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#twnovel 「好きな子に贈るなら花だろ」友人の勧めに従って、毎朝、彼女に花をあげた。花は友人がくれた。彼女には結局フラれた。友人宅を訪れると、友人はいつもどおり庭で泥にまみれてたくさんの花の世話をしていた。「毎日、僕に花をくれてありがとう」僕が言うと、友人の顔が真っ赤になった。
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こじらせた人「坊主は憎いのに袈裟は愛しい……」
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人魚姫「嵐の夜に助けた王子様が忘れられないの。お願い」
魔女「やめとけやめとけ」
人魚姫「従者×王子様のお話を考えたの聞いてくれる?」
魔女「あ?」
人魚姫「隣国の王子ともいいと思うの」
魔女「あ?」
人魚姫「誰かに話したくて我慢できないの」
魔女「ノートとペンやろうか? 手はあるし」
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#twnovel 祖母が、孫みたいな歳の青年と結婚すると言い出した。「だってね、若いころ死んだおじいちゃんの生まれ変わりだって言うんだよ」「嘘に決まってる、財産目当てだよ」「でも、何もかも知ってるんだ。おじいちゃんが本当は事故死じゃなかったことも、犯人が私だってことも、何もかも、全部」
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吸血鬼「君がどこに引っ越そうが構わない。県外でも市外でも。ただし川は越えるな」
人間「選択範囲狭い」
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吸血鬼「この間、河川敷道路を散歩してたんだけど」
人間「それはできるんだ……」
吸血鬼「橋の下に何かいて、何者か聞いたら式神だって言われた」
人間「陰陽師までいるのかこの地方都市……」
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#twnovel 十年後にまた会おうと冗談交じりで約束した喫茶店は勿論もうなかったが、瓦礫の上で奴がキャンプグッズで湯を沸かしていたので笑った。それから泣けてきた。奴がまずい珈琲をすすり、「よく国境を越えられたな」と言った。「建設屋に国境はないのさ」「医者にもな」さあ、国を再興するのだ。
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『普段からうっすら体調悪い属』の皆さま、このご時世には大変ですよね……。改善を模索したり頑張ってひどくしたり。いつもなら『よくある不調』として気にもしないものが、今だと必要以上に心配になっちゃったりするし。暑さにもやられるし。低空飛行でも何とかゆるゆるやっていきましょう
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勇者「魔王ッ……どうしてそこまで人間を憎む……!」
魔王「お前にわかるように説明すると、お前たち人間は私にとって大切な庭に突然増えたミントなのだ」
魔法使い「あー」
戦士「やべぇ気持ちわかる」
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#twnovel 生まれ変わったらどうしても逢いたい相手がいた。しかし何度も生まれ変わるうちに理由を忘れてしまった。なのに逢いたい気持ちだけが募る。心の奥底から込み上げるこの感情は……。「ところで、お前は私の恋人であったのか敵であったのか」訊くと、やっと逢えた相手は何か凄い表情をした。
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魔王「世界を滅ぼしに来た」
人間「どのレベルまで?」
魔王「草木も生えぬくらい」
人間「もう少しまけて」
魔王「草木と虫は残す」
人間「もう一声」
魔王「人間以外の動物、鳥類も残す」
人間「猫もだよね?」
魔王「猫も残す」
人間「じゃそれで」
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#twnovel ケルベロスの仔犬をもらった。小さな体に小さな頭が三つ付いていて、すごく可愛い。「大抵、成長すると頭は一つになっちゃうんだよ」「そうなの?」「可愛い顔をいっぱい見せなくても、複数の口で無理矢理いっぱい食べなくても、ちゃんと大事に愛されて守られると安心できたら、そうなる」
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#twnovel 推理小説を書くのはもうやめると言うと、友人は「それは困る」と喚いた。僕の小説の殺人トリックはすべて友人が発想したものだ。「書いてくんなきゃ、俺、実際に試したくなる……」泣きながら言われて、渋々もう少し続けることにした。後日、友人が持ってきたネタの被害者は推理作家だった。
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吸血鬼「私は、ちょっとこの地に長く居すぎてしまったかもしれないね」
人間「急にどうした、故郷に帰るのか」
吸血鬼「この間、古い知り合いと電話してたんだけどね」
人間「……おう」
吸血鬼「日本語が訛ってると言われた」
人間「近所の年寄りとばかり交流するから……」
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吸血鬼「あのね、吸血鬼にも上級下級があって、私ほどになるとちっぽけな小川くらい何ともないんだよ?」
人間「そうなのか? 下級なら……」
吸血鬼「流しそうめんも怖がるレベルの知り合いもいるけど」
人間「弱すぎる、よく吸血鬼やってられるな」
吸血鬼「本人もそう言ってた」
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#twnovel 生まれつき予知能力があって、来年、世界が滅びることを知っていた。でも翌年になっても滅びるのは《来年》だった。他の予知はすべて当たっている。滅びの予知だけが毎年毎年延期される。たぶん、世界のどこかで懸命に戦っている誰かがいるのだ。だから世界はまだ捨てたものじゃないのだ。
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#twnovel 久しぶりに帰省すると、昔ケンカ別れした友人から連絡があった。「漫画家になったんだって? どんなのか知らないけど、姪っ子がファンらしいからサインしてやってくれよ」その子が母親と共に家に来た。「僕の漫画を好きになってくれたきっかけって何?」「叔父さんの部屋に全巻揃ってたから」
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人間「なに沈んだ顔してんだ」
吸血鬼「オレオレ詐欺にあった……」
人間「何か取られたのか!?」
吸血鬼「その前に気づいたけど、電話で『俺、俺』なんて言うからつい……百年前に死んだあいつかと」
人間「百年前」
吸血鬼「生まれ変わってまた会いに来てくれたのかと」
人間「あああ泣くな」
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#twnovel 王都の広場中央には岩に刺さった剣があり、「抜いた者は王になる」と伝えられていました。その隣には小さなガラスの靴があり、「履けた者は王子様と結婚する」と伝えられていました。聡明な読者はお気づきでしょう。そうです。いま現れた少女が、みごと剣を抜き、なおかつ靴も履いたのです。
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#twnovel 花魁の前に現れたのは狐だった。怪我して死にかけたのを、人の男に救われた。人に化けて恩返ししたいが人の美醜がわからない。美しいと評判の貴女の姿に化けてもよいか。「いいとも」花魁は言う。「私の顔と姿で、愛する男と添い遂げるといい。私には叶わぬ望みを叶えてくれたら私も嬉しい」
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#twnovel 猫は人が知らないだろうことをいろいろ知っている。たとえば、人がやって来られるはずのない高い屋根のてっぺんで昼寝しているとき、ふいに撫でてくる柔らかな手(明らかな人の手)があること。背中に羽があればそれは天から降りてきた人だし、羽がなければこれから天へのぼる人なのだ。
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#twnovel メイドロボの修理をしていた若手が「えっ」と声をあげた。「どうした」「中の部品が一つだけ違うメーカーのなんスよ」「お前、初めてか」親方は説明する。ときどきそういうのがいるんだ。仲良くなったロボット同士でこっそり部品を交換するらしい。指輪みたいにさ。信じられないか。ハハハ。
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#twnovel 「そんなに愛していたなら、なぜその人を仲間にしなかったんだ?」友である吸血鬼に訊くと、彼は答えた。「人と吸血鬼では寿命が違いすぎる」「それが理由?」「寿命が違うと生きる速度も感情の速度も違う。愛してると気づいたのは、その人が寿命を全うして百年ほどたった頃だったよ」
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#twnovel 子供たちが密室トリックについて議論を交わしている。『犯人』はどうやって鍵を開けて閉めたのか? それとも始めからどこかに隠れていた? そもそも本当に密室だったのか? 秘密の抜け穴や共犯者の存在の可能性は?「とにかくプレゼントの包みを開けたらどう?」クリスマスの朝のことである。
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「おじいちゃん復讐はもう済ませたでしょ、あいつはもういないのよ」