肩には、細いロシアンブレイド編み込みんだ肩章(エポレット)が取り付けられます エポレットの起源は17世紀末フランス 肩に結んだ「リボン」から派生したと言われています 太陽王ルイ14世の画をみると、無数のリボンが肩から垂れ下がっています 階級によりエポレットのデザインは変化します
袖口の意匠も圧巻です 複雑に交差したオーストリアンノットを良くみると二種類のロシアンブレイドからつくられています 太いブレイドの両端を細いブレイドが追従するように縫い留められます もちろん全てが手作業です また、袖口には「ベルベット」があしらわれます
前端を留めるトグルは「オリベット」と呼ばれます これはオリーブを基にしたデザインです 内部には木の土台が仕込まれておりロシアンブレイドで編みこみ覆っています 衿は、袖口同様にダークネイビーのベルベット生地が使わています
オリベット自体は飾りの意味合いが強く、フロントをしっかりと閉じる構造は内部に隠されています なんと重厚なカギホックが「互い違い」に計26個も仕込まれます これを着用者自身で固定するのは至難の業です 一度カギホックを閉じてしまえば、もう脱ぐことのできないホールド感を味わえます
そして、裏地のつくりは手作業地獄です わかりますか? 【星留めのキルティング】なんです このプツプツと見えるすべてが手縫いです 中には「分厚い綿」と「固い麻芯」が噛まされおり、まるで座布団のような厚みです こうすることで誇張した胸の造形美を構築し、イギリスの男性美を表すのです
表現するのは新古典主義から培った男の造形美です このS字に描かれたシルエットを造形するために、見えない裏側にとことん手間をかけるのです 表側にも同様に、目には見えないアイロン仕事を施します これが【テーラーメイド】という技術です 表層からは決して見えない職人技です
旧き衣服の造形美に心奪われた方は、ぜひBlogもご覧ください 絵画に描かれた衣服の構造は、想像以上に面白いものです 構造を知ると美術館巡りが何倍にも楽しくなります また、絵描きさんやコスプレイヤーさんの参考になれば幸いです 「本物」をみるのが1番勉強になりますrrr129annex.blogspot.com/2020/09/blog-p…
19世紀 英仏米の【 肩章 】を動画で紹介しています 軍服の肩に乗っているモップみたいなアレです あなたの推しの肩にも乗っていませんか? 肩章(エポレット)は、ただの装飾なのか?それとも機能性はあるのか? 衣服から歴史を探ります どうぞご笑覧ください ↓ youtu.be/TUW4tMEk2Ug
動画の後半には【大日本帝国 陸軍騎兵の肋骨服】も登場します 言葉を失う圧倒的な存在感を放っています 肩章も重厚なつくりで、手に持つとズシリと重みを感じることができました @Ordenspange さん 貴重な資料を貸出ししていただき、本当にありがとうございます
1880年イギリス ヴィクトリア時代 宮廷騎兵隊「ハウスホールドギャバリー」が着用した【ミリタリーオフィサーフロックコート】を紹介します 見る者を圧倒する、胸の垂れた下がったブレードが最大の特徴です 19世紀初頭のユサール(肋骨服)に用いられた装飾を踏襲しデザインされたました
8月27日(金) 大阪にて【セミナー&ワークショップ】のイベントをおこないます 「本物に触れて、学ぶ」がテーマです 私が研究する1750年~1940年までの旧き衣服を五感で味わう内容になっています 少人数で、濃厚な時間を約束します HPより参加チケットをご購入ください↓ sites.google.com/view/ddatelier…
「鶴見中尉が着ている肋骨服という服を見にきました」 と言われることも少なくありません 半・分解展には【ゴールデンカムイ】という漫画のファンの方も足を運んでくださいます 現在、ゴールデンカムイが全話無料で読むことができます めちゃくちゃ面白いです ↓ tonarinoyj.jp/episode/108341…
尾形百之助が着ている【スナイパーマント】も実物を持っているので、なにかのタイミングで展示したいです 型紙の設計がとても特徴的で、着物のように全てのパーツが「四角形」で編成されています 右腕側のみに肩線があり身体を覆うことができ、左腕側は直線裁ちで銃を隠すことができるのです
ご縁が重なり220年前のイギリスの宮廷服を手に入れることができました ミシンがない時代の圧巻の手作業です シルクと銀糸とガラスで施された刺繍がベルベットのうえに咲いています 時間をかけて美の構造を紐解いていきます
1890年アメリカ 女性用乗馬スカート【サイドサドル】を紹介します 当時の実物を手に入れてから、サイドサドルの歴史と構造をもう一度調べていました この実物を紹介しつつ、19世紀の書籍のなかから記憶に残ったフレーズを挙げていきます
スカートの中に隠された技巧は目を見張るものでした 不安定な横乗り乗馬(サイドサドル)でも美しい佇まいを保持する為の工夫です このサイドサドルは19世紀において最もポピュラーなスタイルになります これまで私が紹介してきたサイドサドル(エプロンタイプ)に比べシンプルな構造になっています
ウクラニアンコルセットをつくってみました 調べてみると袖が付くタイプもあったので、私も袖付きでつくりました きっとかわいいだろうなと思っていましたが、予想通りかわいい洋服になりました
1810年イギリス ブルボン王政復古の【アビ・ア・ラ・フランセーズ】を紹介します 豪華絢爛な刺繍が施された男のコート(アビ)は、フランス革命中にストッキングと共に廃れました 時代は進みナポレオン没後に、ヨーロッパは再び「王様の時代」に戻ろうとします アビがまた、返り咲いた瞬間です
「会議は踊る、されど進まず」の言葉通り、特権階級はロココ調のスタイルに還っていきます ベルベットのシルク素材のうえに、ガラスと銀糸とスパンコールで全面刺繍を施しました 袖口には直接レースを縫い付け、留めることのない飾り釦(25個)にはシルクと銀糸の華が咲き誇ります
200年以上の時を経てシルク刺繍は退色しています 一見するとグレー色の華にも見えます しかし、裏側を覗きみると「200年前の色」が残っていました 甘い花の香りすら感じさせるピンク色に、目の覚めるイエロー、そしてキラキラと光を反射する銀糸 衣服ではなく芸術であることが理解できます
10月24日から11月1日まで 初となる「半・分解展 大阪」を開催します 念願叶っての【大阪展】です 1750年から1940年の衣服を全身で味わいながら、歴史と美術史を学ぶ個展です 衣服標本家 長谷川が、自分の言葉で誠実に対応します ぜひお愉しみください sites.google.com/view/demi-deco…
1870年フランス 馬車の運転手が着た「コーチマンズ・オーバーコート」を紹介します 未使用の状態で150年間眠っていたものを買い取りました 私はこれまで「男性使用人」のさまざまな衣服を紹介してきました 花形使用人であるフットマンと比べながら、その差異を見ていきましょう
雨風に晒される御者(コーチマン)は使用人のなかでも重労働の仕事でした 彼らは馬の管理も任されており、他の使用人と違って馬小屋に寝室がありました また昇進を期待できるポジションでもありません そんなコーチマンの身体を守るコートは、驚くべき生地と製法で仕立てられています
写真では絶対に伝わらないのが心苦しいです 私がこれまで触れてきた生地とは明らかに一線画す手触りです まるで、古びたダムのコンクリートに触れているような無機質で圧倒的な質量が、指先から伝わってくるのです 重さも半端じゃありません 抱きかかえるように持たないと支えられない重量です
フットマンの派手なコートと比べれば、同じ使用人でも求められるものが如何に異なるか一目瞭然です 装飾は一切なく、ただ背景に徹し、馬を操る 上司にあたるフットマンと共に黙々と主に仕えました 雨風から身を守るために、コーチマンの服だけには「裏地」に大きな特徴がありました