26
#twnovel むかし逢った人魚にまた逢いたくて、海に近い場所に喫茶店を開いた。常連になった地元の女性と結婚した。人魚とは二度と逢えなかった。その妻を早くに亡くしたあと、酒の席で義父が言った。「口止めされてたんだけど、元々あいつは養女でな」記憶喪失だったのを浜辺で拾ったんだよ。
27
#twnovel 生まれ変わったらどうしても逢いたい相手がいた。しかし何度も生まれ変わるうちに理由を忘れてしまった。なのに逢いたい気持ちだけが募る。心の奥底から込み上げるこの感情は……。「ところで、お前は私の恋人であったのか敵であったのか」訊くと、やっと逢えた相手は何か凄い表情をした。
28
吸血鬼「あのね、吸血鬼にも上級下級があって、私ほどになるとちっぽけな小川くらい何ともないんだよ?」
人間「そうなのか? 下級なら……」
吸血鬼「流しそうめんも怖がるレベルの知り合いもいるけど」
人間「弱すぎる、よく吸血鬼やってられるな」
吸血鬼「本人もそう言ってた」
29
吸血鬼「私は、ちょっとこの地に長く居すぎてしまったかもしれないね」
人間「急にどうした、故郷に帰るのか」
吸血鬼「この間、古い知り合いと電話してたんだけどね」
人間「……おう」
吸血鬼「日本語が訛ってると言われた」
人間「近所の年寄りとばかり交流するから……」
30
#twnovel 十年後にまた会おうと冗談交じりで約束した喫茶店は勿論もうなかったが、瓦礫の上で奴がキャンプグッズで湯を沸かしていたので笑った。それから泣けてきた。奴がまずい珈琲をすすり、「よく国境を越えられたな」と言った。「建設屋に国境はないのさ」「医者にもな」さあ、国を再興するのだ。
31
妖怪「とって食ってやろうと思ったが……おぬし、どこぞの神か大妖怪と関わりがあるな?」
人間「なぜわかる?」
妖怪「付箋が付いとる」
人間「付箋」
妖怪「人間には見えん付箋だ。勝手に食うなと書いてある」
人間「俺は冷蔵庫のプリンか」
32
トラックに轢かれて転生したら蜂の女王になっちゃった! 卵を産むだけの虫生なんて絶対にイヤ! でも皆にちやほやされるの悪くないかも……でも、あれ? 蜂って冬を越せるのって女王蜂だけ……? こんなに私を慕ってくれる部下たちを死なせてたまるもんですか! 自然の掟を超えて、皆を救ってみせる!
33
人間「なんで渡れもしないのにそう川が好きなんだ?」
吸血鬼「ふふ、いつかどうしても渡りたい川があってね」
人間「どこの? 日本の?」
吸血鬼「日本のだよ。君もいつかは渡るだろうね」
34
吸血鬼「この間、河川敷道路を散歩してたんだけど」
人間「それはできるんだ……」
吸血鬼「橋の下に何かいて、何者か聞いたら式神だって言われた」
人間「陰陽師までいるのかこの地方都市……」
35
吸血鬼「君がどこに引っ越そうが構わない。県外でも市外でも。ただし川は越えるな」
人間「選択範囲狭い」
36
吸血鬼「日本、なんか川の数多くない? 行動範囲めっちゃ狭いんだけど」
人間「故郷に帰れよ」
37
鬼談「豆をまかれる覚悟で民家に行ったら豆じゃなくて塩をまかれて自分でも意外なほど落ち込んだ。塩はなんか、心に来る」
38
沼の女神「ここに落ちてるのはあなたのお友達ですか他人ですか」
オタ「友達です」
沼の女神「早くあなたも落ちなさい」
39
コンコン
「どなたですか」
「先日おさめたと思っておられた仕事です……」
「帰ってー!」
40
#twnovel 祖母が、孫みたいな歳の青年と結婚すると言い出した。「だってね、若いころ死んだおじいちゃんの生まれ変わりだって言うんだよ」「嘘に決まってる、財産目当てだよ」「でも、何もかも知ってるんだ。おじいちゃんが本当は事故死じゃなかったことも、犯人が私だってことも、何もかも、全部」
41
こじらせた人「坊主は憎いのに袈裟は愛しい……」
42
#twnovel 生まれつき予知能力があって、来年、世界が滅びることを知っていた。でも翌年になっても滅びるのは《来年》だった。他の予知はすべて当たっている。滅びの予知だけが毎年毎年延期される。たぶん、世界のどこかで懸命に戦っている誰かがいるのだ。だから世界はまだ捨てたものじゃないのだ。
43
#twnovel 「好きな子に贈るなら花だろ」友人の勧めに従って、毎朝、彼女に花をあげた。花は友人がくれた。彼女には結局フラれた。友人宅を訪れると、友人はいつもどおり庭で泥にまみれてたくさんの花の世話をしていた。「毎日、僕に花をくれてありがとう」僕が言うと、友人の顔が真っ赤になった。
44
#twnovel 「生まれて初めてラブストーリーを書いた」友人の作家がそう言って本を渡してきた。いつも以上にたいへん面白かったのだが、ラブの欠片も見当たらなかった。「どこがラブストーリーなんだ?」「1から10まで君の好みに合わせて書いた。これを書くことこそが私にとってラブストーリーだった」
45
#twnovel 「50年待ってくださいまし」祖母は若い頃、神に求婚されてそう言った。時の概念の違う神は「わかった」と去った。そして50年がたった。孫の私は祖母そっくりだそうだ。神はかわりに私を連れてゆくだろうと皆が嘆いた。あらわれた神は、花嫁衣装の私を素通りし、祖母の墓の前で泣きだした。
46
#twnovel 祖父が昔教えてくれた星座があった。誰も知らない、どんな本にも載っていない、祖父がかつて恋人と作ったという二人だけの星座。山間合宿の夜、空を見上げて「あ、四ツ葉のクローバー座」と先輩が言ったのでびっくりした。「昔、おばあちゃんが教えてくれたの」
47
政治にはメロスがわからぬ。一般庶民てこんなに何も考えずに行動しちゃうの? メロスの友人も友人で、なに気軽に身代わりなんて引き受けちゃうの? 戻るわけな……えっ待ってマジでメロス帰ってきた。しかも全裸とか何なの? 政治にはメロスがわからぬ。服着せてやって。
48
#twnovel 「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」「厨房の老メイド長です」「それは誰目線で?」「彼女の夫である庭師のジョン目線で」「いいわね」「ちなみに下町の飾り紐売りの娘も世界一美しいです」「誰目線で?」「彼女の一つ年下の幼馴染みの少年の目線で」「今日もいい話を聞かせて貰ったわ」
49
#twnovel 美人だが男が変わる度に趣味も服装も化粧も変わる友人と久しぶりに会ったら、ピンクの髪で現れたので驚いた。「どこで待ち合わせしてもすぐ見つけられるでしょ?」今の彼氏は相貌失認で人の顔が覚えられないのだそうだ。「私が綺麗でなくても好きでいてくれるんだ」友人はすっぴんだった。
50
猫アプリの猫版の人間アプリ
人間『かわいい』
人間『かわいい』
人間『吸わせて』
人間『かわいい』
人間『そこで吐かないでぇぇ』