76
ことを伝えました。黒猫が狐と話さないのは、きっと狐に腹を立てているからだ、と。いつでも帰ってきていいなんて調子のいいことを言って姿を消した仮の…保護者に怒っているのだろう、と。ごめんな、ごめん、と繰り返す狐の肩を大きな手が掴みました。「怒ってますよ!」という怒鳴り声とともに。
77
です。
多分、聞かなければいけないことや、謝らなければならないことがたくさんあると思いました。が、今だけは、その全てを忘れて狐は黒猫を抱きしめました。黒猫の大きな腕が、今は小さくなってしまった狐の背中に回りました。その腕の、たしかな温もりを感じながら、
78
大きな体を両手で包んであげました。
「黒猫」
うっうっ、と泣く黒豹を、狐は「黒猫」と呼びました。「俺の黒猫」と言って額を舐めてやると、黒豹はますます泣きました。もう首に回らなくなったのであろう鈴の付いた首輪は、手首にしっかりと巻かれていました。そこにいたのは、間違いなく狐の黒猫
79
狐は「ありがとう」と言いました。どうしてこんなに大事な言葉を忘れていたんだろうと不思議に思いながら、「ありがとう、黒猫」「ありがとう」と何度も何度も繰り返しました。こんなにも透き通ったありがとうを言うのは人生で二度目でした。
初めて混じり気のない「ありがとう」を聞いたあの時のよう
80
に、彼の耳にもそんなふうに聞こえていたらいいなと思いながら、狐は「ありがとう」ともう一度伝えました。
狐の耳には、ちりちりと可愛い鈴の音が、いつまでもいつまでも、途切れることなく響いていました。
終わり
81
そういえば。狐は黒猫に「せめて、体がすっかり良くなるまでは」と泣きつかれて、静かな草原に建つ小さな家に住んでいます。黒猫が用意してくれた家です。あまり広くはありませんが、まだ明るい光に慣れずよろよろよたよたしてしまう狐には丁度いい広さです。黒猫は何があっても毎日帰ってきます。
82
兄(7歳上)の友達の事が小学生(相手は高校生)の時から大好きで大好きで仕方ない男の子。まぁまぁ早い段階で「これは恋だな」って自覚して相手が大学生になっても社会人になってもどうにかこうにか繋がりを作って親しくして兄抜きで遊んで貰うようになって、押しに押しまくって土下座して「付き
83
親の再婚でドラゴンと義兄弟になっちゃった人間の男の子……のほがらか兄弟話。お兄ちゃんは二足歩行のドラゴン(服は着てる)で、優しくて穏やかで大きい。夏の暑い日、男の子が畳の上でだら〜っと昼寝してたら急に体がヒヤッとなって。びっくりして飛び起きるとお兄ちゃんが尻尾で男の子を包ん
84
「一回だけ抱いて欲しい」って受けがお願いしてさ。基本的に来るもの拒まない攻めは「うーん?」って思いながらも今まで親友だと思ってきた受けを抱いてあげる。それがあまりにもしっくりくるもんだから「いい感じだし、またしようよ」って言っちゃう。と受けが真っ直ぐな目をして「じゃあ恋人になり
85
困らせて悪かったな」って。別に、恋人になってやってもいいのになぁ〜まぁ体の相性はいいんだし、また機会はあるだろ…ってふわふわした気持ちで寝て、目を覚ましたら受けはもうどこにもいなかったって話。
これまで友達として長い時間を過ごしてきて、色んな顔を見てきたはずなのに、思い返すと
86
たい、って言ったら?」って言って。思わず一瞬、ほんの一瞬だけど言葉に詰まってから「いや。まー…、うん、それもいいかも?」って言ってるうちに本当にそれがいい考えの気がして。「じゃあほんとに付き合っちゃう?」って半ば冗談っぽく言ったら、受けは優しく笑って「ううん」って言う。「大丈夫、
87
浮かぶのは「恋人になりたい」って言った時のあの真っ直ぐな目。
数年後、風の噂で海外のとある場所で見かけたって聞いて、居ても立っても居られず探しに行く。真っ直ぐなあの目に、ちゃんと真っ直ぐな気持ちで答えるために。
88
生贄ちゃんの話。
村長のとこの長男なのに山の神の生贄になることが決まった生贄ちゃん。自分より逞しく賢く育った弟に「お兄様、村のことは僕に任せて。安心してお役目果たしてきてね」なんて涙ながらに言われて「ふん。嘘泣きすんなクソガキ」って返してから、ずんずん山の中に入って行く。
89
昔から綺麗だ綺麗だと褒めそやされて生きてきた美少年。やたら褒められて育ったせいか、顔はいいけど自信家の高飛車な性格に。で、そんな高飛車美少年君は、高校に入学してやたらときらきらしている男子に一目惚れする。外国の血が入っているという薄茶色の髪をした彼は、黒髪黒目で儚い顔立ちをした
90
陰キャくんの片思い。
陰キャくんは見事な陰キャだった。運動は嫌い、勉強も苦手、制服を着崩すこともなく、学校指定の鞄を使ってる帰宅部。そんな感じ。高校1年生の時は友達と呼べる友達もおらず、日中は本を読んでお弁当の時間は同じくあぶれた感じのクラスメイトとなんとなく一緒に食べて過ごした。
91
めっちゃ綺麗で可愛い子に目をつけた神様が「こいつ嫁にする!祝福かけといたろ〜」って「わるいやつがさわろうとするとあいてがけがする」っていう魔法をその子にかけて。じゃ、育つまでちょっと寝るかな〜って寝たらあっという間に10年ちょっと経ってて。あらま昼寝しちゃった(神様感覚)〜、そういや
92
生真面目な仕事馬鹿の男が路上で行き倒れてた男を拾ってなんやかや面倒を見ることになって。実はその行き倒れ男は有名なミュージシャンなんだけど、仕事馬鹿は仕事一筋なので男のことを知らないっていう。「俺のこと知らないの?」「知らん」「音楽とか聴く?」「クラシックは好きだ」みたいな。で、
93
ハロウィンの仮装に紛れてやってくる人外ほんと好き。数百年眠ってた吸血鬼が嫁探しにやってきたらまさに街はハロウィン一色で。女装した大学生♂に一目惚れして「其方、我の嫁になれ…」みたいな。血を吸ってほにゃってるところをさらってきた…はいいもののひんむいてみたら
94
托卵された鳥獣人、他の種の卵に紛れ込んでピヨって生まれる…んだけど、そこはなんとドラゴンの巣。他の兄弟と見た目もサイズも違いすぎる。けど、両親は「うん、まぁうちの子」って大らかに育てるし、弟四匹は「にいちゃんにいちゃん」って慕ってくる。一番に飛べたし、身軽だし、「ふふん俺は兄弟の
95
上位互換に立場乗っ取られ系の転落くん好き。
学校で「イケメンで勉強も出来てスポーツもできるなんてすごい!」ともてはやされてたのに、季節外れにやってきた転校生がそれを上回る秀才美形スポーツ万能くんでめこめこに打ちのめされて。こ、こういう奴は性格が悪いんだ俺知ってんだ…!って
96
97
美人な弟のことが大好きなお兄ちゃん。その可愛い見た目から何かと厄介ごとに巻き込まれやすい弟を守るために青春の全てを捧げていた、ら…ある日「兄さん、俺恋人ができたから。もう大丈夫だよ」って天使みたいな笑顔で言われて。え、え、朝起こさなくていい?登下校も別々?休み時間も来ないで?
98
基本的に誘われれば誰でも抱いてあげる、顔はいいけど風船より軽い男。でも誰とも付き合う気はない。ある日、長年の友達の友達くらいの立ち位置と思っていた真面目で大人しそうな男に「抱いて欲しい」と言われて驚く…けど、まぁよくあることなので「いいよ〜」って抱いてあげて。けど慣れてる感じじゃ
99
金持ちの子息Ωくん、パパに「誰と結婚したいとかある〜?みーくん(本名美鶴くん)なら選り取りみどりだよ〜」と言われて、Ωくんモジモジしながら「うちのクラスの委員長」って言う。その委員長っていうのが、αなんだけど家が貧しくてバイト掛け持ちして特待生で学校通ってるっていう苦労人で。
100
名家のΩなので発情期を迎える前に「どうぞどうぞ。まだ誰も手をつけておりません真っ新なΩです」って貢物みたいに良い家のαに嫁がされる…んだけどこのαがもう絵に描いたような第二性差別主義者で、Ωのことを物のように扱ってくる。「お前はただの子を産むための道具だ。発情期が来たら孕むまでは