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また、これもドラマ上の演出なので仕方ないかもしれませんが、少なくとも緩和ケアの現場において、親族を担当医につけることは避けるべきですし、実際そうしています。
心理的に二重関係が生じ、それは患者も医師も傷つけます。
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極端なことを言えば
「この患者はかわいそうだから死なせてあげた方がいい」
「未練がありそうだから生かしてあげよう」
という、医師側での「選別」を始める恐れがあります。
だからこそ、緩和ケア医にはある程度のストイックさが必要。
親族を診るのは、その行動の根本を壊すリスクがあります。
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先ほどの急変の場面、本来指導医がかけるべき言葉は、
「この方は、何を望んでいた?」
でしょう。
モルヒネで苦痛を取るのも、利尿剤で原因治療をするのも、あくまでも手段にしか過ぎません。
あの場面、舞台の主役は明らかに「医師」でしたが、緩和ケアの現場で医師が主役になってはいけないのです。
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実際の緩和ケアの現場で、患者さんは自らの意思に反してモルヒネを投与されることも、利尿剤を投与されることもありません。
「あなたは、どう生きたいですか?」
の問いのもと、モルヒネが正解のこともあれば、それ以外が正解のこともあります。
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また、モルヒネが適切に使われたとき、寿命を縮めることもありません。
「モルヒネで楽になるけど短い生」
「苦しむかもしれないけど長い生」
の二者択一ではないのです。
様々な苦痛に苛まれる患者さんたちが、適切に緩和ケアにつながり、苦痛が和らぎ、本来の生活を取り戻すことを願っています。