親父が家族に隠れてなにをしていたのか、それを知ったのは葬儀も済んだ頃だった。泣き崩れる母、あまりの衝撃で固まる妹。代理人を名乗る男は、沈痛な面持ちで俺に語りかける。 「息子に継いでほしいと、遺言書にはそう書かれています」 無茶だ。正気の沙汰ではない。 「俺に魔法少女をやれと……?」
私はファンタジー小説を投稿しているのだが、あまり反応がよくない。故郷が燃えたり、酷い迫害を受けたり、主人公に辛い試練を与えすぎているのが原因だろうか。四苦八苦していると、なんとコメントがついた。うきうきしながら見に行く。『貴方は辛い人生を送ってきたのですね……』自叙伝じゃねえわ。
仕事をクビになり、電気やガスも止められた。死を悟った俺は、昔入手した呪いのビデオを見ることにした。壊れたはずのデッキはするするとビデオを呑み込み、コンセントの抜けたテレビに井戸の映像が映る。這い出てきた黒髪の女は画面から身を乗り出したが、「いや暑いわ」と呟いて井戸に戻っていった。
「へー、オッサン偉いんだな」 「貴様、陛下になんと無礼な!」 「よせ。堅苦しいのは私も苦手だ」 ……その日の夜、王様はベッドの中で考える。『あの対応は少し甘すぎたかも。でも敬語を強要するのは器が小さい感じがするよな。嫌だなぁ、明日から臣下にタメ口使われたら。怒るに怒れないし、気が重
古い霊峰に住む竜は、世話係として遣わされた少女に問いかける。「私が怖くないのか」少女は震え声で「はい」と答えた。なんとわかりやすい嘘か。もし役立たずなら、寄越した村の連中ごと灰にしてやる。そう決めてから一年。働く少女に、竜は再び問いかける。「私が怖」「気が散るので黙ってて」はい。
「いろんなイケメンに主人公が惚れられる、女性用のゲームってあるだろ?」乙女ゲーのことか。「うん。で、いろんな美少女に主人公が惚れられる、男性用のゲームもあるじゃん」ギャルゲーな。「そう。そのキャラたちで合コンする、スマブラみたいなゲームを作ろうと思う」なんでそんな酷いことするの。
『美男×美女』 #140字小説 #140文字小説 #140字ss ※この話は創作です。
「幽霊とか怖くないんで。いたらぶん殴ってやりますよ」酔った後輩がそんなことを言い出すので、近隣の心霊トンネルに放置してきた。大回りし、出口で待つこと数十分。中からすごい勢いで走ってくる後輩。よく見れば片頬が腫れている。「カウンター食らいました。なんか格闘技かじってますよ、あいつ」
友人のアパートへ遊びにいくと、引っ越しの相談をされた。正直この部屋のなにが不満なのかまるでわからない。立地もいいし、家賃も安い。それにさっき見かけたが、隣室は美人な女性だった。男子大学生の一人暮らしには理想的すぎるだろ。しかし、友人は首を横に振る。 「隣、空き部屋のはずなんだよ」
霊感がある友人と心霊スポットに来た。「なんか見えるか?」声に反応して友人はこちらを向く。が、どうもその視線は俺より手前を見ている。まさか俺とお前の間に霊がいるのか。「いるというか──あ、すいません──ライブ会場みてえな──ちょっと通して!──感じだわ」近づくのにかき分けるレベル?
『消える魔球』を武器に、先の甲子園では完全試合を量産した天才ピッチャー。日本中が沸く中、本人は「凄いのは僕じゃなくてキャッチャーの田中です」と謙虚な姿勢。「確かに田中くんも優秀だけど、君の魔球があってこその偉業では?」 「あいつの『現れる捕球』がないと、ボールが消えたままなんで」
私の家は呪術師の家系だ。本当に効果のある呪いだっていくつも知っている。私は嫌いな男子の顔写真を手に入れると、藁人形に添えて五寸釘を打ち付けた。翌日、明らかに標的の顔色が悪い。友人たちに相談を始めたので、聞き耳を立てる。「なんか胸が痛え」ざまあみろ。「これが恋か」おい待て落ち着け。
コンビニでバイト中、着物にちょんまげの男がすごい勢いで詰め寄ってきた。「つ、つかぬことをお聞きする!今はいったい何年でござるか?」なんだこいつ。なにかの罰ゲームだろうか。「2022年ですが」それを聞いた男は崩れ落ちる。迫真だけど、まさか本物の侍? 「に、二百年前だと……」 未来人……?
「知人の女王様のところで、しばらく豚として室内飼いされてたんだけどさ。時が経つにつれて優しくなっちゃって。ついには『夜、なにが食べたい?』なんて聞かれたから、堪えきれずに逃げ出したよ。女王様は豚野郎に意見など求めない」 「……そうなんだ。大変だったね」 「そう。その目が欲しかった」
「これ全部万引き対策ですか?」俺の質問に、店長は鼻息荒く頷く。「もう許さん。盗めるものなら盗んでみろ」明日から監視カメラは三倍、万引きGメンは客より多く配備し、暇さえあれば店長が巡回するらしい。こりゃ確かに鉄壁だ。「じゃ、鍵よろしくな」上機嫌な店長は帰ったので、俺は金庫を開けた。
「これが21世紀の日本か!」感嘆の声をあげた彼らは、なんと数百年後の日本からタイムスリップしてきた未来人らしい。「なぜこの時代に?江戸時代とかの方が面白そうだけど」私の疑問に一人の青年が答える。「観光ではなく勉強旅行なので。日本史の教科書だと、21世紀のページは全部黒塗りなんですよ」
「最近の若い子に多いんだよ。『牙を突き立てるのは人間が可哀想』って嫌がるタイプの吸血鬼」繊細だよねえと彼女は笑う。こちらでいうヴィーガンみたいなものだろうか。そういった穏健派が増えるのは、人としてはありがたいものだが。「だから献血バスとか襲うんだってさ」過激の極みじゃないですか。
「プロデューサーとかマスターとか、ソシャゲの主人公が務めそうな役職ってもうネタ切れしてるよな」 キャラに呼ばれても違和感なく、加えて特別感のある名称。指揮官や先生は既にあるよなあ。唸る俺の横で友人が呟く。 「……教祖?」 「ログインボーナスが笑えなくなるし、金を払うのは俺らじゃん」
「この前、凄い長髪のお客様が来てさ。『諸事情で短くしたい』って言うからサイドを刈り上げたら、右のこめかみに『殺』ってタトゥーが入ってて。ビビりながら左も刈り上げたんだけど、そしたら今度は『不』って彫られてて。なんだ『不殺』かってホッとしちゃったよ」 なんにせよカタギではなくない?
『お前が糖尿になったら、目の前でホールケーキ食ってやるよ』小太りの友人をそうからかってから一年。まさか俺が先に糖尿病になるとは。「びっくりしたよ。まあ、俺も結局なったんだけど」友人は朗らかに笑うが、言い返す気力もない。「それはともかく」目の前に小綺麗な箱が置かれた。「約束だから」
「お前んとこ、兄妹仲いいよな。『兄さん』って呼ばれてるやつ初めて見た」俺の素朴な感想に友人は苦笑する。「いろいろあってね。呼び方も最初は『にぃに』から始まり、『お兄ちゃん』『兄貴』『お前』『ゴミ』『我が神』を経てようやく『兄さん』に落ち着いたところで」反抗期のあとになにがあった。
「お母さんもな、昔は美人だったんだよ」お猪口を片手に、しみじみと親父が呟く。既にかなり酔いが回っているらしい。お袋がこの場にいなくて本当によかった。げんなりしながら俺は釘を刺す。「その話はもういいから。それ以上は絶対にやめろよ」「今は美の女神だけど」「やめろって言ったじゃん……」
幼い頃、未来の俺と夢で話したことがある。「いいか?小遣いは全部カードの購入に使え。そして開けずに綺麗な状態で保管しろ」言葉通りに動いた結果、十年後にカードは小遣いの何十倍もの金となった。ただ、心は満たされない。その日の夜、夢で幼い俺と会った。「友達とカードで遊んどけ。今を楽しめ」
とある絶滅種の生存が確認されたと聞きつけ、私はすぐに某県の山中に飛んだ。「私も目を疑いました。なにせ十年以上見ていませんでしたから」発見者から事情を聞いていたそのとき、遠くの茂みががさりと揺れた。現れたのは特徴的な角、謎の黄色い服。まさか本当に生きていたなんて。「地デジカだ……」