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虐待致死の報道に触れるたび、わたしは自分と重ね合わせる。「なぜ児相に行かなかった」「なぜ産んだ」「なぜ親であることを手放さない」との外野の誹りは、いずれもイフのわたしに向けられたもののように思う。もしもわたしが2歳の子どもと死を選んでいたら、同じ誹りを受けるのは免れなかったろう
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日本のあちこちに、あのときの《わたし》がいる。子どもと全力で向き合っても、連日不可解な理不尽に苦しむ《わたし》。夜も子どもが泣くから、抱っこ紐をつけたまま寝ている《わたし》。健やかに育ってもらいたいだけなのに、なにも食べてくれなくて頭が禿げるまで悩む《わたし》。相談相手などいない
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わたしが子どもと死ななかったのは単に偶然の結果に過ぎない。眠る我が子の口を塞ぐ夢を幾度みたことか知れない。その度に罪悪感に苦しみ、同時に楽になりたいとも願った。3歳半を過ぎたあたりで子どもが人間っぽくなり、そこから視界が明るく広くなったものの、それまでは悲しいほどに孤独だった
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児相に電話すれば休めたり助かったりするような、単純なシステムは育児業界に存在しない。《わたし》たちは瞬間瞬間を懸命に生き、子どもを育み、トイレさえひとり油断して行けない暮らしの中で、時々怨嗟の如きSOSを放つのに、それが「明日の託児」にも「制度的救済」にも繋がることは滅多にない
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虐待は悪です、そんなことは百も承知だ。そこそこ普通を自負する人間でも、虐待しそうになるところまで育児という営みは理性を圧迫することがある。だからこそ負荷分散が必要で、児相に繋がりハイ解決という机上の空論からいい加減議論を進めるべき時期に来ている、ただそれだけのことなのに。なのに。
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「お母さんだからがんばれる」と誰かが言った。わたしも「お母さんだからがんばれる」と思ってしまった。わたしはお母さんである前に殴られれば痛いし毎夜数時間は眠らなければ死ぬ人間なのに、なぜかそんな当たり前の前提まで、奪われがちな《わたし》たちと、それゆえ人生を喪う子どもたちがいる。
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【補記】コメントくださったみなさま、どうもありがとうございます。実に子育ては見立てがきかない大事業ですよね。現役の親御さんはどうか、少しでも多く休息がとれますように…
↓全文まとめました。
『密室の中で、起きていること』|雨滴堂=Utekido= @Utekido #note note.com/utekido2019/n/…
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子どもの発達検査のとき、隣の診察室で泣いてたお母さんの言葉を時々思い出す。「南米のあらゆる川の名前を、小川の名前まで覚えて、お友だちの名前も覚えてないのに、一日中地図見て南米の川のことばっかり、ずっと」と。先生は笑って諫めていた。笑えないし悲痛だった。この界隈、そんな齟齬が多い
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子どもが1歳の冬、普段と違う声と表情で激しく泣き出した。土曜の夜だった。なにをしても泣き止まず、3時間経ったところで#8000 を経て、大学病院に繋がった。電話口で「まだ赤ちゃんでしょ、気分転換させたら泣き止みますよ。色々工夫してみて」と言われた。 twitter.com/er_ihara/statu…
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わたし出産のダメージをがんばって無視しちゃったクチなんですけど、産後ってやっぱりできるだけ横たわっていた方がいいですね。
産後直後から痛む体を引きずって、泣きながらウロウロ通常稼働していたことが、今の頸椎椎間板ヘルニアの遠因のようです。
産後の各位の周りの各位、お母さん寝かせてね。
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仕事は充実しているし職場には恵まれたと感謝している。ただ「保育園の延長を予約すれば残業できるんでしょ?」という上の人の認識に対しては「その残業により子どもと過ごす夕食が一回消え、『自分だけ延長』と子に心細い思いをさせ、信頼リカバリにコストが発生する」のは何度でも申し上げていきたい
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《問》
日本のA市に、母親と、生後半年以上1年未満の乳児がいます。この母親が今すぐこの子を2〜3時間預けたいと考えた場合、実現するにはどうすればよいでしょうか。尚、この母子に親族はおらず、近所に知己もいません。また、母親は高熱を出し嘔吐したためシッター派遣会社には派遣を断られています
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はい「支援センター」ありがとうございます、正答のひとつですね。そして「泣きながら」と書いておられるココ大事ですね。緊迫感ないとリアクションが「大変ですね、予約してくださいね」になります。
A. 泣きながら支援センターに電話して今すぐ赤子を預けたいので方法を教えてくださいと訴える twitter.com/dakara1013/sta…
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支援センターにお勤めの方には大変申し訳ないですが、実際問題として「今すぐ助けが必要」と訴えた時に「では面談のご予約を」と答えるフローが組み込まれている限り、この設問の母子は助かる前に諦める可能性が高いです。支援センターにSOSはよっぽどなので、よっぽどと捉えていただけると嬉しいです
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続きです。「救急車を呼ぶ」案も複数いただいております。実体験から申しますと、「救急車は要請に応じてくれることもあるが、赤ちゃんごと受け入れてくれる病院が稀有」です。わたしは「赤ちゃんは病院の外で待機。それが無理なら来ちゃダメ」と電話で救急受付に言われて受診を断念しました。
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児相に電話しても「まだ手をあげていないなら」「精神科へ行け」と言われるじゃないですか。
もうだめだ、親失格だ、手放すから無事に育ってくれと願ったところで、「赤ちゃん引き取ります」なんて福祉は言わない。そもそも新生児の母親に「一晩眠る」という選択肢があれば殺すまで追い詰められない
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「育児を放棄してもいいから命だけは奪うな」という意見は現場を知ってたら言えない。メインの監護者が育児を5分でも放棄したら赤ちゃんは死ぬ。育児を放棄することが殺すことに直結する。安全に託せる相手がいたら「育児を休み休み続ける」という選択肢も生まれる、でもそれができないから事件になる
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すでに死なせてしまった母親を叩いても、育児の大変さを詳述する母親を黙らせても、この国の育児を取り巻く過酷さは改善されないよ。
この文脈においては現場を知らない人ほど饒舌に正義を語るけれど、児童虐待のニュースは「あなたたちが義憤でエクスタシーを感じるための道具ではない」です。
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自分の要介護状態を把握せず、子どもに及ぶ迷惑を認識できない愚かな大人も。介護を子どもに委ねて憚らない図々しい大人も。「子どもがいるから死ねない」と感情に走り誤認する大人も。まだまだいるので、#ヤングケアラー を見かけたらほんと介入してくれ、誰でもいいからその家から分離してあげてくれ twitter.com/nhk_seikatsu/s…
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その数学の先生は、日本人が嫌いなようだった。はっきりとはそう言わなかったが、たかだか14歳のわたしでも、歓迎されていないことは感じていた。彼はいい歳だったが振る舞いは幼く、「日本人は九九がインストールされているんだから電卓要らないだろ」と言ってわたしから取り上げてみたり、
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わたしが答えを間違えると、「トヨダが数学間違えることなんてあるんだな。いや、君はホンダだったっけ?」と戯けてみたりしていた。わたしは辟易していたが、クラスのほとんどの子は「くだらなーい」と大げさに嘆く素振りをしつつも、彼の冗談に好意的だった。わたしの成績は、段々落ちていった。
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黄色のレポート用紙にボールペンで日本語を書き殴った。湧いて出る気持ちを言葉に託して書いて書いて書き連ねた。言いたいことはたくさんあったがそれを伝える英語力がないのは確かだったから、周りの誰に宛てるわけでもなく、文句からなにからすべてを叩きつけるように一心不乱に書き続けた。
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考えて導き出した答えが正しければ「日本人だからできて当たり前」と評され、間違っていればここぞとばかりに先生が悪ふざけをする。そして「英語が下手だから」という理由で、100点を取ったところで成績はいつもBマイナス。数学の時間、わたしは授業に参加するのをやめた。
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先生は初めの頃は「気味悪い字を書いてないで問題を解け」と言ってきたが、わたしが無視していたらそのうち構ってこなくなった。
学期末のテストの日、わたしが今日ばかりは仕方ないから回答しようと着席すると、先生はドタドタと歩いてくるなり青い瞳でわたしを見据えて、「服を全部脱げ」と言った。