帰宅するとなぜか彼女はしたり顔。どうやらベッドの下に置いていたエロ本を見つけたらしい。「別に怒らないけどさ。定番がすぎるというか、もっと上手く隠す努力をしなよ」からかうように言われ、少しホッとする。別に本は隠していないんだ。その更に下、床板を剥がすと出てくる死体は隠しているけど。
小さいとき、夢は世界征服だと言ったら笑われた。大学時代、願望は世界征服だと話したら苦笑された。企業した頃、目標は世界征服だと語ったら嘲笑された。それから四十年、すべての準備は整った。会見に詰めかけた記者たちへ告げる。 「これより世界征服を始めます」 音の失せた会見場で、私は笑った。
意中の彼から突然LINEがきた。 『今夜はとても月が綺麗だね』 これは、どっちだ……?無知なだけか、それとも脈があるのか。彼は夏目漱石を知らない気がする。だけど、もしもそういう意味だとしたら大チャンスだ。難しい顔で唸っていると、またスマホが鳴った。 『By 夏目龍之介』 無知で脈があった。
『もう死にたい』という小さなメモが、図書室の本に挟まっていた。不穏な文章の下には名前も書いてある。どこか既視感のある名前だが、紙は随分と色褪せ古い。昔の学生のものだろう。「作業に集中!」司書教諭の一喝で我に帰る。元気なおばさんだなと一瞥し、名札を見、メモを見、もう一度名札を見た。
私が使えたのは『他者の身体を操る』魔法だけ。それもほんの数秒、一部を軽く動かす程度のものだ。しかし魔女は存在するだけで罪らしく、私は火炙りの刑に処された。赦せない。赦せるわけがない。その傲慢が自らを滅ぼすと知れ。見物する村人たちの前で、村長の喉が動く。『魔女はまだいるぞ。探せ!』
「実はね。あなたと私たちは血が繋がってないの」両親は大事な話があると切り出したが、そのことはとっくに気づいていた。俺だけツノ生えてるし。最近は火も吹けるし。「俺の本当の親ってなに?龍とか?」「いや普通に人間。亡くなった友人夫婦から託された。『なんで龍っぽく育つのか』が今日の議題」
「文房具にコンパスってあるだろ。小学生の頃、あれを両方とも針に改造されたことがあってさ」技術力が必要なイタズラされてるな。時間かかるだろうに。「円は引けないし、犯人もわからないし、途方にくれてたら隣の席の女子が貸してくれたんだよ」女神じゃん。「両方とも鉛筆のコンパス」犯人じゃん。
「あなた、彼じゃないでしょ。ドッペルゲンガーってやつ?」私の指摘に、彼と同じ姿をしたナニカはぐにゃりと笑った。「恋人ってのは恐ろしいね。家族でさえ気づけない俺の入れ替わりを、まさか見抜くとは。容姿に差異はないはずだが」 「本物の彼は山奥に埋めたもの」 「本物の彼は山奥に埋めたの?」
「『三回見たら死ぬ絵』って知ってるか?」海外のナントカって画家が描いたやつか。たまにネットで話題になるよな。信じてはいないけど、不気味だなとは思うよ。「そうそう。あれじゃ効率が悪いなって昔から思っててさ」……効率?「なので、あの絵でスロットマシンを製作してみました」即死を狙うな。
「え、元ヤンなんすか」ジムでの世間話中、驚いた俺に先輩が頷く。「敵対してたチームの総長をぶん殴りたくて、ボクシング始めたんだがよ」先輩は照れたように笑った。「これが楽しくてなぁ。リング以外じゃ、殴りたくなくなっちまった」人に歴史あり、か。良い話だ。「仕方ねえからバイクで轢いたよ」
幼い頃に『大きくなったら結婚しよう』と約束した女の子を探している。名前は忘れて顔も朧気、そもそも俺は既婚者だが、思い出してからは気になって仕方ないのだ。「好きにすれば。今さら約束なんて、とは思うけど」妻はそう言って呆れていた。その耳が赤い理由に気づいたのは、それから少し先のこと。
興味のない方は知らなくても当然だが、昨今のカメラには『霊の自動消去機能』が搭載されている。素人でも精細な写真が撮れる現代と霊の相性は非常に悪く、この機能がなくては発狂する者も後を絶たなかっただろう。心霊写真は技術者たちの努力によって滅んだのである。 (民霊書房刊『霊を解体す』より)
歴史上の偉人を召喚し、戦わせ合う魔術の戦争。名高い英雄が次々と現れる中、ついに俺も召喚に成功した。「君が私の主人か?」魔方陣から出てきたのは凄く普通な人。武将とかではなさそうだし、学者や芸術家にも見えない。「『初めてナマコを食べた人』だ。よろしく頼む」初めてナマコを食べた人……?
「犯人の犯したミス。それは被害者である田中さんの身体を見れば一目でわかります。──そう、田中さんはマッチョだったんです。この彫像のような腹筋に包丁など刺さるわけがない。しかし現に田中さんは亡くなっている。いったいなぜか?──あまりにも簡単な話ですよ。犯人もまたマッチョだからです」
『私に会いたくば強くなれ』 そう言い残して家族を捨てた父に復讐する為、俺は地下格闘技場で戦い続けてきた。今日の相手は300戦無敗、正体不明の絶対王者。この日を俺が何年待ったことか。 「よう。クソ親父」 殺意を込めて王者を睨み付ける。 「よくぞ来た。我が息子よ」 真横でレフェリーが答えた。
「地元が少し特殊で、大家にバレると入居を拒否されちゃうんですよ」サークルの後輩は苦笑するが、そんなのまったく笑えない。出身地で人を差別するなんて、悪しき風習もいいところだ。「じゃあ今は実家から通ってんの?」「はい。若干遠いですけど、米花町から──なんでちょっと距離取ったんですか」
午前六時半。けたたましい悲鳴で俺は目を覚ました。かつてこの部屋で亡くなった女性の声とのことで、どういう理屈か入居者にしか聞こえないらしい。俺は欠伸をしながら起き上がると、出勤の準備を始める。「明日は休みなんで9時半頃にお願いします」照明が二回点滅した。了承の合図だ。本当に助かる。
『レンタル父の仇』を始めたら思いの外ウケた。基本的には依頼者の行動範囲を事前に聞き、その周辺を厳つい格好でうろつくだけだ。私を見つけた依頼者たちは楽しそうに「父の仇!」と叫んでくる。そばの人間が「復讐はなにも生まない!」と止めることも多い。「あの日のガキか」と返すのも大事な仕事。
「私は無駄が嫌いでね」 「はい」 「浪費癖のある無能は不要。君たちスタッフに求めているのは下品な華美ではなく、突き詰めた機能美だ」 「はい」 「会話とて同じこと。無駄なく有意義な時間にしたい。わかるね?」 「はい」 「よろしい。端的に、結論のみを」 「田中課長が爆散しました」 「過程を」
「俺も高校のとき、どっちが先に恋人作るかで幼馴染みと勝負したなぁ」学園ドラマを見ながら呟くと、娘から「興味ない」とツッコミが来る。我が子ながら手厳しい。「……お父さん勝ったの」「気になるんじゃん」「うっさい」苦笑しつつちらりと台所を見る。後ろ姿だが、妻の耳は真っ赤だ。「引き分け」
「今の若い子たちはゲーム実況なんて見て面白いのか?お父さんは好きだけども」飲んでいたお茶を吹く。聞き間違いだよな。「親父、ゲーム実況好きなの?」「は?昔から見てるだろ」不思議そうにしながら、親父はテレビのチャンネルを変えた。『先手、7六歩。堅実な立ち上がりです』将棋中継が映った。
村では何年も何年も手酷い迫害を受け続け、やっと逃げ出せたかと思えば山賊に捕まる。俺の人生はいったいなんだったのだろう。檻の中で自身の運命を嘆いていると、山賊の頭領が野太い声で脅してくる。 「妙な気は起こすなよ。少しでも怪しい動きをしたら、お前の故郷を火の海にしてやる」踊りますね。
警察に任せるべきだった。探偵の胸に後悔が押し寄せる。村に伝わる奇妙な手鞠歌、謎を匂わせ消える住人たち、狐のお面を付けた黒衣の男。まさかこの三つに繋がりがなく、それぞれ別個の問題だったとは。 村起こしの為に歌を捏造するな。 ただの旅行を意味深に言うな。 マスク代わりにお面をかぶるな。
大金持ちになったものの、正直やることがない。物欲も薄い。だからなんとなく、家の地下に『漫画とかで奴隷がグルグル回す棒のやつ』を作った。回すと地下室の電球が点く。これがまさかの大ウケ。遊びに来るとみんな大喜びで回している。「やっぱ大金持ちの家ってこういうのあるんだな!」ないと思う。
ついに人間のほとんどから仕事を奪うAIが完成した。「私は幼い頃より働くことが大嫌いでした。だから10年だけ頑張って、このAIを創り上げたのです。さあ、新たな時代を迎えましょう」開発者の言葉通り世界は一変、遊び呆けるだけの人生に人々は歓喜した。尚、開発者はメンテナンス等で今も働いている。