾淳子
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よろこびもよるべのなさも一切をたましいからの風音として/氏橋奈津子
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それは風、もしくは言葉寸前の祈りに近い叫びであった/木下龍也
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今生に果たす全ての約束の今どのあたり おやすみ、またね/北山あさひ
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いつまでもいつまでも春を待てるならずっと冬でもいいと思った/たきおと
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「片想いはじめました」の張り紙を破いて冬の路上に棄てる/山本左足
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イヤフォンをゆるくはめなおして風が歌いだすなら楽しい夜だ /岡野大嗣
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恋人と棲むよろこびもかなしみもぽぽぽぽぽぽとしか思はれず/荻原裕幸
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ささやくように降ってくるのが預言でも雪でも顔を上げてほほえんで/服部真里子
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祈りにも暗い濁りのあることを君は焚き火の目で告げてをり/濱松哲朗
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眠り方を忘れてしまった者同士わたしも月もひんやりしている/本条恵
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僕だけの秘密にしてる神様の誤植が僕のなかにあること/岡野大嗣
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こんなにもぼくのやる気を吸うくせにふとんにやる気らしきは見えず/岡野大嗣
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暗闇はビターチョコレートの色のマントを広げ私を包む/山上秋恵