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『夏物語』には小さな手紙を同封した。書きたいことは沢山あるのに「悲しいときも嬉しいときも、ずっとあなたの音楽を聴いてきました。私は2曲目でステージを降りてきてくれたあなたに抱きしめてもらったことがあります。大好きです。存在していてくれてありがとう」しか書けんかった。
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シンディが作品を読んでくれるかどうか以前に、そもそもこの状態で配達されるのかもわからない。流通が機能したとして世界中から様々が届くやろう彼女に辿り着く確率は殆どゼロ。でもそれでいいと思った。届かんくても海に小瓶を放つ気持ちで私はシンディに作品を送ったのだ。もうそれだけでよかった。
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当時はパンデミックでアメリカはエージェントも流通も完全に麻痺していて、どこにも情報はなかった。でも諦められなかった。いろんな方に尋ねて、最後は湯川れい子さんにエージェントの連絡先を教えて頂くことができた。過去に一度ご挨拶を差し上げただけの私に湯川さんはとても親切にして下さった。
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みんなどわっとシンディの方にどよめいて、気がつけば目の前にシンディがいた。そしたらつぎの瞬間──今書いてても体がふわっとするんやけども、シンディがわたしを抱きしめてくれたのだ。このときは完全に瞳孔が開いてたと思う。何が起きたのかわからん瞬間で、そのあとはあんまり記憶がない。
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月日は流れ、紆余曲折を経て私は文章を書いて生活をするようになった。シンディの音楽とあの瞬間は、変わらずずっとそばにあってくれた。そして2020年の春に『夏物語』が英訳されて、届かないのはわかってるけど、自分の作品をシンディに送りたいと思った。でもどこに送ればいいのかもわからない。
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びくびくしながら、でも胸は痛いくらいにどきどきして、果たしてシンディはステージに現れた。輝いていて、光っていて、息が止まりそうだった。たぶん瞳孔もちょっと開いてたと思う。シンディは最初からもう全力で一生懸命で、まだ始まったばっかりの2曲目でもう客席に降りてきた。
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今から20年近く前、シンディのコンサートがあった。私はその頃ずっと通院していて、ぎりぎりまで出かけられるかわからなかった。でもこの日を心待ちにしていたし、運良く手に入れることができたチケットは2列目で、何より初めてシンディの生の歌声が聴けるのだ。重い体をひきずって会場に出かけた。
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もうあかんかもと思うたびに、でもシンディかって辛かった、でも頑張ったんよなと言い聞かせた。シンディの笑顔と歌は強くて優しくて「がんばりや」「あんじょうしいや」と言ってくれてるようで、シンディがいることでなんとか気持ちを繋いでいられるような、そんな時期があった。
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10代と20代、何もかもがうまく行かず、自分がこの先を生きていけるのかどうかわからなかった。苦しいとき、シンディの歌を聴いて、シンディのことを本当によく考えた。大変な家庭で育ったこと、若い頃に自己破産もしたこと、最初のヒットが出るまでずいぶん時間がかかったこと。
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私はシンディ・ローパーが大好きで、10代の頃からずっと、大切な人だ。明るくて優しくて、人情があって一生懸命で、彼女の音楽にはそんなすべてが現れているようで(音楽には遠くの誰かにもそう思わせる力があるよね) 彼女の音楽がどれだけ私を勇気づけ助けてくれたか、言葉にすることはできない。
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ずっと読み継がれる本には大きな意味がある。でも、読まれなくなった本、なっていく本にも、わたしは意味があると思ってる。作家も本も、物語という蚊柱の蚊みたいなもんで、死んで落ちて、入れ替わり、またほかの蚊が生まれ、保たれる。そこに蚊柱があることが大切なんやな
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せやけど日本でも海外でも、会いに来てくれた若い読者の女の子で、こう、いろろんな思いが極まって体震わせて泣いてくれる子がようさんおる。それは著者に会えたからというより、その人のこれまでのこと、作品とご自身の思いの交錯が万感になって押し寄せてこみあげる、そういう涙なんやと思う
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なんか、Twitter始めて2年やけど文体がしっくりきてへんかったんや。なんかよそいきゆうかな。せやけどぜんぶ大阪弁で書いてみたらこれがびびるぐらいしっくりくるがな。それもこれもノエルのおかげや。今後はぜんぶ大阪弁で書くわな
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うちら青春が90'sやろ、わたしもoasis、とくにノエルが普通に好きでな、最後にライブ行ったんはもう22年前やけどもちろんBack in angerも合唱したんや。んでいまイギリスにおるやろ、行くとこ会う人ら若い子らにoasisの話きくんやけどこれが3時間くらい話しても足りんくらい興味深くておもろいんや
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昨日@Foyles を少し覗いて店内を歩き、そろそろ出ようというときに、女性が近づいてきて「ミエコ・カワカミですか」。驚いて、そうですそうですと答えると「さっきサイン本を探しに行ったらもうなくて、ここならどうかと思ってきたんです、そうしたら、信じられないけどあなたがいて、
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"Blue collar?"
"Blue color"
としていて、唸り、考えさせられました。あと冬子が書店で次々に書名をあげていく場面があるのですが、わたしの作った初心者向け物理学ムックや女性むけ自己啓発書籍タイトルをどう訳してくれたのかも、また紹介したいです。引き合わせ作業は学ぶことが無限にあって楽しい
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翻訳の話。冬子と三束さんが青空を見あげて話すシーンがあって、そこで冬子が言った「まぶしい」を三束さんが「貧しい?」と聞き違えるんですが、「まぶしい」と「貧しい」は音だけでなく、意味の対比がのちに明かされる三束さんの秘密において重要で、それを翻訳者はどう訳したかというと
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4月23日はみんなで本を贈りあいましょう『世界本の日〜サン・ジョルディの日〜》。1日早いですが、明日22日は「あさイチ」さんにお邪魔して、おすすめの本をご紹介します。ぜひご覧くださいませ📕
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『ヘヴン』が、ブッカー国際賞の最終候補に選ばれました。読んでくださった読者のみなさん、あの物語を大事に思ってくださっていた読者のみなさん、本当に、心からありがとう。 twitter.com/TheBookerPrize…
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「実は『中立』や『客観』って、マジョリティの立場に立つことなんですよ。それは強者の眼差しなんです〉──信田さよ子さんのこの言葉は、どんなときも忘れたらあかんと思う
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『ヘヴン』が国際ブッカー賞にノミネートされました。翻訳をしてくれたデヴィッド、サム、チームのみんな、ありがとう、おめでとう。そして『ヘヴン』を読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとう! twitter.com/TheBookerPrize…