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幼い頃に
「わたし、むっちゃんのおよめしゃんなる!」
と宣言した審神者の娘。情けなくも狼狽える父親審神者の隣で、初期刀でもある陸奥守はガハハと笑うと、娘の小さな頭をわしわしと撫でて言った。
「ほいたら、えい時が来たら嫁になってもらえんか請うぜよ。」
「? およめさんなれる?」
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「ねえ、長谷部。私、高校を卒業したら、正式に審神者になっていいってお父さんか言ってくれたの。だから……だから、初期刀はあなたになってほしい。どうかな。」
へし切長谷部は、顕現されてからこれ程に喜びを感じた事はなかった。ひらひらと舞う桜を誇らしく思いながら、彼は頭を下げた。
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待って……クイックルワイパーしてるとわんこがやたら吠えるんだけど、さっきも無視してクイックルワイパーしてたらわんこがリード咥えて持ってきた。
……まさか私がクイックルワイパーを散歩させてると思ってた?陽気か??
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審神者が引退し現世へ帰ってからというもの、審神者の身の回りに不穏な気配がある。ラップ音を鳴らしたり、突然ドアが開いたりするのだ。不安に思った審神者が政府に連絡を取り専門家に視てもらうと、小さな何かが居ると言う。
「大きさを見るに恐らくは、短刀だろう。」
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「頑張ってる主は、かっこいいよ。」
加州はそう言って、審神者の前髪をちょいちょいと避けた。
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祖父母、最近エモいというワードを知り、使い所を探しているらしく
「今じゃない?ねえこれ今がその時じゃない?」
「お前が言うといい。」
「じいちゃんが先にどうぞ。」
「いや、今は違うかもしれん。」
って毎回それっぽい時を見付けては勇気を振り絞れずにいる。
そんな君達がエモい。
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とある本丸のクリスマスは、全力である。
庭のど真ん中には巨大なツリーを建て、日頃和の様相を崩さぬ庭すらあの手この手で洋風に変える。当然電飾はありったけ飾る。正直眩しい。食事も完全洋食だ。
およそ二ヶ月前から刀達はそわそわしている。何にって、そりゃあ勿論審神者へのプレゼント選びにだ。
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審神者の娘が生まれた時、一度だけ抱っこした刀剣男士。
その娘には残念ながら審神者になる素質がまるでなかった為、もう一人の親と共に一般人として暮らし、大人になり、ついには結婚が決まった。
結婚式の日、娘は柔らかな日差しとライスシャワーのその奥に、一瞬懐かしい誰かを見た気がした。
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時の政府から、散歩機能とやらの説明があった。なんでも、任意の刀剣男士一振りと共に土地を移動することで、何かしらの防衛手段を踏むのだとか。まあどこまで本当かは分からないが、多くの審神者達は活発に外へ出歩くようになったのだとか。
「お散歩ねぇ……。」
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小学校から大学までガッチガチの女子校で生きてきた審神者は、当然本丸でも乱や北谷菜切、次郎太刀などの外見が比較的女性的な刀剣男士に依存気味。
そんな審神者が初恋を向けてしまった相手は、何故か同田貫。審神者が一番、戸惑ってる。
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あと、テレビ出演するチーム江を見た御手杵は無意識に(えっ、俺呼ばれてないけど大丈夫だよな? 俺が予定忘れてたとかじゃないよな!?)って江と一纏めにされ過ぎて勝手に一体感持ってて慌ててると良い。
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きっと、各本丸の稲葉江は「入るのか……あれに……?」って思いながらテレビ見てたんだろうな。
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こんな審神者になりたい。
①幼いながらに審神者
「おにさんみつけた!」
柔い声のあと、ふわりと優しい風が吹く。これはまだ幼い審神者の為に優しい刀剣男士達からの加護だ。良いものだけを見せたいという、加護。
「主、十秒目を閉じておいで。数えられるね?」
応えるは、歌仙の優しい声。
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これは、とある本丸の話である。
その本丸の審神者は、中学を卒業してすぐ審神者になった。親はせめて高校くらい、と説得したが、審神者は自らの意思で審神者になる事を選んだ。審神者は別に、家庭に不満があった訳では無い。だが、高校を選ぶ気になれぬ理由があった。それだけだ。
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数多くある本丸には、その数より少し少ない数の担当官がついている。彼らは初年度のみランダムに選ばれた一つの本丸を先輩担当官に追従する形で学んだ後、平均三つ程の本丸を担当する事になる。
こういう噂がある。
担当官になるのは、審神者になるより更に難しい。
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これは、とある本丸の話である。
「君を主とは呼べない。悪いが、主権を放棄して欲しい。」
ひやりとした声だった。審神者はそれを、ただ呆然と聞くしかなかった。何故、どうして、そんな言葉がぐるぐると脳内を駆け巡る。手元の端末に映る初期刀の状態は良好。つまりこれは、乗っ取りではない。
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「その命、もういらないのか?」
私に声をかけてきた男は、今まさに飛び降りようとする私を止めようとはしなかった。普通慌てて止めるだろう、とつい呆れる程平然と話してきたのだ。
「なら、俺たちにあんたの命を拾わせてくれ。」
これが、私が審神者になった話の序章と言えるのだろう。
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ツイステの世界に来て以来、慣れない世界環境や劣悪な住環境、常識軸の違う授業課題や度重なるオバブロ対策のせいで完全に生理が止まっていた監督生♀。ある朝布団が血に汚れているのを見て、咄嗟にトイレに閉じこもる。
「お、おい?どうしたんだ?!」
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また、雪だるまを作ろう。
そんな約束をした。
雪が滅多に降らない地域で産まれた君は、本丸の景趣で作られた偽物の雪に目を輝かせて、なかなか庭から離れようとしなくて。結局酷い霜焼けになったと言うのに、また、なんて言ったんだ。
呆れるほど、呑気な主だった。
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江の中にしれっと混ざる御手杵のとこに
またしても何も知らない
御手杵
って添えたい。
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もしも私が死んだらば、
この本丸は好きになさい。
庭に生えたる四季の木も、
葉も実も花も好きになさい。
着物も服も建具さえ、
釘の一つも好きになさい。
けれど一振り、ただひとつ。
あの刀だけ、つれてゆく。
あの刀だけ、もってゆく。
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私、過去に一度だけ救急車を呼ぶ場面に遭遇した事があるんですけど、「人は誰か〜と言うと反応出来ない。明確に役目を与えた方が早い」というのを思い出して「そこのスーツメガネの人、救急車!」「そこのストールの人、目隠し!」などと言えた。確かに早かった
覚えとくと良いと思う。
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「彼氏が出来ました!」
私の報告に、近侍をしていた歌仙は呆れたため息を一つ零した。同じく事務作業を手伝ってくれていた松井と巴も、じとっとした目を向ける。
「それはそれは……次はせめて季節を二つは経験できると良いのだけれど。」
歌仙の言葉は、私の願いでもあった。
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人、人、人
年に数度行われる、審神者がよく集まる催し。そこに、とある本丸の審神者はしょっちゅう通っていた。詳しい事は分からないが、新刊がどうだとか、先着の無配がどうだとか、毎回この催しの一週間前辺りから審神者は一喜一憂忙しい。日頃娯楽のひとつもないから、盛り上がるのだろう。
100
2位は
会社帰りに嫁に頼まれた牛乳を買ったものの袋代3円を惜しんだ結果右手にカバン左手に牛乳、そしてレジで渡されたチラシと途中で差し出され断れなかったティッシュを持った上で更に定期をカバンから出そうと静かに奮闘するお父さん
をやった同田貫