"the Úmanyar and the Avari alike they call the Moriquendi, Elves of the Darkness, for they never beheld the Light that was before the Sun and Moon.(彼らはウーマンヤールとアヴァリを共にモリクウェンディ、暗闇のエルフと呼ぶ。日月以前に在った光を見なかった故に)"『シルマリルの物語』
"it is told that ere long they met Dark Elves in many places, and were befriended by them;(彼らは多くの場所で暗闇エルフと出会い、彼らと親交を深めたと言われている)"(つづく)
"and Men became the companions and disciples in their childhood of these ancient folk,(そして、人間はその幼年時代にこの古えの民の友となり、弟子となった)"(つづく)
"wanderers of the Elven-race who never set out upon the paths to Valinor, and knew of the Valar only as a rumour and a distant name(彼らはエルフ族の放浪者で、ヴァリノールに足を向けることはなく、ヴァラールについても噂やおぼろげに耳に入る名声しか知らなかった)"『シルマリルの物語』
"Elves of the Darkness"、"Dark Elves"は共に、『ホビットの冒険』『指輪物語』では言及されていませんが、両作に登場する"Wood-elf(森エルフ)"、つまり闇の森のエルフがこの種族に含まれます。簡単に言えば、アマンに渡って二本の木の輝きを目にしたエルフ以外のエルフです。(実際はも少し複雑)
さて、ここからクッソ面倒くさい話。エルフの肌についてよく典拠とされるのは追補篇Fの"They were tall, fair of skin and grey-eyed(彼らは背が高く、肌は"fair"で、灰色の目をしていた)"だと思います。
この"fair"を容姿に用いる場合は「美しい」「魅力的な」という意味が込められておりまして、そこから発展して肌であれば白、髪であれば金を指すことがあるのですけれど、トールキンがこの言葉をどういう意味で用いたかについては議論の余地があります。
たとえば、『旅の仲間』の第6章、ロスローリエンにおけるレゴラスの歌の中に、こういうフレーズがあります。
As sun upon the golden boughs In Lórien the fair. Her hair was long, her limbs were white, And fair she was and free;
美しきローリエンの 黄金の枝に日がさすように。 彼女の髪は長く、手足は白く、 彼女は美しさそのもので、自由だった。
このように、トールキンは"fair"に必ずしも"white"の意味合いをこめていなかったことがわかります。また、The Book of Lost Tales (『中つ国の歴史』全12巻の第1巻)の脚注には、エルフの容姿についての先程の引用は“かみのエルフ”についての説明だと指摘されています。
「作者が書かなかったこと」について野放図に拡大解釈することについての危険性については重々承知しております。ともあれ、白い肌でないエルフが存在したかどうかについて、トールキンの作品と遺稿から読み取れる範囲では何かを言い切ることはできない--というのが、ガチ勢の見解だと思われます。
なお、日本のウェブサイトなどに「エルフの肌の色は薄い」と書かれているのは、たぶん"pale"なのだと思います。『指輪物語』で時折、エルフの登場人物の様子を描写する際に”pale"と形容されますが、自分が見た感じ(検索でチェックしましたよ)、種族全体の特徴として書かれた箇所はなさげです。
たとえば人物を形容する"dark"が、肌の色なのか髪の色なのかよくわからないというのは、H・P・ラヴクラフトの翻訳でも時々ぶつかる難題でした。他の作品や書簡を参照して、普段そういうのをどういう言葉選びで描写しているかあれこれ吟味し、たぶんこっちなんじゃないかなーとお出しするのが精々。
あくまでも個人的な見解ですが、追補篇Fの"fair of skin"は、普通に色白の美しい肌を指しているのだと自分は考えます。ただし、それは浄福の地の光を浴びたノルドールの話であって、森エルフなどを含むものではないという見解については、これを支持します。
"Elves of Mirkwood(闇の森のエルフ)"だけならともかく、“暗闇エルフ(Dark Elves)”という英語をわざわざ用いた点に着目しますと、“かみのエルフ”に比べ多少肌の色が濃いくらいのことは考えていてもおかしくはないかなと。ドラマの配役については、エルフに倣い良しとも悪しとも言えると思います。
書かれていないことが広まりやすいのは、僕が普段から繰り返し言っている「ラヴクラフトが明確に人間の口で発音できないと書いているのは、Cthulhuと R'lyehとN'gah-Kthun(の、本来の発音)くらいで、アザトースもナイアルラトホテプも人名として設定されたもの」だという話と同根なのでしょう。
とりあえず、映画六部作やゲームを含む、J・R・R・トールキン作品の派生物についての自分のスタンスを表明しておきます。それ以外の原作もの全般に、同じスタンスで接しているわけではありません。それくらい、トールキンは自分にとって無二の存在です。また、他者に同意を求めるものでもありません。
(RT言及)紙代の値上がりで、安い紙に切り替えていくことで、同じシリーズの本でも今後、厚みが変わっていうことになるだろうという話は、いくつかの版元から聞きました。
『エルリック・サーガ』新訳の際、井辻朱美さんが「アリオッチ」を「アリオッホ」に変更したことはよく取り沙汰されますけれど、2020年に井辻さんが翻訳されたコミック版を見る限り、今現在は「アリオック」表記のようです。
これが話題になった2年前の評価で、学習効果でだんだんよくなるだろうと期待しながら、下訳サポーターとして使ってきたのですけれど(有償ユーザ)、成長の方向が「省略ありきで“それらしい日本語に成形する能力”ばかりがあがっている」ように見え、(つづく) twitter.com/Molice/status/…
#女神転生 ファミコンの『デジタル・デビル物語 女神転生』の発売から35周年との由。「悪魔召喚プログラム」「生体マグネタイト」などの今に残る要素は西谷史先生の原作小説からで、"伝奇ロマン"文脈の産物ですね。(リンク先はゲーラボ16年4月号掲載のショートインタビュー)mitok.info/?p=44417
ポカホンタスを黒人と言ってしまった方の件、より根深い話にも繋がっていて、"黒人"という言葉の向き先がふわっとしている方は実際、多いと思います。通常、アフリカのネグロイドやカポイドを指すと思いますが、古い定義では南太平洋系も含み、オーストラリアの先住民族も歴史的に黒人と呼ばれました。
「取材は無報酬が原則」「金銭の介在により、真実性が歪みかねない」とか言っている記者の方がいらっしゃいますが、過去、マスメディアから取材を受けた際、金額的には少なくてもだいたい謝礼金が出てますね(ごくわずかに例外があります)。むろん、収入として申告しています。
【告知】『ロードス島戦記クロニクル』発売記念で、PCゲーム版の開発に携わられた元グループSNE所属のゲームデザイナー、高山浩様のインタビュー記事を収録・構成させていただきました。リンク先にて10月末まで公開されます。『クロニクル』は現在、2次ロット分の予約受付中。ac-mall.jp/egpc-0019